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始まりの竜騎士 8


『リューヤ! 大丈夫!?』

「なんとか。何機やっつけた? メグ」

『十機までは数えてたけど』


 背中合わせとなって、シルフィードどもを切り払うドラグーンとドラグーンゼロ。


 包囲網を突破しようと幾度も斬り込んでいるが、そのたびにはじき返される。


 二人合わせて二十機近くを撃墜しているが、同時にけっこうなダメージを受けている。

 もう何度もは繰り返せない。


 包囲の外のセイヴァー隊と連携したいところだが、魔導通信が役立たずになってしまっていた。

 おそらくは陣形を使っての通信妨害である。


 戦場全体に影響を及ぼすものではないだろう。それを証拠に龍哉とマルグリットは通信ができている。

 だが、いかに限定的とはいえ、他の味方との連絡が取れないのは厳しい。


 敵に、ドラグーンゼロに龍哉が乗っていることを知られた。

 捕縛に動いたのだ。


 状況は最悪といっていいだろう。しかし、そこにこそ龍哉は勝機を見出した。

 ネヴィル帝国は龍哉を殺すことができない。


 だから、彼が防御フィールド(プロテクション)を担当してマルグリットを守る。

 殺そうではなく、捕まえようと攻撃してくるのだから、自然と手が甘くなるからだ。その隙にマルグリットが攻撃するのだ。


 この、自分を人質にするような戦法で、二人は多くのシルフィードを倒したが、そろそろ限界が近づいていた。

 やっつけてもやっつけても敵は湧いて出てくるのである。


 さすがに心だって折れてしまうし、機体の損傷も無視できる範囲を超えつつあるのだ。


 龍哉たちは知らないが、この作戦に投入されているシルフィードは、総隊長のケンプファー以下、百十七機。

 アスラに残存している全機だ。


 それが三十一機のセイヴァー隊に襲いかかっている。

 他のドラグーンには目もくれず。


 こんな無茶苦茶な戦い方はない。

 シルフィードのいないフィールドは、かなりひどいことになっているだろう。

 セイヴァー隊以外のドラグーンは百五十機以上いるのだ。


 数が多いとはいえ、ピクシーだけで支えられるか、という話である。


 そうまでしてネヴィル帝国がドラグーンゼロにこだわるのは、そこに龍哉がいるからだ。

 彼の身柄さえ押さえてしまえば、味方が全滅したってかまわない、くらいの覚悟で戦っている。


 龍哉を捕らえ、アスラに拘束して氷精霊封印(コールドスリープ)する。その上で次元を渡って竜暦一五四七年に帰還するのだ。

 それでネヴィル帝国の勝利は確定する。


 転移は起こらず、エオスの歴史は改変されるだろう。

 その瞬間に、ネヴィルの地球侵攻もなかったことになり、なにもかもがやり直しとなるのだ。


 エオスに次元を越える技術など生まれない。

 地球と接点を持つこともない。


 互いにまったく知らない異世界として、影響し合うことなくそれぞれの歴史を歩む。

 それがネヴィルの目指す勝利であり、ドラゴニアの敗北だ。

 もちろん龍哉はそんな結末は望まない。


『リューヤ! このままじゃ!』


 ほとんど悲鳴に近いマルグリットの声が鼓膜を叩く。

 望まないが、遠からずそうなってしまいそうだ。


『姫! リューヤ!!』


 と、そのとき、通じていなかったはずの魔導通信が回復する。

 聞こえてきたのはセイヴァー02、アイリーンの声だ。


 包囲の鉄環を食い破り、ドラグーンたちが突入してきたのである。






 シルフィード部隊が敷いた包囲陣は、そうやすやすと突破できるようなものではない。

 むしろ、簡単に破られるような包囲なら敷く意味もないのだ。


 いくらナース空戦隊の筆頭たるセイヴァー隊でも、一対三以上という兵力差では為すすべがないかに思われた。

 不可能を可能にしたのは、なんと、函館共和国軍と自衛隊である。


 龍哉とマルグリットの危急を遠望したイーグルとワイバーンが、自らの戦場を放棄して駆けつけた。

 一機ずつだ。


 ドラグーンたちと連携して戦っているとはいえ、それ以上の戦力を割く余裕はなかったのである。

 しかも、その程度の戦力では気休めにもならない。

 はずであった。


 だが、彼らは無策で駆けつけたわけではなかった。

 イーグルが腹に抱えた魔導爆弾(マジックボム)。それが奇跡のタネである。

 本来は拠点攻撃用の兵器で、誘導性もない。


