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少年 エルビス

 少年は、何時も懸命に働いていた。朝晩の水汲み、家畜の世話、日中は両親や姉、兄と共に山の畑で汗をながす。


 彼の家もまた、ルスの家と大差はない、でもこれがカザの集落の一般的な生活水準。


 畑での、簡素な昼の食事を終えると、わずかな昼休みの合間に、あちこちに群生している木々の元へと遊びに行くのが楽しみ。


 駆け出して行くその背中に向かい、エルビス

 遠くまで行くなよ、と兄が声をかけるのは毎日の決まり事。


 もう、咲いてるかな?イチゴなってるかな?あの木にしている小鳥の巣、卵かえったかなぁ?


 彼も辛い事も多い生活の中、そんな中でも小さな楽しみを見つけ出し、好奇心を満たして行く少年、エルビス。

 

 木立の一つに近づくと、辺りはうっすらと甘く爽やかな香りに満ちていた。彼の小さな胸が弾んだ。


 木の元へと駆け寄ると、澄んだ青空に届けと伸びている、木を仰ぐ。


 木にはその梢に、緑の葉に隠れちらちらと白い小さな花が見せていた。秋になれば、酸っぱいい緑の実がたわわに実る。


 そんな予感に、エルビスは嬉しくて自然に笑顔がこぼれる。


 畑の方から彼の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。午後の作業の時間。その声を耳にすると、彼は手の届く場所の小枝を1本手折る。


 幼なじみのルスに見せる為に、そして彼女の笑顔を見るために………


 昼からは、彼も芋を家族共に収穫した。彼の家も今年は、いい出来だったのか、父親が嬉しそうに母親と話す。


 これも『サリの姫様』のご加護のおかげだと。そして西の方向に頭を下げる。


 サリの姫様、エルビスにとってはおとぎ話の存在、姫様は全てをラトスの神に捧げ、国を護っている。


 そう聞いてるだけで、少なくともエルビスの周りの大人達で出会った人間はいない。


 ………そろそろ帰りましょう、と母親が声をかけてくる。山の畑に、冷たい夕暮れの風が駆け抜け行く。


 昼間手折ったあの花の小枝は、萎れない様に水桶に活けていた。姉が少し残った水で手を洗い、


 ルスにあげるの?と笑いながら弟に小枝を手渡す。


 笑顔でうなづくエルビス、彼らもまた、山を降りながら焚き付けの小枝を拾う、やがて目の前にルスの家族の姿が見えた。


 エルビスは、幼なじみの名前を呼びながら駆け寄る、手にはあの花の小枝を握りしめて。


 ほら、今年も咲いたよ、立ち止まり振り向いた少女に花を手渡す。


 嬉しそうに、ありがとうと言うと、笑顔と共に受け取りその香りを胸に取り入れるルス、


 二人の頭上を、小鳥達が仲良く並んで、巣へと帰って行く。


 家路に向かい、彼らも並んで歩く。そして、今日見てきた事の報告が始まる。


 今年は、沢山咲いてるから、秋が楽しみだよ。茂みのイチゴ、もうすぐ食べれそう、明日摘みに行こうよ、


 他愛の無い話が、次から次へと出てくる。1日の終わり、彼にとって一番楽しい時間。


 昼間の眩さから、幾分和らいだオレンジ色の夕陽が空を染めて行く、二人並んで眺める。


 明日も晴れそうだね。とルスと話す。それだけでとても嬉しかった。


 …………彼もまた、貧しくとも取り巻く世界は豊かで、幸せな少年、それが『エルビス』







 









 







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