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異世界でスキル王になるっ!  作者: 黒色鮎
第2章 12星魔獣編
39/51

幕問 堕ちた巨鷲(中編)

「頼もー」


 ある日道場の入り口からそんな声が聞こえてきた。

 青年は「またか……」と思いつつ道場破りであろう男性と出会った。

 出会わなければこんな悲劇起きなかったのに。


道場(うち)に何か用か?」

「あー、うん。破っとこうと思って」

「……馬鹿にしてるのか?」


 男の様子に青年はもとより弟子たちが先に切れる。


「おい! ふざけたことぬかすなよ!……師匠。こいつは任せてください!」


 そう言ったのはこの道場のマスコット的な存在の冒頭で青年と戦っていた男。

 少年と言っても良い外見なのにその強さは道場一の男の、その言葉に周囲も「そうだ! そうだ!」と同意する。


「………分かった。お前に任せる」

「ありがとうございますッ!」


 少年はそのやり取りを欠伸をしながら聞いていた男に向き合う。

 強者が持つ威圧感というものが全く感じられない事に少年は鼻を鳴らす。

 そして自身は全力の威圧感を出す。

 スキルだよりではなく、少年が修行して身についたそれは思わず周囲が身構えてしまうほどの迫力を出していた。


「……行くぞッ!」


 少年は早速仕掛ける。

 先ずは小手調べなのだろう。右の手のひらで掌底打ちを繰り出す。

 それを見た男は。


「……遅い」


 呟やき、右手で受け流す。

 そして左の拳を少年の鳩尾に叩きつける。


「ガハッ!」


 呻く少年。

 周囲からは男を馬鹿にした雰囲気はもはや無い。

 何故なら今の拳が早くそれでいて滑らかにピンポイントで少年の鳩尾に入ったからだ。

 青年もピクリと眉を動かす。


 男のターンはまだ続く。

 一瞬の停滞も無く放たれる右足の回し蹴り。

 悶絶する少年はそれを受ける他無い。

 顔面に衝突し吹き飛ばされる。

 そこに突っ込む男。

 ノータイムで繰り出される拳の雨。

 全て的確に急所と呼べる部位に入っている。


 ここでようやく少年が抵抗を見せる。


「調子に乗るなぁッ!!」


 目も眩むような一撃。

 正拳突きが男の顔面に吸い込まれる。


「……ッ!」


 戦い始めて初めて焦る顔をする男。

 だが腕を振るっていたのでガードは出来ないし、拳を叩き込んでいた為急に動くことも出来ない。

 咄嗟に顔を逸らしたのは流石、と言うべきか。

 掠っただけで少年とかなり距離を話される男。

 スキル《格闘術》Lv6による全力の正拳突き。

 腕の振りだけでしか打てなかったがかなりの強さが込められていた。


「……武器使えよ。俺も今から使うから」

「………分かった」


 少年がいつもの小太刀2本を構える。

 男は来ていた腰までしかない真っ黒の外套の中に手を突っ込む。


「……!」


 少年が微かに額から汗を垂らす。

 男が懐から出した一本のナイフがとんでもない威圧感を放っていたから。

 本人と同じ真っ黒のナイフは、窓から入る日光に反射し、黒光りする。

 ギラつくような黒は全てを切り裂く鋭さを兼ね備えている。


「……では今度はこちらから行く」


 気怠げな様子をやっと消し、ナイフ同様鋭い目で少年を見据える。

 来るッ、と少年が身構えた時、それは起こった。


「……え?」


 道場内に一陣の風が吹いた。

 同時に男の姿が消える。

 青年ですら影でしか捉えられないほどのスピードで少年に迫る男。

 少年はそのスピードについていけない。

 だが、何か脅威が迫っていることには気づいたのだろう。

 2本の剣を自分の前で交差させる。


「ッ! ぐうう!!」


 途端、伝わる強大な衝撃。

 耐える事が出来ず吹き飛ぶ少年。


「ゴフッッ!!」


 道場の壁に埋もれる少年。

 パラパラと木片が飛び散る。


「まだだ」


 男がまたも超速で少年に襲いかかる。

 少年はフラフラする身体を押さえつけてスキル《立体起動》Lv5で壁を足場に天井と三角飛びの容量で男がさっきまで立っていた場所の背後を取る。


 ドゴォォッン!!


