少女ルス
サリの街より西に離れた、カザと呼ばれる小さな町、山際にへばりつくような、小さな集落は、耕す畑も猫の額が集まっている様な有り様。
日々、大人も子供も家族一同力を合わせ、懸命に働かねば、食べて行けない土地だった。
―――― 一人の少女が両親、兄に混じり懸命に、野良仕事を手伝っていた。
石ころが多い山の畑は、毎日毎日拾っても拾っても、大小様々な石が出てくる。それを拾い集める。力が無い子供の仕事。
小さな木の手桶に、一つ一つ集めてゆく。周りでは、父親、母親、年の離れた兄が芋の収穫をしている。
標高の高い集落では、穀物は育たない、芋、モロコシ、少しの葉物野菜を家族で食べる分のみ細々と栽培していた。
石を拾っていた少女が、名前を呼ばれる。彼女の名前は『ルス』数日前、7月7夜の誕生日を迎え、7才になったばかり。
父親から、土から掘り出した芋を拾う様に言われた彼女は、母親の元へと向かう。
今年は出来が良いわね。と嬉しげな母親の話し声、少しは街に売りに行こうかと兄と話す父親と共に、ゴワゴワした麻の袋に小さな芋を入れる。
この辺りの芋は、どこの畑も皆小ぶりだ。環境が過酷なのか、麓の集落の様な大きくは育たない、しかし甘味のある美味しい芋として、高値で売れる。
辛い事も多いが、こうして家族と共に働く事はルスにとって、楽しい時間だった。
手を止め、見上げる空は何処までも青く高く、吸い込まれる様、白く輝く太陽の光は、まばゆく辺りを照らす。
お昼にしましょうと、母親が声をかけてくる。
兄が谷を下り、水を汲んでくる。父親は火を起こし、湯を沸かして、そこに茶葉と家で飼っている牛の乳を入れる。
ふかした芋、父親が作ったお茶、干した果物、簡素な昼御飯だが、ルスにとって、とても楽しみな時間。
何時も仕事と家事に追われ、忙しい母親も、この時はルスの側で食事をとる、つたない娘の話に優しい笑顔を向けながら、
昼からも同じように懸命に働き、吹く風が冷たくなり、白く輝いていた太陽が、その色を赤く変えつつある時に家路へとつく。
ゴロゴロと岩が転がる山道を下って行く、何処の家も、畑は日当たりの良い山の上にある。
生活する家々は、そこから急勾配の坂道を降りて行った先に固まって建てられている。
帰りつつ、焚き付け用の小枝を拾いながら歩く。
途中、隣の家の家族と合流するのも何時もの事。
ルス、と幼なじみの少年エルビスが、彼女に笑顔を伴いかけてくる、その手には、小さな白い花をつけた小枝を握りしめて。
ほら、今年も咲いたよ、報告と共に彼女に渡す。
その白い花は、秋になると緑色の酸っぱい実がみのる。木からポトリポトリと自然に落ちてきたら、熟した合図、
仕事に忙しい大人に代わり、子供達が拾い集める。秋の楽しみの一つ。
持ち帰ったそれは、適当な大きさに切ると天日干しにし保存食とするのだが、
年に一度の収穫祭には、果汁を絞り蜂蜜と合わせ、水で割って飲み物を作る。
特別な時の飲み物、ルスはそれが大好きだった。
彼から貰った花の香りをかぐ。仄かに甘く爽やかな薫り。
ありがとう、と目の前の彼に礼を言うと他愛のない、子供らしい話をしながら連れだって家へと向かう。
小鳥がピリピリ鳴きながら宿へと帰って行く。
オレンジ色に輝く太陽を眺めながら、明日も晴れだね、と幼なじみと空を見上げる。
貧しいがしかし豊かで幸せな少女、それが『ルス』……