AIice 03.三時には賑やかなティータイムを
後悔した。子供の体力がすごいのか、シロがすごいのか。まあ、現代の高校生(帰宅部)に山登りの体力はない。森の奥へと進んで着いたかと思えば、崖のような登り道。ぴょんぴょん跳ねて歩くシロに付いていくのが精一杯だ。
「シロ、あのさ。お〜い、シロ!」
「どうしたの、アリス」
「そのお茶会とやらはどこまで行くんだ?」
「お茶会はね、直ぐだよ。うん、お茶会は三時になったら直ぐに始まるよね」
「いや、三時に始まるなら、もう過ぎてるんじゃ…」
ズボンのポケットから手探りにあるものを探す。シロに引っ張られながら振り返った場所に鞄などは何もなかったがもしかしたら入っているかもしれない。シロは興味津々に目を輝かせているが、期待はするなと言いたい。
「ほら、もう六時だろ」
取り出したのは古ぼけた懐中時計。古ぼけたっていうとじいちゃんに怒られそうだが…そのじいちゃんが若い頃から持っていたのだから、古ぼけているのは当然だろ?
「時計を持ってるんだね。うん、時計があれば早く着けるよね」
シロは俺の時計を手にすると、ネジを回し始めた。
「お、おい!」
「三時まであと一分だよ。うん、あと一分で着けるよね」
シロが得意気に見せた時刻は確かに三時まであと一分だが、正確な時間が分からなくなった。
「お前なあ…」
カチコチと静かに秒針が始めたカウントダウンを無視し、シロから時計を取り戻した。壊されたらマズイし、これ形見だしさ。子供から玩具取り上げたみたいで嫌な気分でもだ。
「時計の時間かえたってなっ」
言いかけた俺の耳に陽気な音楽が届く。遊園地のパレードにかかりそうな音楽だった。
「扉がね。うん、扉が開くよ」
シロは辺りを見渡し、ある一点で止まる。木だ。先ほどまではどうってことのない只の木だったのに、その木の根本はうっすらと光っている。どうやら音楽もそこから漏れ出しているようだ。地下に何かあるのか?
「行こう、アリス。うん、三時のティータイムに行こう」
「行くって、まさか」
物理的に不可能だろ?!なんて子供に理解されるはずもなく、シロに背中を押されながら、仕方なくその木の下まで歩いていく。一歩、二歩、三歩とその時だった。
「!?」
言葉も上手く発せられず、俺は目を見開いている事しか出来ない。
足が何かが引っ掛かり引っ張られたかと思えば景色は逆さま。そういや、なんか前にも…なんて考える暇もなく、吊るされたかと思えば、次の瞬間には木の太い枝と布で造られた滑り台のようなものを滑っている。木の周りをぐるっと一周すると急な…いや、急すぎる角度で木の幹にあった穴に入っていく。いつ落ちるんじゃないかと気が気じゃない!
「楽しいね、アリス。うん、この道が一番楽しいよね」
後ろから聞こえる笑い声は無視だ、無視!頭半分ではすでに走馬灯…ってやっぱ死ぬのか?!
『お前は運が悪いな』
ん?
『AIiceは行かなければならない』
んん?
『いや、堕ちるんだ。……なれぬ……不思議の……』
なんだ、これ?俺はこんなの知らない……。なんなんだよ、これ?!
『運が悪ければまた逢えるよ、AIice』
目に陽の光が射し込んだかと思うと、俺の身体は投げ出され、木の葉の山へと着地した。
「……」
「珍しいですね。まあ、アリス自体が珍しいんですけど」
「ま、三時だ。ミツキ、ティータイムの時間だ。アリスとシロも飲んでけ」
ネズミの少し大きめのぬいぐるみ抱えた子供と大人なしそうな女性が逆さまに俺の目に写っていた。