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AIice  作者: 黒川 翔
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AIice 09.九回裏の秘密道具




目を覚ましたら、そこは血塗れの世界……なんて事になってなくて良かったよ、マジで。




シロとチシャと部屋を出て、ミツキさんの用意してくれた朝食を皆で食べていた。名前だか役だかをチシャに聞こうとしたが、ミツキさんの朝食が優先。自己紹介されなくてもなんとなく役は分かるが、だけどなぁ、いや、シロに大分経ってから聞いた俺が言えた事じゃないか。

朝食の合間に俺は夢について尋ねた。シロとチシャの声が聞こえたし、夢なのに鮮明過ぎだし、本当なんなんだ?


「そりゃ、アイツだ」

「アイツ?」

「奴に名前はないんだ。役もない」


食べるのに夢中な三人とそれを見守るのに忙しいミツキさんの代わりにネズさんが答えた。ネズさんは、食べないらしく、ぬいぐるみが食べたらどうなるか怖いもの見たさで気になってたんだが…。


「役がない?」

「役を決めるのは女王だ。女王はアイツに役を与えないし、与えられない」

「へぇ」

「アイツの能力はやっかいでな。記憶を食べて、その記憶を再現したり出来るらしい」

「じゃあ、俺は記憶を食べられたから、ああして」

「ああ。それで記憶の中の人物に成り代わってアリスの名前を聞こうとしたんだな。だが、食えるのは表面だけで根っこからは食えねえ。だから、アリスは違和感を感じたんだ。今のところアイツは一人の人間から一つの記憶しか食べれないみてえだから、まあもう大丈夫だろ」

「……」


だ、大丈夫なのか。また会うみたいな事言ってた気がするんだが。


「食われた記憶はその内思い出せる。花だってそうだろ。花を切られても根がありゃ育つ。だから気にするな」

「特に気にしてないよ」


そこは本当に気にはしてなかった。思い出せないけど、友達とかの記憶はちゃんとあるし。


「ならいい」


コクコクと頷くネズさんは、誰か気にしてた奴が居るように思えた。


「難しい話終わった?うん、難しいと眠くなるよね」

「チシャ、アリスに名乗ってないからシロが自己紹介しないとダメだって」

「皆したんだよ。うん、だからチシャちゃんも自己紹介しなきゃね」


シロとチシャは食べ終わったのか。横目で見たハトリはのんびりとまだ食べて、ミツキさんものんびり食後のお茶を飲みながら、ハトリと談笑してる。ハトリ…ミツキさんには笑うんだな。恋かぁ、ハトリくらいの頃はそれよりも遊んでけど…なんかあの威圧感さえなければ微笑ましいな。


「名前は、一応アリスな。よろしく、チシャ」


チシャに向き合い、手を差し出すと、チシャも倣うように、差し出した。


「役は、一応チシャ猫。よろしく、アリス」

「…真似か」

「真似じゃないよ、チシャ的にはパクり?」


同じだろ、それ!なんて思いつつも、握手をした。体温が低いのか、チシャの手は冷たくて気持ち良かった。


「そういや、アイツがチシャとシロが居たら分が悪いなんて事言ってたんだが…お陰で助かったけど」

「そりゃ、シロには時間の能力があるからな。記憶は時間に弱いんだ。まあ、シロはここに来るくらいしか使わないからな」

「じゃあ、チシャは?」

「チシャ、ぼこぼこにしたから」

「は?」

「チシャはな〜、アイツを一度撲殺しかけたんだ。まあ、要はトラウマだな。アイツはそれ以来、現実と夢の狭間で引きこもってる」

「……はは」


チシャだけは怒こらすまい、絶対。


「あの子が怖いならバット貸すよ」


バットでやったのか…持ってたバットで。


「お買い得」

「貸すんじゃないのかよ?!」

「チシャには大事なんだよ」


バットを手に持つと、その周りだけが酷くボヤけた。目を擦り、もう一度確認すると目覚まし時計がチシャの手に乗っかっていた。


「目覚まし時計だから便利だよ」

「え」

「チシャちゃんはね、ものを違うものに出来るんだよ。うん、チシャちゃんが持ってないとすぐ戻っちゃうけど」

「へぇ、便利なんだな」

「まあね。バットじゃなくなっちゃったけど目覚まし時計あげる」

「良いのか?」

「良いよ」


お礼を言って、目覚まし時計を貰った。ブルーにシルバーのベルが二個くっついたもので、チクタクと時を刻んでいる。


「だからね、アリス」

「ん?」

「時計のかわりにチシャのお願いきいて」

「聞けることか」

「簡単。ハートの城に一緒に行って」

「いいな、僕もいく!うん、そろそろ行かないと女王様に怒られるよね」

「シロは先に帰っとけ、女王に無断で来たんだろ。シロはハートの城の住人なんだからな」

「はぁい…」


ネズさんの説得に項垂れながらも応じると、シロはまたぴょんぴょん跳ねるようにして出掛けていった。いや、帰ったのか。


「で、アリスは行くの?」

「え、ああ。いいよ、どんなところかみたいし」

「早い方がいいが、せっかくだ。ミツキに昼飯になんか持たせてもらえ」


ネズさんはそういうとハトリとミツキさんの方に歩いていった。


「アリス、謎なぞだよ」

「ん?」


チシャは俺の顔を覗くように屈むとニヤリと笑った。


「この世界は本当はなんの物語でしょう?」

「何って」


最初にシロが言っていたし、ミツキさんも言っていた。なんでそれを今さら聞くんだ?


「ハートの城に行く前に寄り道して、ここよりももっとヒントはいっぱい」

「……」

「あ、これはゲームじゃないよ」

「なら、なんで聞くんだ?」

「チシャの純粋な興味。アリスはなんだか似てるからね」

「誰に?」

「チシャの質問の答えが分かれば分かるかもね。読み返す必要はないよ。大事なのはこれから」


チシャはもう一度だけ俺に尋ねた。




「この世界は本当はなんの物語でしょう?」






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