AIice 06.六でもないコダワリ
シロと帽子屋をベッドに寝かせた俺らはその部屋にあったソファーに座り込んだ。
気持ち良いくらい柔らかいし、高そうだ。他も豪華だし、シャンデリアとかついてても驚かない。いや、窓は規格外じゃねえかってくらいデカイし、部屋数も半端ない。むしろ外見より中のが広いんじゃないか。
「さてと、アリス」
眠りネズミが切り出してきて、ようやく思い出す。今は俺の前に眠りネズミとミツキさんが座っていて、話を聞いていたんだ。
「俺の説明聞いてたか」
「聞いてたよ」
ぬいぐるみに入れる綿の量の適量はいくらかっていう話を語り出すまでは…と、心の中で付け足しておく。円周率みたいな細かい数値なんか知りたくない。いや、もう詰まってりゃいいだろ?!
「ここは不思議の国って名前で、夢じゃない世界なんだろ。
俺も含め名前はハンドルネームみたいなもんで、本当の名前じゃない。
生物は何らかの能力を持っていて、それを使うには媒介が必要。」
沈黙に耐えかねて外で話してた内容の確認。そして、
「俺が帰るには、物語を終わらせるか、ゲームを終わらせるかない」
いまいち分からないが、そうらしい。俺が帰る為には、この二択だけなんだと。
だけどさ、この物語っていうのが不思議の国のアリスなら夢オチだろ?夢じゃないっていうし、どうすればいいんだよ。
ゲームだってそうだ。俺はキチと違ってあんまゲームはしないんだよ。
「どちらでも帰れるが、後者だけは選ぶなよ、アリス。この世界の奴等を敵に回すからな」
「んな、ゲームって言われても名前も分からないゲームを選ばないよ」
「なら心配ねえ。声をかけりゃ、皆助けてくれるさ」
うんうんと眠りネズミは頷いてるが、ゲームを選んだら敵になるってことだよな…ゲームはやめよう、マジで。
「あまり難しく考えないで下さいね、アリス。物語はどんな形でさえ、進みますから帰れますよ」
「どんな形でも?」
「どんな形でも。少し狂っていても始めと終わりは決まってますから」
「要は、逸脱しなきゃ遅かれ早かれ帰れってことだな。それよりもな、大事なのは」
「大事なのは…」
俺はゴクリと唾をのんだ。
「綿だ!いや、この際籾殻でも良い!詰め替えないといけねえ!新鮮味に欠ける!詰め替える際はだな、ビッシリと詰めるんじゃなく、そう8…」
「お前はシリアスに詰め物の話をするなよ?!」
「詰め替えはシリアスな話題だぞ、アリス。シリアスでナイーブなんだ」
「たかが綿だろ?!」
「されど綿だ。いいか、アリス」
俺はなんでこんな話をレクチャーされてるんだ…。
「ネズさん、アリスは来たばかりで疲れてるから、ほどほどにしてあげて下さいね」
「しかしな、ミツキ。綿ほど重要なもんはねえぞ」
「そうですけど、それはまた今度にしましょう。夕食を食べて、先ずは睡眠をとらないと。それに…」
ミツキさんはベッドに目をやる。すやすや眠る二人はなんだか微笑ましいっていうんだろうか。
「それもそうだな。」
「ですね。で、夕食とかってどうするんですか」
「簡単ですよ。イメージすればいいんです」
「え?」
「あぁ、そうですね。慣れてしまったので、忘れてましたけど…」
ミツキさんはウッカリといった感じだが、いや馴染み過ぎです。
「食べたいもんをイメージして、目の前にあると思うんだ。無理なら、作るしかねえが」
「…やってはみる」
と言ったものの、それはどこぞの猫型ロボットの道具か?!とツッコミたいが、やってみよう。考えてみれば、昼からなんも食ってないのに歩き回り、しかも時間が巻き戻ったらしいが、腹の具合は戻らない…要は腹が減ってる。
目を瞑り、食べたいものを思い浮かべる。食べたいもの…そういや、最近新しい味のハンバーガーが出たんだよな…食ってはみたいが…こんなんで良いのか?確認するようにゆっくりと目を開けたが、何にもない。
「なっちゃいねえよ、アリス。いいか、良く聞け」
「綿の話は聞かないからな」
「それは今度聞け!聞かせてやる!今は、飯だ。いいか、純真さが大事だ」
聞かなきゃならないのか。しかも純真さなんてガキの頃にドブ川に投げ捨てたさ。
「無くっても装え!あれだ、女心のようにだな、騙すんだ!自分を!世界を!」
騙したら純真とは程遠いだろ?!しかし、ヒートアップした眠りネズミを止めることは誰にも出来なかった。っていうか、ミツキさん居なくなってるし!
「特訓するぞ、アリス。先ずは簡単な飲み物からだ。いいか」
「あ、あぁ」
「返事はシャキッとしろ!」
「は、はい!」
誰か眠りネズミを止めてくれ!