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熊王伝  作者: ウル
モンスター部隊初出動
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80グレアス隊長奮闘記

登場人物

ガイン   主人公・エルモンドモンスター部隊副大将(★4アルカス)

パワー   ガインの兄貴分でエルモンドモンスター部隊大将(★4モサ)

オーウェル メキロ家当主でエルモンド領主18歳(人間)

グレアス  エルモンド衛兵隊長19歳(人間)

ダルトン  エルモンドモンスター部隊の世話役(人間)

アラン   エルモンドモンスター通訳担当(人間)

ヴァディス モンスター部隊長(★4シルバードラゴン)

ホーク   モンスター部隊長(★4シムルグ)

サラ    モンスター部隊長(★3ライガー)

ウィル   モンスター部隊長(★3グリズリー)

ゼル    モンスター部隊長(★3グリズリー)

アリサ   モンスター部隊長(★3グリズリー)

 次の日の朝、俺は1匹で隊員の訓練場所に向かう。

 隊員達は、いつも通り全員訓練所で待っていた。


(ガイン様、パワー大将がいないのはウル様への対応ですか?)

 今日は開口一番で、ウィル隊長が聞いてきた。

 ウィルは俺の元子分だから聞きやすいからなのか、こういう時に全員が聞きたいであろうことを俺に聞いてくることが多い。


(ああ、そうだ。

 俺達も準備することがあるぞ。)

 俺は、それだけウィルに答えると、


(今日は大事な打ち合わせがある。

 隊長達はこれから打ち合わせをするぞ。

 他の者は、周りで聞いていてくれ。)

 俺は、全員に向かって言う。

 隊員だけはいつも通り訓練をしてもいいのだが、殆どの部隊員はまだ隊長がいないと技の訓練ができないからだ。

 それに、ウル様は俺達モンスターにとって英雄にも等しい。みんな動向が気になっているだろうから、俺の話を聞かせることにした。


 俺と隊長達が中央で打ち合わせ、隊員達が周りを取り囲んだ状態で打ち合わせを始める。


(昨日の領主の館での打ち合わせで、ウル様を攫ったのはノリクかエルシアのどちらかだと判明した。多分ノリクだろう。昨日のうちに調査のため専門部隊が出動済みだ。

 俺達は俺達のできることをするぞ。

 ウル様は、ノリクと戦うための道筋を残してくれた。

 エルシアの向こう側のノリクの一族がいるファーレンを占領する。ファーレンのさらに向こう側のピュートル公という貴族とは同盟済みだ。挟み撃ちができる。

 ファーレンを取れれば、ノリクに不満がある貴族を一斉に蜂起させてノリクを倒すことができる。

 だが、ファーレンを攻撃するにはエルモンドは遠すぎる。領主のオーウェル様は、エルシアの近くに本拠を移すそうだ。

 俺達モンスター部隊は、エルシア近くの前線で戦う部隊とエルモンドに残ってエルモンドを守備する部隊に分かれることになる。

 今日は、その部隊の分け方を決めるための相談をする。)

 俺は、隊長達に昨日の概要を話す。


(全員を前線に向かわせるわけにはいかねえのか?

 前線でも訓練はできるだろうし。)

 ゼルが最初に口を開いた。


(それができればいいんだがな。

 奥地で比較的安全とは言え、このエルモンドの町も守らなければならない。

 今パワー大将が冒険者部隊と調整をしているが、冒険者部隊もある程度エルモンドに残ることになる。モンスター使いもな。

 だから、技のコーチができる者をどうしても少しはエルモンドに残す必要がある。

 ★1の子供達の訓練もしないといけないしな。)


(それでは、私が他の部隊の★1の子供達を引き受けて残りましょう。

 うちの隊では、コーチの育成も始めていますので。)

 ヴァディス隊長が言う。

 俺が落としどころにしたいと思っていた結論を先にヴァディス隊長が言ってくれた。ありがたい申し出なので、その方向で進めることにする。


(そうだな。

 前線にはなるべく多くの部隊を連れていきたいから、そうしてくれると助かる。

 最初はコーチの負担が多いと思うが、コーチを育成して体制を整えてくれ。頼むぞ。

 冒険者部隊の方にも当面の補佐を頼んでみる。)


(それでは、全部隊の★1モンスターをヴァディス隊に移し、エルモンドはヴァディス隊に任せる。

 残りの全部隊で前線に移動と言うことかしら?)

 サラ隊長が聞いてきた。


(異論がなければ、サラ隊長がまとめてくれた方針で行くが、意見はないか?)

