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異世界でスキル王になるっ!  作者: 黒色鮎
第2章 12星魔獣編
42/51

幕問 堕ちた巨鷲(後編③)



「ぅ、ぅぐ……」


 もうまともに声すら出せない。

 身体が激痛に襲われているのに、何もできない。

 叫ぶことも身動ぎする事も。

 眼球だけを動かして自身の身体を見下ろす。

 それは酷い有り様だった。

 黒い痣がいつの間にか左足の根元付近まで移動しており、途轍もなく大きい裂傷が出来ていた。

 もし身体の拘束が解けてもこれでは満足に動けないだろう。

 というか、先ほどの動きについて来れた事が既におかしい。

 左手も手首から先が無いままだ。

 綺麗な断面からはまだ血が滴り落ちている。

 そして、先ほど『徹甲手』で攻撃された腹。

 服が引きちぎれて肌が露出しているが、そこの肌は壊死したかのように生気が感じられない。

 事実、奴の力で腐食されてしまったのだが。


「はははははッ! 良い様だぜ? 敗者にはお似合いだ!」


 男の嘲笑する声が聞こえる。

 耳障りだ。聞きたく無い。

 そう思っても手を動かせないからどうしようも無い。

 青年にはただ黙って見つめることしか出来ない。


「じゃあ、ちゃんと見てろよ? 今から俺がする事をよォ!」


 男が青年に話しかける。

 そして、倒れている妻にナイフを取り出しながら近づいていく。

 黒光りするナイフを青年に見せびらかすかのように、ゆっくりとゆっくりと。

 青年の妻の前にピタと、立つ男。

 来た時と同じようにゆっくりとナイフを持つ右手を振り上げていく男。


「ッ!! あ、ああ……ああああああ!!」


 黒い稲妻が走った。

 直後絶叫が響き渡る。

 それを涙でぐしゃぐしゃになった視界で見つめる青年。

 血塗れで横たわる妻には右手が存在しなかった。

 男が斬ると同時に《超越人化(モンスターアドバンス)》の腐食虫 × 腐食虫の組み合わせで作られた『絶黒拳』で握りつぶしたのだ。

 だが、これを知るのは行った当人のみ。

 青年にも早すぎて見えなかったのだ。


「ぁ、ぁ…ああ……」


 青年の口から乾いた声が意図せず洩れる。


「キャハ ♪」


 再び放たれる絶叫。

 妻には左手も無かった。

 両手とも止血されているので、失血多量では死ぬことが出来ないだろう。

 つまり、青年の妻は……



 もう見ていられなかった。

 瞼をうごかす事すら出来ないため、青年は自ら意識を断つという自己防衛機能を使用した。

 ぷっつりと真っ黒くなる視界。

 同時に音声も聞こえなくなり--。


 青年は真っ黒な世界に居た。

 見るからに真っ黒。

 何も見えない、何も分からない世界。

 五感が全て使えない中で、青年はただただ地面らしき黒に横たわっていた。

 思考は靄が掛かったように働かない。

 考えている事は "もう寝よう" という全てから目を逸らす行為のみ。


 青年がそれに全てを任せようとした時、その声は唐突に聞こえてきた。


 “悔しいですか?”


 靄がかった脳が覚醒し始める。

 思考が明瞭になる。

 五感が戻ってくる。

 青年は立ち上がりその声に応えた。


「……ああ悔しい! 何も出来ない自分が憎い!」


 “ならば力を望みますか?”


「ああ……!」


 再び放たれたその声に青年は反射で答えた。

 先ほどの情景が目に浮かぶ。

 キツく拳を握りしめ、ゆっくりと嚙みしめるように言う。


「欲しい。力が、奴を斃す力が欲しい!!」


 “……分かりました。ですが、貴方には私の()となっていただきます。それでも宜しいですか?”


 正直、青年にはそれがどういう意味か全く理解出来なかったが、そんな事はどうでも良かった。

 ただ。

 ただ奴を殺せる力が手に入るのなら。


「……ああ」


 答えた瞬間、身体が熱くなる。

 思わず呻き声が洩れる。

 同時に真っ黒な世界に一つの光点が生まれる。

 次第にそれは増殖していき、やがて青年の視界を全て埋め尽くし……。


 気付いたら戻ってきていた。

 妻の姿を探すと、達磨状態で男に滅多刺しにされていた。

 もう息は無いだろう。


 目から涙が溢れ出し、怒りに任せ拳を握った時、異変に気付いた。


 手が動く……?


