第32話 赤嶺side 中編
少し短いかもしれないです。
「……何っ!?」
黒い手帳型の神器……駄目だ。見た事も聞いた事も無い。
というか、本当にそれは神器なのか?
僕がアセンションの他に知っている神器は例に漏れず武器の形を取っていた。
七色に輝く巨大な戦斧。
白銀の二又の槍。
手帳などという非武器の形をとっているものなど見た事も無い。
「……疑問に思っているようだな。……だが、これはれっきとした神器の一つだ」
奴はそこで言葉を切ると、懐から手帳を取り出す。
咄嗟に警戒する。
アセンションを両手で構える。
そんなものは関係無いとでもいうように無造作にページを捲り始める廟堂。
その豪胆とも思える行動に若干不安を覚えるが、自分が騎士長だと思い出した赤嶺は手に汗握らせつつも廟堂の些細な行動一つ見逃さないように臨戦態勢を維持する。
「……《暗黒の魔手》」
ズズズズズ!
地の底から響いてくる低音に咄嗟に赤嶺は廟堂から距離をとる。
それは正しい判断だった。
ズドンッッ!!
僕が立っていた場所から真っ黒に染まった巨大な一本の腕が屹立していた。
もしそこに留まっていたらその手に握りつぶされていただろう。
自分の本能に感謝する。
「……やはり避けたか。……それくらいは当然か」
「自分のカンと本能に委ねただけなんだけどな。それにしても随分なご挨拶だな」
その言葉に「……フ」と笑うと廟堂は開きっぱなしだった手帳を閉じる。
そして、それを掲げながら僕に説明してくる。
「……この神器 "盗賊の手記" はある条件を満たすと相手のスキル、それも絶対の力以下のスキルならなんでも盗めるある意味、最も強いとも言える神器だ」
「……」
表面上は無表情をとり繕いながらも内心激しく動揺してしまう。
相手は年の功なのかそれを読み取ったようだ。
「……嘘では無いのは私がスキルを多用しすぎている事から分かるだろう」
分かっている。
だから……やはり貴方はここで倒さなければいけないようだ。
「"第7形態" 神樹の悪夢!!」
光を放ちアセンションが形を変えていく。
それはたちまち、神々しい光で出来た一本の巨大な樹木へと成り替わる。
ファァァ!!
辺り一面を細かい光の粒が覆い隠す。
僕の中の最強技。
人は愚か危険度Sランクオーバー相手でも一撃で即死させてしまう恐ろしい技。
「……!」
廟堂は《暗黒の魔手》で自分の周りを囲み、光の粒が入ってこられないようにしている。
それは正しいようで、正しくない。
それは後々説明しよう。
廟堂の目論見通り光の粒では《暗黒の魔手》の守りを崩せなかった。
フッ! アセンションが急激に光り出すと一気に元の一本の剣へと戻っていく。
瞬きすら遅く感じるような時間で元の姿を取り戻したのだ。
奴が《暗黒の魔手》から顔を出す。
危険が無いと判断するや否やおもむろに手帳を開く。
くそ! 手が邪魔で見えない!
だが……、
僕の技はまだ終わっていない。
「……っ!? ガハッ!」
手帳を開いたまま廟堂は口から大量に吐血する。
夥しい量の血が地面に広がる。
「……遅れて…くる……タイプの…技か……」
「その通り!」
正確には第一射で撃ち漏らした敵を逃した後に遠くから嬲り殺しにするための第ニ射だ。
どんなに一射目を防いでも空気中に漂っているニ射目を躱す事は出来ない。
文字通り一撃必殺の終わりなき悪夢なのだ。
「……ーーーー」
廟堂が何事か呟く。
声が小さくて聞こえない。
おそらく、盗賊の手帳の中に入っているスキルなのだろう。
事実、今も開いた手帳を右手に持ってるもんな。
「……ふう。……大分痛かったな」
「……ちっ! もう回復されたか」
突然光が瞬いたかと思うと次の瞬間にはさっきまで本当に苦しんでいたのか疑いたくなるほど涼しい顔をした廟堂が立っていた。
一応、"カバーシールド" にしておく。
廟堂がページを変える。
フッ、と出現する真っ黒な手。
《暗黒の魔手》だ。
それをそのまま僕に向かって放つ。
余裕を持って準備していた "カバーシールド" で黒の巨手の進路を妨害する。
まさに、今接触するーーと思われた時。
「……っ!?」
スカッと "カバーシールド" を貫通してきた。
「ぐっ!」
そのまま僕に直撃する。
身体が闇で覆われる。
不思議と痛みは感じなかった。
が、大量の精神力がゴリゴリと削られていくような感じがした。
このままでは不味い!
咄嗟にスキル《瞬歩》、《堅守》を使用して、カバーシールドを踏み台に身体を強化しつつ爆発的なスピードで闇を抜ける。
「……」
廟堂の右手がこちらを向く。
ズドンッ!
その手から細長い青い炎が飛んでくる。
今はまだ空に浮いているため避ける事は不可能。
それは僕の左肩に着弾した。
「っぐああああ!!」
左肩が焼け爛れ、神経が幾つか切断される。
その中には手を動かすのに必要な重要な神経すらも含まれていた。
着地に失敗し派手に地面を転がる。
それを無表情に眺めていた廟堂は今度は両手を僕に向ける。
全ての指から青い炎が出現する。
そして、それらは一切の躊躇いもなく僕に向かって一斉に放たれた。
次回は再来週に何話か連続で投稿予定です。