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熊王伝  作者: ウル
モンスター部隊初出動
16/100

90境遇

登場人物

ガイン    主人公・エルモンドモンスター部隊副大将(★4アルカス)

パワー    ガインの兄貴分でエルモンドモンスター部隊大将(★4モサ)

ダガン    エルモンドモンスター部隊補佐(人間)

アンデルセン 魔術師・エルモンド冒険者部隊隊長(人間)


 捜索と捕虜の後処理で忙しい日も終わり、既に夕方近いが、今日はゆっくりと休めることになった。

 そして、今日からダガンも同じ部屋で休むことになった。


「パワー様、ガイン様、毎日こんな豪華な部屋で寝ているのか?」

 ダガンが聞いてくる。


(まあな。

 ここで毎日、人間の色々な知識を勉強しているからな。)

 兄貴が答える。


「なるほど、俺が完全に裏をかかれるわけだ。」

 ダガンが納得したように言う。


「聞きたいんだけどよ、パワー様も、ガイン様も、昔から賢かったのか?」

 ダガンが聞いてくる。


(な訳ないだろ。

 色々考えて勉強して、ようやくここまで来たんだ。)

 兄貴が言う。


「ずっと、エルモンドにいたのか?」


(俺様はな、もともと五島諸島で人間を襲って餌を奪っていたんだ。

 その頃は、あんまり考えていなかったな。

 ウル様に退治されて、ウル様の僕として契約して、一緒に冒険している間にウル様から色々教わって賢くなったんだ。

 それで、どんなモンスターも努力すれば賢くなれるんじゃねえかって思ったわけだ。

 そんな時オーウェルさんと出会って、モンスターが幸せに暮らせる国を目指したいと思って、ウル様と一緒にエルモンドにつくことにしたんだぜ。)

 兄貴は今まで自分の境遇を話さなかったからな。俺は初めて知った。

 それで、兄貴はウル様の僕として契約していたんだと。


(俺は、死んだ親父がハイネの前の領主と契約していたからな。

 ハイネで好き勝手やってたな。

 俺が怖くて誰も文句を言わなかったしな。

 一応、それでも俺なりに考えて、俺がハイネの町を守ってるんだって自負はあったんだぜ。

 だけど、今の領主がノリクを怖がってエルモンドへ行けって厄介払いさせられてな。

 ハイネの町を守っていたと思っていたのは俺の自惚れでしかなかった。

 結局、俺達モンスターは餌を貰える代わりに人間に使われるだけの存在だったんだなって思い知ったぜ。

 もう、どうでもいいやと思って、エルモンドで暴れていたらパワーの兄貴に叩きのめされてな。

 最初は俺を完璧に負かせた兄貴に興味を持って、ついて行ってみるかくらいのつもりだったんだけどよ。

 兄貴やウル様に話を聞いて、エルモンドでは人間に使われずにモンスターだけで動ける部隊を作ろうとしてると知ってな。

 エルモンドでなら、俺達モンスターも人間と対等に扱ってくれるかもしれないって思ったんだ。実際そうだったから、俺は本気でエルモンドを守ろうと思ってるぜ。

 実際にやってみると、モンスターだけの部隊を動かすのは大変だった。何も考えてない奴が少なくなかったからな。

 それでも、色々試行錯誤して何とかここまで来たんだ。その過程で色々考えて俺も賢くなったんだと思っている。)