 もたれ掛かっていた壁に幾閃もの斬痕が刻まれる。

 死の斬撃により壁はその攻撃を受けた場所のみ大きな穴を開ける。

 もはや壁としての役割を果たしていない。


「チッ」


 そんな声が男から放たれた時、少年は覚悟を決めた。

 今まで師匠にしか使ったことのない大技を使うことを。

 今後使うな、と師匠にすら言われた奥義を使用すると。


「《二刀流》Lv3、奥義 "光速旋風"!!」


 《二刀流》--《双剣術》の進化スキルであるそれは今までよりももっと速く、それでいて重い一撃を放てるように少年を強くした。

 青年へと一度だけ放たれたその技は、どんな技を使っても傷一つ負わずに涼しい顔で切り抜けてきた自らの師匠に一太刀入れた。

 一撃当てただけだった。しかも練習用の木剣で。

 だが--。


『ーー! これは……! ぐッ!』


 師匠が《堅守(プロテクト)》を使って脚と身体を強化したにも関わらず吹き飛ばしたのだ。

 怪我は全く負っていなかったが、もしこれが実戦用の刃が付いた武器だったら--。

 恐らくかなりのダメージを負っていただろう。

 それ程の一撃だったのだ。


 それを今少年は放とうとしている。

 自分にさえ大ダメージが入る諸刃の剣を。


「ーーーー! 止めろ!」


 だが、少年は止まらない。

 一向に左の小太刀を逆手に持ち、右の小太刀を真っ直ぐ相手に突きつけている "光速旋風" の構えを解こうとしない。

 そしてそれが高まった時。

 少年は大きく動いた。


「はあああああ!!」


 少年が床を蹴る。

 勢いは殺さず、両腕を操る。

 右手の剣は肘をピンと伸ばして大きく広げる。

 左の剣も広げるが、逆かさ持ちで広げる。

 先ほどの男のスピードには遠く及ばないまでも、かなり速いもので突撃する。


「(躱し易さは変わらないな)」


 躱した後、一太刀入れてやろうと思い、ギリギリで避ける男。

 それが間違いだったと気づくのにそう時間はかからなかった。


「ーー!」


 男が避ける直前で大きく左右に開いていた両の剣を一息に回す。

 それは正に--


「……閃光」


 間に合わず斬られる男。

 そのまま壁に吹き飛ぶ。

 追撃はしない。

 息を荒げながら男に様子を見守る。


「………今のは見事だった」


 身体に一文字の刀傷をいれた男が何事も無かったかのように壁から出てくる。


「《堅守(プロテクト)》か……」

「よく分かったな。俺の《堅守(プロテクト)》のレベルは4だ。それでも擦り傷は負ったんだからお前はすげぇよ。……俺の感情限界(リミッター)が解除されちまうくらいにはな。少し暴れるからもうちょっと耐えてくれよ?」


 さっきとは明らかに纏う雰囲気が違う。

 気怠げな、何をするのも面倒くさそうな感じはなんだったのか?

 そう問い詰めたくなるくらいの変化だ。


 男が動いた。


「……くっ!」


 と、弟子たちが見た瞬間には少年は男の肘鉄で数m後退していた。

 そこに繰り出される圧倒的速さの突き。

 捌ききれずに少年は傷を負っていく。


「……ふッ!」

「……! ぐわあッ!?」


 男の一際強烈な突き。

 僅かに反応するも、抵抗虚しく右脚に刺さる。

 急所は避けるも右太腿に深手を負う。

 もう動くこともままならないだろう。

 勝敗は決したな。

 男は宣言する。


「……止め! この試合継続不可によりーーーーの負けと--」

「うるせぇ!!」


 男の左手から青いオーラが放たれる。

 それは青年に真っ直ぐ向かってきた。


「……無駄だ」


 青年はそれを片手で握りつぶす。

 水飛沫が辺りに散らばる。


「お前ら! 奴をとりおさえろ!」


 言って青年も動く。

 男が次に何をするのかが分かったために。

 先ほどの水の塊。

 あれには人を殺せるだけの力が込められていた。

 しかも完全に握りつぶしたから大丈夫だったが、もし何かで斬っていたりガードしていたりしたら水の塊の中から "水刃" が幾数も飛び出して周囲に甚大な被害が出ていただろう。


「奴はーーーーを殺す気だ!!」


 青年渾身の上段蹴り。

 《空歩》Lv2で2回空気を蹴って更に速さを付けた。

 だが、


 スパンッッ!


 間に合わなかった。



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