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姫として

 ――――その頂きは天に届くと言われている霊山ラトス、大空には神の使いが舞うという――


 ラトスの麓、サリの街に造られている神殿、そこには高い塔がある。


「姫」と呼ばれる御子の住居。


 ――――今年数えて14を迎える彼女は「姫」と呼ばれている。名前はかつてはあったが今は呼ぶ者は居ない。


 七月七夜の七才の誕生日を迎えたばかりの時に神殿からの迎えが来、それ以来「姫」となった。


 それ以降、神官達に崇められ日々神に祈る時を過ごしてる。



 …………姫の朝は早い、空は薄闇色、ポツポツ名残の星、夜の縄張りに朝が密かに忍び込む時間に起きる。


 そして、身支度を整え、終わりに頭からすっぽり足元まであるベールで身を包み、落ちない様に金の輪を頭に被る。


 決してそのかんばせを人にさらさぬように………


 やがて彼女は小さい鐘を手に取り、軽く振る。リリーンと涼やか音をたてる。


 その音を聞き、御子のお付きの役目を担った者達が部屋に食事を運んでくる。御子とは口を利いてはいけない決まり。


 先程の鐘は彼女が言葉を発する事の無いように使われてる物。


 祝詞を唱える以外その澄んだ声音を人に聞かさぬ様に……


 そしてお付きが下がるとベールをめくり、独りの食事が始まる。



 ――――薬草の汁物、果物、少しの野菜、お茶、それが姫の日々の糧、神食前の祈りを捧げた後、密やかに口に運ぶ。


 食事が終わると、口をすすぎ、手を浄め1日の始まりである『朝暉』《ちょうき》の祈りを捧げる準備をする。


 居室を出、塔の最上階を目指して石造りの通路を進み、次に螺旋になった階段を上へ上へと登ってゆく。


 共の者はいない、ただ一人コツコツと登ってゆき、やがてサリの街全てが見渡す事が出来る場にたどり着く。


 御子の神殿と呼ばれる、彼女が祈りを日々休むことなく捧げる石造りの部屋。太陽が昇る方向に祭壇が造られている。


 彼女が祭壇の前に膝まづく。別に建てられている鐘突き堂から夜明けを知らせる鐘がなり始めた。


 ………澄んだ姫の祝詞が部屋を満たす。その声は切ない程清らかで、悲しい程透明な唄い。


 やがてその時が終わると、姫は立ち上がり開け放しの窓辺へと近づき、外を眺めるのが彼女の決まり。


 ――――見下ろすサリの街、日が昇り石造りの簡素な家々からは朝の支度の煙が立ち上っている。平和な1日が始まる。


 高い塔の最上階には小鳥すら訪れない。視線を上げれば、青い空、流れる白い雲……


 吹き抜ける朝の風、彼女を包み戯れると駆け抜けてゆく。


 姫は思う神様以外は言葉を交わすこともない

 何時も1人、


 しかしかつての家族と暮らしていた時は、幼いながらも土にまみれ、懸命に働いていても、食べる事にも事欠いていた生活。


 しかしここに来てからは、全てが変わった。働く事もない、神に捧げる祝詞を覚え、日々祈りを捧げる、儀式を執り行う。それがお役目。


 そしてどんなに外の世界で食べ物が不足していても、ここには日々きちんと整えられる。姫は神の御子だから。


 身に纏う衣装も幼い頃憧れた婚礼衣装よりもはるかに、美しく高価な品、姫にふさわしい物を。


 雨に濡れる事もない、寒さに震える事もない、何故に他者より恵まれているのか。


 それの答えはただ1つ、私の全ては神の物、その身も心も命も全て、


 そして時がくれば国を護るものとなる。それが私の運命。


 だから、国を統べる王よりも、ここを司る神官達よりも、誰よりも大切に大切に守られ育てられた。


 ………… もうすぐ時が来る、姫の心には不安も悲しみも無い、


 再び街を見下ろす、代々『姫』が護って来たサリ、次は私、私が護る。次の時まで、


 誰もいないのを確認すると、ベールを上げ、青空に目をやる。


 何処までも澄んだ青空、心地よい風、静かな時


 私が護るわ、この青空を………



『姫』として撰ばれた時より、無言教えられる。自ら進んで国を護る者になるように……


 仕える者達に姿を見せぬのはお互いに情を交わさぬ様に、


 話さぬのも同じ、全てを捧げる少女がお役目に無垢な心で挑める様に………























































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