 俺は、残りの隊長にも確認を取る。

 特に異論はなく、部隊編成の話はすぐにまとまった。


(それでは、★1の者達は、今日からヴァディス隊に入ることになる。

 ヴァディス隊長に従って、訓練に入ってくれ。

 何か問題があれば、報告をくれ。

 では、今日の訓練に入るぞ。)

 俺は号令をかけるが、


(待ってくれ。

 今日は、ガイン大将に相談があるんだ。

 モンスター部隊も町の巡回を行いたい。)

 ホーク隊長が言ってくる。


(何かあったのか?)

 俺が理由を聞くと、


(ホーク隊は、全員が飛行モンスターだから、空からの巡回ができる。

 交代で巡回をしていれば、ウル殿が攫われることがなかったかもしれない。

 町の衛兵で回れない部分を俺達モンスター部隊で巡回するようにして、同じような事件は防ぎたいんだ。)


(ホーク隊長、それはいい考えだ。

 俺が後付けで許可を取りに行くから、試行で巡回してみてくれ。

 試行で出た問題を検討して、実際の運用を考えよう。

 ただし、訓練がおなざりにならないようにな。)

 俺は、ホーク隊長の提案がとても気に入ったので、すぐにOKを出した。

 隊長がこのように自分で考えて意見を出してくれるようになってくれたのが素直に嬉しかったというのもあるが。

 他には意見が出なかったので隊員には訓練に入ってもらい、俺は巡回の許可の調整を取りに行くことになった。



 とりあえず、パワーの兄貴に報告がてら冒険者部隊のところに行くか。

 冒険者部隊はもともと冒険者ギルドだったところをメキロ家が部隊として雇い上げた組織だ。

 建物は以前通り冒険者ギルドと呼ばれている。

 冒険者ギルドに来ると、兄貴が2人のモンスター使いを連れて出てきた。

 連れているモンスターが★3シルバーウルフと★3フリカムイか。1人で1匹だけとしか契約していないのは珍しいな。


(ガイン、来たのか。

 モンスター使いと契約しているモンスター2匹が当面コーチを手伝ってくれることになったぜ。

 こちらの★3シルバーウルフがネル。隣がマスターのエレンさんだ。

 こちらの★3フリカムイがヴィルガ。そしてマスターのレミさんだ。)

 兄貴が俺に気付いてコーチの協力をしてくれるモンスターとそのマスターの紹介をしてくれた。


(ネルだ。)

(エレンです。)

(ヴィルガよ。)

(レミです。)

(ガインだ。)

 紹介された2人と2匹が名乗ってきたので、俺も名乗る。


(兄貴、★1モンスターを全員ヴァディス隊に移し、エルモンドにはヴァディス隊だけが残ることになった。

 そうなると、コーチがヴァディス隊長だけになるから、手伝ってくれるとありがたい。

 で、こちらに来たのは、ホーク隊長に空から町の巡回をしたいという申し出があったから許可を取りに行くつもりだが、先に兄貴に報告しにきた。)

 俺は、コーチの応援にお礼を言いつつ、兄貴に事情を話す。


(そうか。

 それじゃあ、ホーク隊の巡回の件は先にオーウェルさんに話してから調整してくれ。

 俺様は、このまま部隊に戻って応援してくれるコーチの紹介をしてくる。)

 兄貴は俺に人間の部隊との調整を任せてくれた。

 俺も兄貴がいないときにはしないといけないから、その練習も兼ねてだろう。


 俺は領主の館に向かい、通訳のアランさんに事情を話してオーウェル様に会う。

 しばらくして、俺はオーウェル様の部屋に通されたが、オーウェル様の机の上に狼の生首が乗っている。

 俺の知る限り、オーウェル様にそんな趣味はなかったはずだし、オーウェル様はモンスターに残酷な仕打ちをするような人じゃない。にも拘わらず、机の上に狼の生首。


(オーウェル様、机の上の生首はなんですか?)

 俺は気になって用件よりも先に生首について聞いてしまった。


「生首?

 ああ、確かにそう見えないこともないですね。

 ケルティクですよ。顔に見覚えはないですか?」

 オーウェル様は驚いた様子もなく言ってくる。


(オーウェル様、ケルティクに何をしたのです?)