 俺も自分の境遇を話した。


「俺は、生まれた時から山賊をやっていたんだ。親父が山賊のボスだったからな。

 子供の頃から力があって多少は頭が回ったから、親父が死んだらそのままボスになった。

 で、荒らし回ってるうちに捕まった相手がノリクでな。

 特殊部隊として活躍しないかと言われて、元部下と一緒にすることになったのさ。

 断っても殺されるだけだったから、選択肢はなかったけどな。

 任務に成功すると、10日ほどは食べ放題飲み放題でどんちゃん騒ぎができたから、それだけが楽しみだったかな。

 危険な任務が多いから、死んじまう部下も多くてな。補充はどんどん入ってくるけど、気付いたら盗賊時代の元部下は誰も残っちゃいなかった。

 で、昨日負けて、ついに俺の番も来たなって思っていたぜ。まさか、パワー様やガイン様の下で戦うことになるとは思っていなかったけどな。

 俺はずっと裏の世界でしか生きてこれなかったからな。表の世界で生きていくことに憧れていたんだ。

 エルモンドでなら、いつか表の世界を堂々と歩けるようになれるんじゃないかって思ってるぜ。」

 ダガンも自分の境遇を話してくれた。


 話を聞いてみると、俺達全員、はみ出し者だったんだな。

 それが、何かの縁で一緒になって戦おうとしてる。

 俺達が活躍できる場所を用意してくれたオーウェル様に感謝しないとな。


(お互いの生い立ちが分かったところで、打倒ノリク目指して頑張ろうな、相棒。)

 兄貴が俺とダガンの肩をぐっと掴んで言ってくる。

 俺とダガンはもちろんだと頷いた。


 そんなことを話していると、部屋の戸をノックする音が聞こえる。

「メアリです。皆さんの食事をお持ちしました。」


(そうか。入ってきてくれ。)

 兄貴が言うと、メアリが使用人を連れて俺たちの餌を持ってきてくれた。


 今日の夕食は羊の肉を煮込んだものに、フキをメインにした温野菜だ。野菜は温めてあると消化しやすいんだよな。

 もちろん図体のでかい俺と兄貴は大量に食べるので、それなりの量が用意されている。

 ダガンには、温野菜の代わりにパンが用意されていた。ナイフとフォークもだ。

 ちゃんとダガン用にも用意してくれたんだな。


「パワー様、ガイン様、毎日こんな豪華な飯を食ってるのか?

 俺なんか、こんな豪華な飯は任務に成功した時しか食べられなかったぜ。」

 ダガンが聞いてくる。


(俺もこっちに来るようになってから、餌が豪華になったな。

 隊員達には言えないけどよ。)

 俺が言うと、


(そうなんだ。

 俺様はエルモンドだとここでしか食べたことないから知らなかったぜ。

 前はどんな餌を食べてたんだ?)

 兄貴が聞いてくる。


(討伐の時に野営しただろ。

 あのときに食べたようなものだぜ。)

 俺が言うと、


(それなら、それなりのものは食べているんだな。

 俺様が野生でいた頃や、ウル様と旅してた頃よりは余程いいものを食べているからな。

 流石に俺様達だけ特別に贅沢な餌を貰っていると気が引けるが、ちょっと安心したぜ。)

 兄貴が言う。


「なんか、ノリクの特殊部隊にいた時よりも断然待遇がいいな。

 俺も最初からエルモンドにいたかったぜ。」

 ダガンが言う。


(代わりに、強大なノリクと戦争をするんだ。

 負けられないぜ。)

 兄貴が言う。


「なーに。今までもいつ死んでもおかしくない場所で生きてきたんだ。

 今更怖くはないぜ。

 いや、絶対に勝ってやるぜ。」

 ダガンが笑って見せた。


 餌を食べ終わって、俺達は人間の知識を学ぶ時間になった。

 最初の頃は人間の言葉を学んでいたが、それは分かるようになったので、最近では、内政官のネフェルさんが、色々な分野の講師を連れてきて、数日かけてその分野を学ぶということをしている。

 ここ数日は、冒険者ギルドの魔術師アンデルセンさんから魔法について学んでいる。

 先日の掃討でも第2グループの隊長をした実力者でもある。


 俺達はグレアス隊長のアドバイスで何とか魔法の発動はできるようにはなったものの、正式な知識を学んだほうがいいからだ。


「アンデルセンです。」

 戸をノックし、講師のアンデルセンさんの声が聞こえたので、部屋の中に入れる。


(待ってたぜ。

 今日も魔法の講義を頼むぞ。)

 兄貴が言う。


「こちらの方は、ガインさんが支配したという敵だった方ですか?」

 アンデルセンさんが聞いてくる。


(そうだ。今日からここで一緒に暮らすことになった。

 契約で支配しているから裏切る心配はない。

 別に聞いていても構わねえだろ。早速頼むぜ。)

