第38話 帰還
過去へ〈後編〉としても見れるかな?
まあ、とりあえず『帰還』で。
夢の中から始まります。
……自分でもびっくりするくらい唐突に始まります。
『――ター』
うおっ!
金が空から降ってきた!
へへ! ラッキー、とりあえず1万円札を中心に集めていこう!
『――スター』
腕いっぱいに札束を抱えて満面の笑み。
いやー、真面目に生きてるといいことあるんだなー!
『御主人!!』
うわッ!
急激に意識が覚醒する。
真っ暗な俺の部屋。
何も変わっちゃいない。
では今の声は一体――?
『ようやく反応してくれましたか。かれこれ1週間は呼びかけていたんですけどね。……というかやっぱり "彼" とマスターは違う存在なんですね』
同じ声が聞こえる。
いや、聞こえるというか……頭の中で響いてくる。
つまり、これは俺の妄想……?
……そ、そりゃそうだよな!
こんな深夜に女の子が居るわけ無いもんな!
『むむ、信じていないようですねマスター。……ではこれでどうですか!』
ボフンッ!
目の前に幼女が出現した!
俺はどうする?
▷挨拶する
▷逃げる
▷――をする(ハアハア)
おい待てや。
最後は何だよ最後は。
とりあえず金髪の外人っぽい女の子が俺の目の前に出現したことで頭が混乱していることは分かった。
さて、どうするか。
『――ひとつ質問しても良いですか?』
急になんだ?
別に構わないが。
『では……何故マスターはこんな偽物の世界を享受しているのですか?』
ナチュラルに思考が読まれてる!?
――じゃなくて。
「に、偽物……?」
どういうことだ。
ここが偽物?
そんなのありえない。
毎日親友達と馬鹿騒ぎし、家で祥介を妬みつつも家族と楽しく過ごす。
何も間違っちゃいない。
ちゃんと家族、友人としての温もりがあったぞ。
『いえ、この世界は《憤怒の罪》が作り出したまやかしです』
ら、ラース?
お前は一体何を話しているんだ……?
『……現実を見失いましたか。ではとりあえず思い出させて差し上げましょう』
幼女が指をパチンと鳴らす。
すると世界が一転した。<PBR
ガラスが砕けるような音と共に周りの風景が壊れていく。
いや。
元に戻っていく。
こうして俺の目の前には再び、真っ白な空間が戻ってきた。
ジャックされた視界を覗く。
今は、魔物をいたぶって遊んでいるらしい《憤怒の罪》。
赤黒い靄のような物が身体全体を隙間も残さず覆っている。
これじゃあ遠目から見ても俺だとは気がつかないだろうな。
『――気分はどうですか?』
最悪だよ。
弄ばれていたんだな。
『ええ。ギリギリでワタシが目覚めていなければマスターは終わりでした』
そうか。
助かったな。
後、一つ質問いいか?
『はい。どうぞ』
お前――――ジン君、だよな?
『――! 驚きました。ワタシが分かったのですね』
まあ何故実体化してるのかとか、何で女の子になってるんだ、とか疑問は尽きないけどな。
でも、分かるよ。
心っていうのかな? "何か" が教えてくれている気がする。
『――なるほど。マスターと彼はやはり深い所では繋がっている、と』
? 何の話だ?
『いえ、こっちの話です。……では改めまして、久しぶりですマスター』
ああ、そうだな。ジン君。
いや、君、では無いか。
ジンちゃんか。
――それはちょっと違うな。
ジンって男っぽい名前だしな。
そうだな…………じゃあルプちゃんで。
今回も前も俺のヘルプをしてくれただろ?
ヘルプからへをとってルプ、でどうだ?
『どう、とは?』
お前の名前だよ。
『名前、ですか?……しかしワタシはスキルであって人種では――』
いやもう人でいいじゃん。
少なくとも、俺はこれから人としてしか見れないけどな。
『――何故、ですか』
姿形、喋り方、感情。
ほら人に必要な物全部揃ってんじゃん。
そう言って頭を撫でる。
……ち、ちょっと気持ち良かった。
サラッサラの金糸を手で梳く。
少しくすぐったくて病みつきになりそうだ。
『……いつものマスターに戻りましたね』
ん!?
それはどういうことかな!?
俺が変態ってことか?
冗談じゃないぞ!
俺は幼女趣味なんて全く持ってな――
『 "お兄ちゃん、私で気持ちよく――"』
ちょっと待ってください、ルプ様!
な、何でお前がソレの事を……?
『いえ、あのアリオスの呪縛から逃れる為に進化した所、マスターと深く繋がりまして。記憶を全て見てしまいました』
くそ!
それじゃあ隠しようがないじゃないか!
で、でもあれは偶々なんだ!
安かったから! 安かったから好奇心で手を出してしまった……って進化?
『はい。今のワタシは特殊能力《全ての理を見る者》です。新たに獲得した能力は――』
なるほど。
よく分かった。
つまりは――
「チートってことだな」
大変、大変!
俺ってば更に強くなっちゃったみたい!
『というかマスター。奴を見てなくていいんですか?……今、とても危ないところだと愚考しますが』
ジト目で俺を見ていたルプちゃんに冷や汗を垂らしつつ視界を確認する。
そこには、俺の見知った人物が映っていた。
血だらけで敵と思しき男に首を絞められているシャーラの姿が。
ぷつ、と何かが切れる音がする。
それと同時に、《憤怒の罪》が吠える。
俺の怒りと同期しているもんな。
俺は怒りに染まった思考とは別に、冷静に目の前の光景を捉えていた。
今の俺には仲間でさえも敵と映るだろう。
この世の全てを憎んでいる《憤怒の罪》の意思が身体の支配権を乗っ取っているからだ。
つまり、シャーラでさえも俺は殺す、ということ。
ふう、と嘆息する。
そしてルプちゃんに手を差し出す。
「――手伝ってくれるか相棒」
『当然です』
間髪入れず答えてくれる頼もしき幼女。
早速、とばかりに俺は白い地面に腕を突き刺した。