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異世界からの侵略者 6


 警報が響く。


 同時に、ソファセットのテーブルの上に女性が出現した。

 三十センチくらいの身長で、半透明の。


 こんなサイズの人間がいるとも思えないので、龍哉は立体映像(ホログラム)とかそういうものなのだろうと推測した。


「艦長。歴史修正主義者どもの戦闘ユニットが接近しております」


 その立体映像が口を開く。

 口調こそ攻撃的だが、やや緊張を含んでいた。


「どうしてどうして動きがはやいの。さすがはネヴィル随一の闘将、疾風迅雷のアダルバート卿といったところじゃのう」


 対するイスカリオットは落ち着きはらって白いあごひげをしごいている。

 余裕綽々(しゃくしゃく)だ。


「おじいさま」


 叱るように睨みつけるマルグリット。

 すまんすまんとか良いながら老人が肩をすくめる。孫に弱いおじいちゃん、という風情である。


「儂は艦橋にいきますが、ご先祖さまがたも一緒にどうですかな? なんだかんだいうても、一番安全な場所ですぞ」

「……判りました」


 龍哉が頷いた。

 この客間みたいな場所にいても情報は得られない。

 自分の目で見なくては。


「すぐに席を用意させますかの」


 イスカリオットがにやりと笑う。

 茶色がかった瞳は、まるできかぬ気の孫でも見るかのように優しかった。





 機動戦艦ナース。


 火竜を彷彿とさせるデザインの巨大な船体は、全長千二百メートルもある。

 変形はしないしアイドルも乗っておらぬがのう、とはイスカリオットが飛ばした冗談だが、残念ながら龍哉には意味が判らなかった。


 千二百メートルと変形とアイドルは、なんらかの形で結びつくのだろう。

 きっと。


 ナースの艦橋は、龍哉の通っていた高校の教室ふたつ分くらいはありそうな広い空間だった。

 正面に巨大なスクリーンがあり、空と大地を映し出している。


 その前には扇状に二十以上も席があって、おそらくオペレーターであろう男女が忙しそうに働いていた。

 艦長であるイスカリオットの定座は一番うしろ。

 少し高くなった場所からスクリーンと正対するような格好だ。

 彼の右横には女性副官が起立し、左奥に龍哉たち朝倉家四名の座席が用意された。


「戦闘ユニット『ピクシー』。四十機が接近中です。艦長」


 きびきびした声は、先ほど客室に響いたものと同じだ。

 青みかがった金髪と鉄灰色の瞳が印象的な美人であるが、物堅そうな雰囲気でもある。

 なんというか、恋より仕事を優先させて婚期を逃がしてしまいそうなタイプ。

 と、いささか失礼な感想を龍哉が抱く。


「発見されるまでの予想時間はどのくらいかの? リンカーベル」

「十五分から二十分といったところでしょうか。連中は我々が光学迷彩で姿を隠していることを知っているでしょうし、そのつもりで探しているでしょうから」


 リンカーベルと呼ばれた副官の言葉に、ふむと腕を組む艦長。


 戦闘ユニットが、たかが四十機程度ではナースは沈められない。

 ネヴィルの闘将であるアダルバートがそれを知らないとも思えないので、本格的な戦闘が目的ということはないだろう。


 となれば威力偵察か。

 まずはひと当たりしてみて、こちらの戦術能力を量るつもりだ、というのが一番しっくりくる。


 馬鹿正直に付き合ってやるのは愚策というものだが、


「あんがいそれこそが狙いかもしれんのう」


 老人が白い髭を撫でる。


 空戦に特化した戦闘ユニットではなく、陸戦能力をもったピクシーを投入しているあたり、けっこういやらしい。

 あわよくばナースに取り付いて、龍哉の身柄を押さえたい腹だろう。


 こちらがそれを嫌がるとすれば迎撃するしかない。

 つまり戦術能力は知られてしまうということだ。

 力を温存して逃げても、あるいは戦っても、ネヴィル帝国は情報という貴重品を拾うことができる。


「闘将ときいておったが、存外にこすっからい手を使うものじゃて」

「いかがなさいますか?」

「五分後に迷彩解除。同時にこちらも魔導装甲(マグナイト)を出して迎撃じゃな」


 ひねりもなにもない手で恐縮じゃがの、と付け加える。

 老人の言葉に女性副官がくすりと笑った。