 高速の空戦を続けるシルフィードに用いても当たるわけがないが、もし至近で炸裂すれば大きなダメージを与えることができる。

 包囲陣の一角に穴を空けるのに充分なほどの。


 もちろん、偶然たまたま近くで爆発などということを期待していたわけではない。


 高速で戦域に接近するイーグル。二〇一飛行隊に所属する勇士だ。

 間断なく降り注ぐ精霊銃の光弾に機体を貫かれながら。


 かまわない。

 最後の瞬間まで爆弾さえ無事なら、まったくなにも問題ない。


 炎に包まれながら突撃する。

 切り離される魔導爆弾。

 垂直尾翼に描かれたヒグマが雄叫びをあげるように。


 次の瞬間、機体が爆発四散する。


 無謀な特攻で愚かな日本人が自滅した、と、シルフィードどもは思っただろうか。

 思ったにしても、笑ったにしても、それは極短命の寿命しか保ちえなかった。


 爆炎の向こう側で、ひたりと一分の隙もなくワイバーンの魔導ライフルが、落下してゆく爆弾を狙っていたから。


 相原機だ。

 空戦の最中に足を止め、狙撃体勢をとる。

 無謀を通り越して、大馬鹿野郎のワイバーンだ。


 シルフィードどもの攻撃が集中する。とっさに飛び出したドラグーンが両腕を広げ防御フィールド(プロテクション)を展開させる。


 しかし防ぎきれない。

 過負荷でフィールドが破れ、何発もの光弾がドラグーンを貫く。

 背後にかばったワイバーンも。


 それでも、ほんの一瞬だが時間は稼ぐことができた。


 一連射。


 魔力弾に貫かれた魔導爆弾が、シルフィード部隊を巻き込んで爆発した。

 包囲の一角に大穴が穿たれる。


 この機を逃さず、セイヴァー隊が突撃する。


『……すまねえ。相原っち……守りきれなかった……』


 揚力を失い落下を始めるドラグーン……セイヴァー03(スリー)から、絶え絶えの声が届いた。


『俺の方こそ、巻き込んでしまったな……すまないミリアリア』


 応える相原の声にも死相が濃い。


『良いって事さ。けど相原っちとは、もっかい酒を飲みたかったな』

『俺もだよ。ミリアリア』


 落ちながら伸ばされるドラグーンとワイバーンの腕。


 ミリアリアと相原、ドラゴニア人と日本人の間に芽生えていたのは恋心だったのか、それとも友情だったのか。

 本人たち以外には判らないことである。

 あるいは、本人にも判っていなかったかもしれない。


 指先が触れる。

 仙台の上空に炎の花が咲いた。






「きます。次は四発です」

「対抗雷撃じゃ。一発も撃ち漏らしてはならぬぞ」


 イスカリオットの指示に従い、ナースの艦上から無数の魔力誘導機雷が発射された。

 それは、獲物に襲いかかる猛禽のように精霊弾(ベヒモスボム)に食らいつき、対消滅現象の黒い光とともに世界から消える。


「さすがは要塞じゃの。何発の殲滅兵器(ベヒモスボム)を搭載しているのやら」


 艦長のぼやきだ。

 戦闘開始から、すでに十発以上を無力化している。

 延々と続く迎撃戦は、さすがに老人でなくとも疲労を感じるだろう。


「ですがもう終わりです。発射口八ヶ所。すべて特定しました」


 鉄灰色の瞳を、リンカーベルがきらりと光らせた。

 ナースもただ防いでいたわけではない。


 反撃に転じるだけの余裕はなかったが、それにむけての準備は着々と整えていた。

 副官の報告に、にやりとイスカリオットが笑う。


「では、反撃のベルを鳴らすとするかの。リンカーベルや」

「ダジャレですか?」

「邪推じゃよ。気のせいじゃよ」


 美貌の副官に睨まれ、こわいのぉと首をすくめる老人であった。

 笑いが艦橋を包み、ごくわずかに緊張がほぐれる。


対艦魔導砲(エーテルキャノン)、全砲門発射用意じゃ」

「よろしいのですか? 艦長」


 リンカーベルが確認した。

 全力攻撃である。

 それは、ネヴィル帝国をあまり追いつめすぎないという方針に反してしまうのではないか。


「いまさらじゃよ。アスラを沈めねば、アダルバートは止まるまいて」

「……ですね」


 タガが外れてしまったような攻撃は、もう充分に帝国が追いつめられている証拠だ。

 事態がここまで進んだら、雌雄を決するしかない。


「全砲門。発射準備完了!」


 砲術オペレーターの声が響く。

 頷いたイスカリオットか右手を軽く挙げ、


「撃て!」


 振り下ろした。


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