あいびき
その牛は豚を愛していました。
豚も、その牛を愛していました。
二頭は道ならぬ恋に落ちていたのです。
けれども……。
牛小屋に豚小屋と、二頭は別々な場所で暮らしていました。ですから顔を合わせられるのは、外に出るわずかな時間。
それも境には高い柵がありました。
二頭の間には、さらに高い塀がありました。
それは二頭が、牛と豚という種を越えた関係だということです。さらには二頭の仲を疑う、それぞれの仲間の目もありました。
暗くなるのを待って……。
二頭はこっそり小屋を抜け出し、あいびきを繰り返しました。柵を越して見つめ合い、夜どおし愛を語り合ったのです。
そんなある日。
愛し合うこの二頭に、悲しい別れのときがやってきました。
飼い主が豚を小屋から引き出して、町の市場に連れていったのです。
牛は悲しみにくれました。
――豚さん、もう帰ってこないんだわ。
そう、豚は売られてしまったのです。二度と帰ってくることはないのです。
それから数日後。
今度は牛がトラックに乗せられ、やはり町の市場へと連れていかれました。
さて市場。
――豚さんに会えるかしら。
牛は必死に愛する豚を探しました。
けれど、愛する豚の姿はありません。このときすでに、ある商人の手に渡っていたのです。
やがて牛も、市場から売られていきました。
この日。
愛し合う二頭に奇跡が起こりました。
商人の家で、二頭は再会を果たしたのです。牛を買った商人があの豚も買っていたのです。
商人の家には柵はありません。
仲間の疑いの目もありません。
「いつも一緒にいられるなんて」
「あたしたち、なんて幸せなんでしょう」
二頭は種を越え、強く強く抱き合いました。それぞれの細胞のひとつひとつがくっつくほどに。
それはひさしぶりのあいびきでした。
その夜。
タマネギと卵とパン粉のとりもちにより……。
二頭はハンバーグになりました。