AIice 12.十二本の赤
行く気を無くしたが、それはそれ。
行かないといけない。
サツキ達の隠れ家、秘密基地…どっちでもいいが、そこを出て、海岸を歩いていた。先ほど見たハートの城…船だよな、やっぱ。それが一直線上に確認出来た。
「おい、チシャ。お前、少しは行動改めた方がいいぞ」
「チシャ改めないよ」
「改めろよ…」
マジで。何せミツキさんのサンドイッチを8割り方食べたのだ。もちろん、サツキ達の分だ。
その後は俺の語彙力じゃ説明出来ない。チビ達が泣き喚き、能力の暴走。サツキじゃどうにも出来ず、騒ぎに気付いたミツキさんとハトリが駆けつけなんとかなったのだが……ハトリの機嫌は10m離れてても分かるくらい最悪だった。
『…さっさと行け』
その言葉と共にチシャ共々追い出されたのだ。原因のチシャは暢気にニヤニヤ笑って海を足で蹴ったりしながら歩いている。水辺が好きなんだと。…猫って水好きだったか?
「チシャは水スキ。泳げるよ。泳ぐ?」
「……いや、さっさと行こう」
なんだか歩いてるだけなのに疲れた。肉体的ではなく精神的に。
「それにしても…あれがハートの城か。薔薇園とかあるのか、やっぱ」
確かそんな話があったって聞いた気がする。トランプの兵が薔薇をペンキで塗るんだっけ?
「まずいな」
「まずいよな」
声がする。海岸から少し横道にそれた辺りに…誰か居るのか?もう無視してさっさとチシャとの約束を済ませるべきか。
「あの…どうかしたんすか?」
無視できないのは俺の性か。チシャは相変わらずニヤニヤしてるが、ついてこない。ついてこないどころか魚捕り始めたぞ、おい。
「ん?」
「んん?」
話していた男が二人、興味深そうに俺を見ていた。なんか人相悪いオッサン達だし、声かけるんじゃなかった!
「赤ワインを注文するように頼まれてたんだ」
「赤ワイン?」
「だけど来たのは白ワインなんだ」
「は、はぁ…」
「船長に怒られる」
「女王さまに怒られる」
……あの船の、ハートの城の人なのか。よく見ればバンダナにはトランプのマークが散りばめられている。トランプの兵?どちらかといえば水兵だろ。
「出せば良いんじゃないですか」
「出す?」
「何を?」
「いや、赤ワインですよ。出せるんでしょ、この世界の人って」
俺の言葉に二人は目を見合わせ、しばらくして大笑いして笑った。ネズさんは簡単に食べ物や飲み物を出してたし。
「お前、ポチの言ってたアリスか」
「シロの朝帰りの原因か」
…どっちもツッコミたいぞ、それ。
「アリスなら知らないのは仕方ないな」
「ああ。この世界では大人はそんな馬鹿なとは出来ないんだ」
「出来ない?昔は出来たんですか?」
「いや」
「俺たちは大人だからな。純粋さなんて船長についた時に捨てちまったよ」
わからない。子供は出来るけど、大人は出来ない?
「お前ら…そこで何してる」
二人の肩がビクリとはねると血の気が消えていく。
「船長」
「女王様」
俺が振り返ると昔のヨーロッパに居そうな…貴族っぽい服装の人間が目に映る。赤を基調とした服を纏い不機嫌そうにしている。
「おい、新顔。俺様の顔になんかついてるのか」
「シロの言ってたアリスです」と男たちは説明する。いや、さっきから聞いてると…いや、それは無いだろう?!
「ああ、ポチの言ってた。俺様がハートの女王だ。ポチが世話になったな」
「世話されてないよ。うん、案内してあげたんだよね」
ハートの女王の後ろからひょっこりシロが顔を出した。
「あれ、アリス。驚いてる?うん、驚くよね。女王様なのに男だもんね、女王様」
笑うシロに俺はツッコミも忘れ、いや忘れるほど驚くだろ、これ!