「迎撃はどの隊に?」

「セイヴァー隊とフランベルジュ隊じゃろうな」

「了解しました」


 手元の端末を操作する。

 やがてメインスクリーン横のサブスクリーンに、隊の名前と準備完了の文字が浮かんだ。


「……日本語?」


 龍哉が首をかしげる。

 こんなファンタジーなんだかSFなんだか良く判らない戦艦の中で、日本語表記というのは、違和感しかない。

 否、むしろ、なんでこの人たちは普通に日本語を話しているのだろう。

 いまさらな疑問が頭の中で渦を巻く。


「エオスの公用語は日本語じゃからの。より正確には、日本語と英単語のチャンポンじゃよ。ご先祖さま」

「うわぁ……」


 ものすごく面白いことになってしまっている。

 そしてそれを引き起こしたのは、どうやら龍哉らしい。

 彼でなくとも、うわぁだろう。


「光学迷彩解除まで一分。セイヴァー隊、フランベルジュ隊、準備は良いか?」


 龍哉の懊悩にかまうことなく、淡々と副官が準備を進めてゆく。


『セイヴァー01(ワン)。準備完了よ』

『フランベルジュ01(ワン)。いつでもいける』


 サブスクリーンに顔が映し出された。

 おそらくは、それぞれの隊の隊長なのだろう。

 一人は男性、二十代の中頃に見える精悍な顔立ちだ。

 もう一人は女性で、なんと龍哉の知っている顔だった。


「マルグリットさん……?」

「そうよ。驚いた?」


 スクリーンの中の美少女が微笑する。


 龍哉の方は目を白黒といった風情だ。

 自分と家族を助けてくれた少女が、じつは子孫で、ファンタジー世界の王族だったというだけでもお腹一杯なのに、さらに魔導装甲(マグナイト)とやらのパイロットで隊長とか。

 すこしばかり盛りすぎというものだろう。


「ご先祖さま。話の途中だったわよね」


 マルグリットが表情を改める。

 一人を消すことで救われるほど世界は安くない、という趣旨のことを言っていた。

 そのタイミングで警報が鳴ったため、龍哉は続きを聴けていない。

 だが、いまこの場面で言うようなことだろうか。


「わたしたちは、わたしたちの手で未来を切り開くわ。過去が間違っていたとか正しかったとか関係ない。わたしたちが進む先が未来なのよ」


 一息に言い放つ。

 茶色の瞳に炎を燃やして。

 発進までのカウントダウン始まった。


「マルグリットさん……」

「メグでいいわよ。ま、親睦を深めるのは戻ってからね」


 ウィンク。

 次の瞬間、二隊六十機の魔導装甲(マグナイト)が地球の空に射出された。






 メインスクリーンに映し出されるそれ(・・)は、飛行機ではなかった。

 もっとずっとSFのような、ファンタジーのような存在である。


 人型のロボット。

 アニメにでも出てきそうな造型だ。

 ただ、大きさはさほどのものでもない。全高で五メートルあるかないか、というところだろう。

 人が乗るには小さすぎるような気がする。


「マトリョーシカみたいにずぼっと入るのじゃよ。ゴッ○マ○ズみたいなものといえば判りやすいかの?」


 龍哉の疑問に応えてくれるイスカリオットだったが、たとえ話の方は残念ながら龍哉には意味不明だった。

 四十代前半の章吾にも、やや厳しい。


 つまり搭乗するというよりも、外骨格をまとうという表現の方が、感覚としては正しいらしい。

 文字通りの意味で、装甲だ。


 対するネヴィル帝国の戦闘ユニットも、大きさはほとんど変わらない。

 違いとしては、ドラゴニアの魔導装甲(マグナイト)は鎧のようなデザインをしていて、戦闘ユニットはもっと生物的で、たとえていうなら甲虫のような姿をしているということだろうか。


「あんなに小さくて大丈夫なんですかね……」


 とは、章吾の疑問である。


「小さい方が敵の弾に当たりにくいからの。大事なのは機動力じゃよ。当たらなければどうということはないのじゃ」

「……その言い回しは、当たってしまうフラグにしか聞こえませんが」


 さすがにこのセリフの原典くらいは、章吾でも知っている。

 この期に及んでまだ冗談を飛ばそうとするイスカリオットに苦い顔を向ける朝倉家の家長であった。



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