「これは、ケルティクのディバイドボディーと言う技ですよ。

 体の一部を一時的に切り離して、別行動をさせることができるのです。

 ケルベロスは技で首を3つに増やせますから、ディバイドボディーで2つの首を分離して、連絡調整に使っているのです。

 ケルティクがここにいる首に意識を移せば、喋ります。

 これにより、ケルティクが遠く帝都で調べた内容を時間をおかずにエルモンドまで知らせることができるのです。

 そして、ウル殿について何か分かれば、すぐに私に知らせてくれることになっています。

 意識がこちらにある間はケルティクの本体が無防備になりますので安全な場所でしか使えませんが。」


(驚いた。死んでいるのかと思ったぜ。)


「死んでいるって、それじゃあ私がケルティクを殺したみたいじゃないですか。

 大丈夫ですよ。ちゃんと生きていますから。

 ただ、今は首だけの無防備な状態ですので、この部屋に敵が入って来たら一発で殺されます。

 ですので、交代で常時この部屋を警備しています。」

 そうだよな。

 オーウェル様が、ケルティク殿を殺すとか有り得ないよな。


(それを聞いて安心した。

 今日は、この町の警備について相談したいことがあって来た。

 モンスター部隊にも町の巡回をさせたい。

 空から巡回する部隊がいれば、ウル様は攫われることがなかったかもしれない。

 それ以外にも怪しい匂いを発見出来たり、速く走れたりと、それぞれのモンスターの得意分野を生かすことができると思うからだ。)

 一安心したところで、ようやく本題に入る。


「ガイン殿、それはいい考えですね。

 モンスター部隊が実際に動けるようになってきたのですね。

 大変だったでしょう。

 現在の巡回は衛兵隊がしていますので、衛兵詰所でグレアスと調整をしてもらえますか。

 アラン、私が了承した旨を衛兵詰所に伝えてください。」


 オーウェル様は、俺達モンスター部隊がここまで来るのに色々苦労してきたことをよく分かっていて、常に労いの言葉をかけてくれる。

 俺達を厄介者としか見ていなかったハイネの某領主とは大違いだ。

 そう考えると、エルモンドの町は俺にとって、初めての故郷だと思える街だと思う。

 だから、俺はこのエルモンドの町を守りたいと思ったし、そのために頑張ろうとも思った。


 オーウェル様の了承を得たので、次は衛兵詰所だな。

 俺は通訳のアランさんを連れて衛兵詰所に向かった。

 詰所に行くと、ライオス副隊長が何人かの小隊長に講義を行っていた。


「ライオス副隊長、お取込み中に申し訳ないのですが、

 オーウェル様の了承も得ていますので、この町の巡回の件で相談をさせていただきたいのですが。」

 通訳のアランさんが話してくれる。

 俺も人間の言葉を勉強したので、特殊な言葉以外は理解できるようになった。


「グレアス隊長はどこだ?」

 ライオス副隊長が聞く。


「2階で何か書物を読み込んでいましたが。」

 1人の小隊長が答える。


「またか。呼んできてくれ。」

 ライオス副隊長に言われて、小隊長の1人が呼びに行った。

 すぐにグレアス隊長が下りてきた。


「すまねえ。

 ライオス、どうした?」

 グレアス隊長が聞いてくる。


「モンスター部隊のガイン殿が巡回の件で相談があるそうなので、対応をお願いします。

 私は、小隊長への講義の途中ですので。」


「分かった。聞いておくぜ。 

 それじゃあ、ガイン、アランも上に行くか。」

 グレアス隊長がそう言うので、俺達は2階に上っていった。

 通訳のアランさんが全て話してくれたので、俺は一言も喋っていない。


 2階の1つの部屋に入ると、書物らしきものが散乱している。

「モンスター部隊も町を巡回してくれるのか?」

 グレアス隊長が聞いてきた。よく分かったな。


(よく分かったな。

 その通りだ。

 まずは、ホーク隊に空から巡回させたい。

 準備ができ次第、他の部隊にも巡回をさせる。)

 アランさんが、通訳しようとするが、


「アラン、大丈夫だ。

 ガインの話の内容は分かっているから。」

 グレアス隊長が言う。

 確か、グレアス隊長って、モンスターと会話ができないと聞いていたが。


「空からの巡回は、今の衛兵隊との巡回とは被りようはないよな。

 すぐにやってくれて構わないぜ。

 それと、1日1回、お互いに情報交換をしないか。

 他の部隊についても、その時に調整をしたい。」

 グレアス隊長が続ける。

 俺は、グレアス隊長は統率が苦手だと聞いていたのだが、全然そんなことないじゃねえか。


(話が早くて助かるぜ。

 お互いに今日あったことを情報共有するのもいいな。

 それじゃあ、また夕方に来るぜ。)

 すぐに用件が片付いたので、俺達は衛兵詰所を後にした。


「ガインさん、グレアス隊長が変じゃないですか?」

 アランさんが、歩きながら俺に聞いてくる。


(俺は普段殆ど会わないから何とも言えないが、聞いていたよりも話が早くて助かったな。)

 俺は答える。


「グレアス隊長は腕は立つのですけど、判断とか統率とかは苦手だった気がしたのですが、今日は別人に見えました。」


(まさか偽物だとか言わないよな?)


