一話
とりあえず書いてみました。
誤字脱字報告、評価等々していただければめちゃくちゃ嬉しいです。
「やあやあ、ようこそ。君が来るのを待ってたんだよ」
つい数秒前に死んだと思った束の間、俺は夢の世界へ迷い込んでしまったようだ。
「あれ? どうしたんだい? もしかして私のこと覚えてない?」
呆然と突っ立っている俺の周りをグルグルと回っているこの少女、どうやら俺のことを知っているらしい。
しかしあまりに現実離れした美しい容姿に目が奪われてしまう。
「悪いが思い出せないな。以前どこかで会ったか?」
「以前……。そうね、以前からの知り合い、いや親友よ。その様子だとやっぱり失敗したみたいね……」
「悪い、言っていることがイマイチ分からない」
「いえ、こっちの話よ。それよりあなた、さっきまでとてつもない事になってたけど大丈夫?」
彼女の問いかけでようやく思い出した。
ついさっきまで俺は死にかけてたんだ。
「ここにいるってことは、俺は死んだ感じか?」
「ええ。残念だけどそうなるね。つい五分前に帰宅したあなたは不運にも空き巣と遭遇。攻撃を仕掛けるも相手が隠し持っていたナイフで刺殺、て感じかな」
「マジかぁ。空き巣とかち合って殺されたかー。いやー、うん。整理は出来てもちょっとなー」
いや、空き巣に立ち向かっただけでも良しとするべきなのか……?
でもやっぱドカンとやっつけたかったよなぁ。
「気持ちはよく分かるよ。なんてったって命を奪われたんだからね」
チクショウ、殺されるんだったら腕の一本や二本へし折っとくんだった……。
「それで、ここは天国ってわけでも無さそうだけど、地獄でも無さそうだな」
辺りは真っ暗。
ここにある物質は俺と彼女の肉体だけなんじゃないかと錯覚するほど殺風景だ。
「ここは君専用の場所さ。本来ならばこことは別の場所に魂が送られる。そしてそこで神様からのありがた〜い審判を受けてから天国か地獄へ転移するっていうのが一連の流れだね。でも君は例外中の例外。だからここへ来てるのさ」
しかしこの少女、やけに口調がコロコロと変わるな。
さっきは女の子っぽい印象だったが今はボーイッシュな感じだ。
うん、女はみんな女優っていうのは強ち間違ってはないようだ。
「俺が例外? 俺は純日本人のいたって普通の高校生だ。特に例外扱いされる覚えは無いが?」
確かに両親共にザ・ジャパニーズだし、至って普通だ。……普通だよね?
「いや、そもそもの前提が例外なの。まず知識として魂は転生するものだと頭に入れて欲しい。そして君は今生で三度目の転生になるの」
「まず君が初めて地上へ生を受けた一度目は正真正銘の極普通の人生だった。しかし二度目。二度目の人生、つまり君の前世が問題なんだ」
「世界中の教科書に載るような極悪人とかか?」
「世界中の教科書に載る極悪人がどれほどましか……」
「え、それじゃあ一体なんなんだよ?」
「魔王だよ」
魔王、その言葉を聞いても最初は理解できなかった。
耳には入ってきているが頭では理解ができていない。
このちっちゃな少女の核爆弾級の発言に反応する時間はおよそ数十秒を優に要していた。
「はぁ⁉︎ なんだって⁉︎」
「魔王なんだよ。君の前世は」
「はぁぁぁぁぁ⁉︎ 魔王ぅぅぅ⁉︎」
いやまてまてまてまて、魔王だと?
極悪人が可愛く見えてくるぞ……っていうか魔王っていつの時代だ?
そんな魔王なんて怪物が存在したとは聞いたことが無い。
「ちょっと待て、地球に魔王が存在したのはいつ頃なんだ?」
「誰が地球と言ったんだい? 君の前世はもっと違う世界さ。今風に言うならば異世界ってところかな」
「異世界? 異世界ってあの異世界?」
「君がどの異世界を指しているのか分からないけど、そうだなぁ、あの世界では科学では無くて魔法が発展していたね」
魔法⁉︎
魔法だと⁉︎
魔法って言ったら異世界の定番じゃねーか‼︎
マジかマジか‼︎
「やっべー、なんか凄いことになってきたなオイ」
「そうだよ。これは本当に凄いことなんだ。なんてったってあの魔王が復活するんだからね」
ん? 今こいつなんて言った?
