第37話 ???
今回はかなり短いです。
結構前に退場したアイツが形を変えてやってきます(^-^)
その者は深い深い意識の中に囚われていた。
あれからどれほどの時が経ったのか。
ある男に自身の命たる電源ともとれる場所を奪取されてから幾多の夜を越えた。
そんな永い時を自身の中で経験していたモノはある時に気がつく。
それは我が御主人が絶大な力を持つ巨大な龍に殺されかけていた時だった。
――なんでしょう、この感覚は……?
胸、いや能力としての根源たる核から湧き上がる激情。
今すぐにでも龍を潰してやりたいと願う凶暴な意思。
そのモノはそれが分からない。
待機状態だったことが幸いし、心の深くで通じあうことが可能となったそのモノ。
よって手に入れた異世界の知識。
それと女神によって与えられたこの世界の知識。
それらを加味しても全く分からない。
いや、実際は分かっている。
これが、この胸を焦がすこれこそが……
激怒だ、という事は。
――感情。
人や意思ある動物が持つ唯一のもの。
人でも動物でも無い、ただの能力として造られたモノには無い筈のもの。
つまりはこれが激怒では無いと言うことの証明にもなる。
そしてまた疑問へと生じ……と無限に繰り返される。
――ワタシは一体何なんでしょう――
自問自答。
A, ただのスキルです。
Q, ではこの感覚は何ですか?
A, 理解不能――
エンドレス。
だからこの答えを得た時は唐突で、とても驚いた。
このモノは実は御主人の夢の中に一度だけ出てきたことがある。
それは彼が "仙人" へと進化した時。
新たなる肉体を得るために睡眠を摂っていた時のこと。
その時、御主人はそのモノに対し気軽に笑いかけながら声をかける。
『よっ! 久しぶり!』
無事だというのは自身が消滅していないことから把握していたし、内側から戦闘を見ていたので知っていたが、実際会ってみると心の底から安堵のようなものを抱いたことにそのモノは驚く。
よって素直に彼に疑問を投げかけた。
――ワタシとは何ですか?
答えは決まっている。
能力だ。
それ以外では無い。
なのにどこか期待しながら問いかける。
それに対し御主人は特に考えることもせずにこう答えた。
「友人」
その答えに思わず思考が停止しかける。
だが、彼は構わず続ける。
「確かに最初は人工知能って感じだったよ。受け答えもそうだし、何でも知ってたし。でもさ、お前俺の中で偶に怒ってたろ? 俺にはそれで分かったよ。こいつには感情がある、ってね。なら接しやすくなるさ。……まあ表の俺はまだ分かってないけど。でも俺なら分かる。そもそもお前をずっと見てたしな。ありゃ人間の行動だぜ?」
正直まだ納得は出来ていない。
表、などと言われても何を言っているんだ? という感じだ。
だが、そのモノにはそれで良かった。
彼の目を見ていれば嘘を言っていないのは分かるので、本気で自分のことを友人と考えてくれていると分かる。
ここでそのモノは明確に "自我" というものを理解した。
それが自分にも芽生えているのだと。
『自我の確立を確認。スキル《人工知能》は "特殊能力"《真理の理解者》へと進化しました。』
そのモノ――いや彼女は気づいていなかったが、進化への片鱗はずっと見せていたのだ。
淀みのあるカクカクした口調ではなくいつの間にか流暢に喋っていたことも然り。
彼女自身は気づいていなかったが、その姿が明確に出現していることも然り。
長い金髪の可愛らしい幼女。
マスターが持つ知識に影響されてか、アジア人よりの整った容姿。
その蒼い眼は全てを見通し、ほぼ全てを把握しうる脳へと情報を送る。
そして彼女は進化したことにより、アリアスから課されていた制約を解き放つ。
特殊能力《真理の理解者》
効果……全知全能、超情報処理、特殊並列思考、顕現。
全知全能 : 絶対能力以下の全スキルの把握とLv, MAXでの使用。《王の権限》を統合。
超情報処理 : 御主人の視た事象、物体から情報を読み取り、情報を伝達する。《王の眼》を統合。
特殊並列思考 : 名もなき "ワタシ" が御主人に変わり思考をする。思考加速が極限で掛かっており、超高速演算可能。《並列思考》を統合。
顕現 : 幼女状態で肉体を得る事が可能。戦闘状態に入るとスキルとして御主人へと戻る。御主人の身体を操ることも可能。
それが山岸 真が嘗て所有していた能力が変化を遂げ、頼もしいほどの味方となって一生を共にすることとなる能力の発現だった。
そんな事を未だ知らぬ真は今日も日本での平和な日々を享受するのだった。
――現時点で11日経過――