「実は、真面目にそんな気がして。

 あの人は魔術も学んでいないはずですから、モンスターの言葉も分からないはずですし。」


(偽物と取り換えるなら、あからさまに疑われることはしないだろ。

 兄貴は調整とかで頻繁に会っているはずだから、念のため、夕方の情報交換する時に兄貴に匂いを確認してもらうか。)


「そうしてください。

 気になりますので。」

 アランさん、そこまで言うか。

 グレアス隊長も頑張っているのだろうに、まともな判断をするだけでここまで疑われると、俺はグレアス隊長が不憫に思えてきた。



 俺はアランさんと部隊の所に戻ると、兄貴が待っていた。

 ネルコーチとヴィルガコーチも入って訓練を進めているようだ。

 空を見ると、ホーク隊のメンバーがエルモンドの町上空を巡回しているのが見える。

 ノリクと戦うためには、こういう努力を一歩一歩進めていかないとな。


(ガイン、衛兵隊の方はどうだった?)

 兄貴が聞いてくる。


(ホーク隊の巡回については、グレアス隊長に了承してもらったぜ。

 あと、1日1回夕方に情報交換をすることになった。

 今後、他の部隊の巡回を進める件も、その時に話をすることになったぜ。)

 俺は、結果を報告する。


(順調だな。お疲れ。

 それじゃあ、他の部隊についてどうするか考えるか。)

 兄貴が言ってくるが、


「ガインさん、グレアス隊長の件について話さなくていいですか?」

 アランさんが言ってくるので、


(何かあったのか?)

 兄貴が聞いてきた。


(そうだったな。グレアス隊長が頼もしくて別人みたいだから、よく会っている兄貴に偽物じゃないかどうか、念のため匂いで確認してほしい。)


(グレアス隊長は、ドンロンでジェラ隊長の統率を見てきてこのままじゃいけないと言って、書物を色々オーウェルさんの館から持ち出して頑張って勉強をしてたぜ。

 頑張ったら偽物だと疑うのは失礼じゃねえのか?)

 俺も、多分兄貴の言う通りだと思う。


(アランさんが心配してるので、匂いの確認だけはしてくれねえか。

 それだけなら、本人に何も言わなくても確認できるだろ。)

 とは言え、俺もアランさんに言ってしまった手前、引けなくなってそれだけは頼んだ。


(分かったぜ。匂いの確認だけな。

 どうせなら、別件も併せて聞きに行くか。

 他の部隊の巡回について検討するには、衛兵隊の今の巡回体制を聞いておいた方がいいからな。)

 兄貴がそう言うので、俺達は兄貴について再度衛兵詰所に行く。


 すると、詰所が慌ただしい。

 2階からグレアス隊長の叫び声が聞こえてくる。


(グレアス隊長に会いに来たから、入るぞ。)

 兄貴はそう言って2階に上がっていく。

 俺も続いて2階の部屋に入ると、グレアス隊長が苦しみながら倒れていた。

 周りにいる衛兵達もどうしたらいいのか分からずおろおろしている。


「くるしい。鎧に締め付けられる。」

 グレアス隊長が叫ぶ。

 よく見ると、グレアス隊長の手とか腕とかが大きくなってる。

 これは、ストレングスの技でもかけたのか。


(ディスペルマジック)

 兄貴が技をかける。

 グレアス隊長の体の大きさが元に戻り、グレアス隊長が静かになった。


「助かった。」

 グレアス隊長が言う。


(ストレングスでも試したのか?)

 兄貴が聞く。


「よく分かったな。」


(見りゃ分かるぜ。

 ストレングスをかけると体がでかくなるけど、着ている鎧は変わらないぞ。)


「そうなのか?」


(技の効果くらいはちゃんと確認してから試してくれ。俺様達が偶然来なかったらどうするつもりだったんだ?)

 と兄貴に言われ、


「やっぱり、本物のグレアス隊長ですね。」

 ようやくアランさんに本物認定を貰えたグレアス隊長だった。

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