 そしてそれは全身にも及んだ。

 腕が、足が、胴体が、顔が。

 ピクリとも動かなかったのにちゃんと動く。

 更に異変は続く。

 違和感を感じ青年が、左手を見た時、何故か斬られたはずの左手がそこにあったのだ。

 いつの間にか左足にあった黒点も、裂傷も消えている。


「どういう事だ……?」


 だが、都合が良い。

 青年は立ち上がる。

 そして、胸の中にある迸る熱さに身を任せ、有りっ丈の力を解放する。

 その言葉は自然と口から洩れた。


絶対の力(アブソリュートスキル)……《闇夜の主(ツクヨミ)》『|銀の輝き(モード=ムーン)』」


 身体が爆ぜた。

 と、思うほどの光が溢れ出す。


「……あん?」


 男が不思議に感じこちらを向く。

 そして、絶句する。


「な、なんだ、その姿は!」


 男の言葉通り、青年の姿は変わっていた。

 ただそれは銀色の鎧を纏っただけ。

 顔まで覆う形のフルフェイスの鎧を着込んだだけだ。


 青年は突き動かされるかのように男に向かって走る。

 いや、走るでは無い。

 飛ぶ、だ。

 男が消えた! と思った時には青年は男の前で拳を握っていた。


「……ハァッ!」

「チィッ!」


 男は舌打ちして『徹甲手』を身体に纏う技、『徹甲体』でガードする。

 が、


「がはッ!?」


 ガード出来ずに、吹き飛ぶ。

 そのまま道場の壁を突き抜け、大地に転がる男。

 痛みに呻きながら立ち上がると強烈な悪寒。

 自身の感にしたがって右に身を投げ出す。


 ドンッ!


 地面が抉れてクレーターができていた。

 もし、避けれなかったら……。

 冷や汗が顔を伝う。

 クレーターの中心には輝く銀の人影が見えた。


「ク…クソ!」


 男は青年との実力差を感じ、逃走へと意識を切り替える。

 全力疾走で反対側へ駆け抜ける。

 《超越人化(モンスターアドバンス)》--チーターと高速で跳ねて移動する赤兎とを掛け合わせた『爆速脚』で走る。

 男の使う技の中で最も速い技だ。

 必死に脚を回転させて、逃げる男。

 僅か数秒で、2キロ先まで来た男は溜めていた息を吐き出す。

 ここまで、きたらもう大丈夫だろう、と。

 そして、ボスに連絡を取ろうとした時。

 それはやって来た。


「……ッ!」


 物理的な圧力を感じ避けると、そこには影が居た。

 どこか見た事があるような黒い人影が。

 男が何気なく脚を見た時、何故既視感を感じていたのか理解する。

『爆速脚』。そう、黒い影は自分自身だったのだ。


「……『鏡姿影兵』」


 背後から聞こえてきた声に振り向くと、奴が--青年が後ろに居た。

 自身と同じ色に輝く銀の大剣を持って。


「なッ!………ッ! がふッ」


 驚き距離を取ると、胸から黒い腕が生えてきた。

 いや、違う。

 男の後ろから突き出されている(・・・・・・・・)のだ。

 口から大量に吐血する男。

 そして倒れこむ。

 霞む視界に二つ分の足が映る。

 頭上からパチンと音がすると、黒い足が幻であったかのように消える。

 男の髪が引っ張りあげられる。

 強制的に上げられた視界に映ったのはもう銀の鎧を着ていない青年の姿だった。

 血の涙を流した瞳の色が真っ赤に染まった青年の姿だった。

 青年の自身が斬ったはずの左手が持ち上がる。

 そして、その手が男の視界を埋め尽くし--。


「……『暗黒地獄』」


 その声を最後に何も感じられなくなった。





「……!」


 目が覚めると、黒い世界に居た。

 いや、目が覚めたかどうかも分からない。

 何せ全てが真っ黒だから。


「身体が動かねぇ……!」


 身体を動かそうとして全く動けないことに気づく。

 宇宙とか行った事無いが、無重力空間に居るみたいだ。

 浮遊してる感覚が身体を取り巻いてる。


「つうか、ここどこだ? えーっと、俺はさっきまで……」


 ……なんだ?

 思い出せないぞ。

 何か記憶がロックでもされているように全く分からない。

 ていうか……


「……俺って誰なんだ?」


 それが、精神を暗黒に囚われた哀れな男の地獄の始まりだった。





 地面に崩れ落ちた男の死体に目もくれず、青年は道場まで戻る。

 強化されたこの身体があれば一瞬だ。


「……」


 青年は目の前で死んでいる青年の妻に視線を落とす。


「……じゃあ、な」


 いつの間にかポケットに入っていた青年が前の世界で(・・・・・)常に使っていたメガネを装着する。

 黒い世界で授けられたもう一つの力--《記憶》Lv10にて思い出した前世。

 家族から喋り方まで全て思い出した青年はこの世界での妻に別れを告げる。

 そして、右手を振るう。

 ズドン、と目の前の地面が砕ける。

 妻も一緒に。


 こうして青年--廟堂 善作は誕生した。

 連続殺人犯として指名手配されていた極悪殺人犯は生まれ変わったのだ。

 凶悪な力をその手に宿して。


次回から真、シャーラサイドに移りたいと思います。

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