 兄貴が言う。


「分かりました。

 私の講義は今日で最後になります。今日は、実践で使えるよう魔術の適正と訓練について話しますね。」

 アンデルセンさんは、兄貴の一言を聞いて何事もないかのように講義を始める。


「全ての人間には、能力に適性があります。モンスターでも同じだと思いますので、後程確認しましょう。

 一般的に武術に秀でている人は、魔術で大きな才能を持たず、その逆もしかりと言う場合が多いです。

 ですが、中には武術も魔術も両方得意と言う人も稀に存在します。

 その人達は特別なのでしょうか?

 確かに、才能の限度と言うものは生まれた時から決まっています。

 ですが、誰でも訓練である程度までは鍛えることができるのです。

 前回、ポケットの容量についての話をしましたね。

 限界について確認しましたか?」

 アンデルセンさんが聞いてくる。


(俺様の限界は、11レベル分だったな。)

 兄貴が言う。


(俺の限界は9レベル分だったぜ。)

 俺が言う。

 俺は、前回の講義を聞いた後、1レベルの魔法を同時に何個貯められるか試してみた。9個が限度で、それをすると、1レベル技の技の発動すらできなかった。


「俺は、25レベル分くらいは貯められるぞ。

 もう少しなら行けるかもしれねえが。」

 ダガンが言ってくる。


「一般的に、魔術を学んだばかりの方は2~3レベルが限界です。中には1レベル分が限界と言う人もいたりします。

 ですが、訓練を続ければ誰でも10~15レベルまでは引き上げることができると言われています。私は魔法が全く使えなかった戦士の方に魔法を教えて訓練したことがあり、過去に3人に教えましたが、全員最低でも12レベル分まではポケットを広げることができました。

 ポケットを広げる訓練は、そんなに難しい事ではないのです。

 限界まで魔法を準備し、そして実践で使う。この繰り返しが、最もポケットの容量を増やす訓練になります。実践でと言うのが重要で、無駄に魔法を発動させても中々訓練効果が得られませんでした。後程実際にやってみましょう。」


(魔術の才能があると、ポケットはどれくらいになるんだ?)

 俺は気になったことを聞いてみる。


「ある程度魔法に適性がある人が訓練すると50レベル分くらいまでは行けるようです。

 魔術師として冒険をしている方なら100レベル分近くまで行ける人も少なくないですね。

 ちなみに、私が120レベル分くらいですね。

 伝説の魔術師ノアは500レベル分以上貯められたと記録にあります。

 ですが、これは生まれながらの才能を訓練で引き出したからこそできることなのです。

 実際、誰でも訓練である程度はポケットを広がることができますので、訓練も大事です。」


(分かったぜ。

 俺様も訓練してポケット広げるぜ。

 あと、前回聞いた技を覚えた人間と言うのは記録上いないのか?)

 兄貴が聞く。


「記録上は残っていなかったですね。

 ですが、魔法を短い時間で準備して発動した人間の記録は何件もありました。

 本人達は技という認識がなかったのかもしれません。

 あるいは、あえて隠していた可能性も考えられます。」

 アンデルセンさんが答える。


「人間も技が使えるのか?」

 ダガンが聞いてくる。


(使えるぜ。グレアス隊長が覚えていたしな。)

 俺が答える。


「技は魔法と何が違うんだ?」

 ダガンが聞く。


(魔法のエネルギーをポケットにしまわず、そのまま発動させるんだ。

 途中で妨害されて失敗する可能性があるが、準備時間が短くて済むぞ。)


「早いのは便利だな。

 俺も覚えてみたいぜ。」

 ダガンが言う。


「実は私も興味がありますので、技を覚えてみたいですね。

 ポケットにしまわず、そのまま発動させる方法という内容に興味がありますので。」

 アンデルセンさんも言ってくる。


 この日、俺と兄貴は魔法のポケットを増やす訓練を見てもらいつつ、ダガンとアンデルセンさんに技を教えた。

 二人ともすぐに技の使い方を習得した。

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