「いや、だから魔王が復活するって……」
「いやいやいやいや、ちょっと待て、ウェイト。俺の前世魔王だろ? 俺転生してるだろ? ということは俺前の世界で一回死んでるってことだろ? 魔王ってことはつまりその異世界って所では俺は最強に悪い奴なんだろう? そんでもって復活するってことは絶対勇者的なやつが俺を殺しに来るだろ? で、また俺殺されるだろ? それでまた転生するだろ? これじゃループするじゃねーか‼︎」
「君は本当に変わったな。とにかく一旦落ち着いてくれ。まず君の持っている『魔王』という概念は捨ててくれ」
「どういうことだ?」
「一から全て説明しようか。まず君の前世は魔王だった。その魔王というのはその名の通り『王』なんだ」
「それじゃ俺はどこかの国の王だったのか?」
「いや、国なんて小さなものじゃない。四つの大国の連合国の王だったんだ」
「連合国? 連合国って独立している二カ国以上の国が共通の目的を果たすために結ぶ同盟みたいなものだろ? それがなんで『俺たちは四人で一人』みたいな感じになってるんだ?」
「四つの国の国王の上に君は位置していた、と言えば分かるかな? 平たく言えば連合国の四つ国は国王も含めて全てが君のものだったんだよ」
「でもどうして俺が?」
「それは単純に君が強かったからさ。それも規格外にね。確かに君は強すぎるが故に魔王と呼ばれていた。でもその由来は『魔法の王』、そこから『魔王』に変わったんだ」
「なるほどなぁ。でも俺が魔王かー。記憶も無いし実感湧かないぜ」
「実はそこが想定外の出来事なんだ。本来だったら君は前世の記憶を持っているはずだった。でも記憶を無くしているということは、どこかで魔法式にミスがあったんだろうね。なにせ即席で作ったものだから仕方ないのさ。どうか許してほしい」
「いや、許すもなにも記憶が無いからどうしようもないんだけどな? でもその魔王だったのに殺されたんだろ? ってことは反乱があったのか?」
「反乱、と言うよりテロと言うべきだろうね。それに君は死んでいない。君の魂を僕たちが別の世界に送り込んだのさ」
「やだ何それ怖い。というか、魂って別の場所に送れるものなのか?」
「不可能ではないね。魔法というのは君たちの言うところの科学の位置付けなんだ。それがもっと身近にあって、スマートフォンよりも普及しているね。ただ当然だけど非現実味を帯びれば帯びるほど魔法を展開するのが難しくなる。いかに複雑な魔法を展開できるかが魔法師としての優劣に繋がるんだ」
「ふーん。でも魂を地球に送ったら俺の前の身体はもう戻らないんじゃないの?」
「確かにその通りだよ。でもあの時は緊急事態だったから仕方ないのさ。それに肉体なんかより魂の方がよっぽど大事で重要なんだよ」
「なんとかなるって言うなら別に良いけどね?」
「そう言ってもらえて助かるよ」
「んで、俺は何をすれば良いわけ? ここに呼んだってことは目的があるんだろ?」
「ああ。さっき触れた通り君には魔王としてもう一度復活してもらいたい。現在のあの世界は大規模な反乱軍によって支配されている。だから君に世界を救って欲しいんだ」
「もちろんだ。ふぅ、ようやく勉強から解放されるぜ」
「何か言ったようだが聞かなかったことにしよう」
「流石に動機が不純すぎたか?」
「ノーコメントだ」
「さて、あの世界についての説明と君についての説明と、現在の世界情勢の説明については向こうに着いてからにしよう」
「オッケー」
「それじゃあ目を瞑ってくれ」
「よし、次に目を開けた時、君と僕は向こうの世界にいるよ」
「さぁ、目を開けてくれ」
少女に従って目を開けた瞬間、虹彩に真っ白な光が入ってきた。