第28話 祥介side 前編
「ハアハア。……危なかったですわ」
シャボン玉のようなフヨフヨした物体の中で人心地付くショートカットの美少女。
彼女は暴走マコト(仮)の斬撃を凌いだのだ。
いや、正確には凌いではいない。
確かに斬撃を何度も喰らい絶命した。
だが、それは彼女の持つ《唯一の力》である《幻想》の自身の姿をした偽物だ。
ーーユニークスキル《幻想》。
相手の眼を誤魔化し、物体を別の物に見せる事が出来る能力。
マコトにも効いた事から、かなりの上位のスキルだと判断出来る。
ユニークスキルは《絶対の力》の1個下くらいの位置にあるスキルだ。
つまり力でいえば《王の力》には到底及ばない。
あくまで力量差なら。
ユニークスキルの真の価値はその応用力にある。
ユニークスキルは相手に対しどんな場面でも有効に働く事が多い。
今回の件も然りだ。
更にこれに普通のスキル、ただの下位、中位のスキルを合わせる事で格上すらも喰う事が出来るくらいに化ける。
彼女はそれを利用した。
彼女が使っているスキルは凡庸な飛行用のスキル。
余り注目されていなかったので、実質ユニークスキルとも言えるかもしれない。
スキル《泡浮》。
古代の人々が開発し今は廃れた文明のスキル。
自分の周囲から泡を出し、それの内部に入り空を飛ぶスキルだ。
いや飛ぶ、では語弊がある。
浮く、だ。
ある程度は操作可能だが、強風が吹けば一瞬で吹き飛ぶ。
だから、現代の人々はこれを忘れてしまったのかもしれない。
実際、飛ぶなら今、かなり普及している《翼付与》を使った方が良い。
これは身体に翼を生やすものなので、風程度では流される事も無い。
ある程度操作慣れが必要だが、慣れれば鳥のように自由に空を飛べる。
《泡浮》では風の他にも他生物にそこそこの力で叩かれたら割れる、というかなりデリケートなシロモノで相応の扱いをしなければならないという欠点があるが、《翼付与》はちょっとやそっと当たってもグラつきもしない。
というかそもそも躱せる。
だから、彼女以外の二人も飛ぶ時にはこのスキルを使っている。
じゃあ何故彼女がそれを使わないのか?
《泡浮》に思い入れでもあるのか?
答えは、《翼付与》は生えてくる翼が気に入らなくて使っていない、だ。
あと、《泡浮》はシャボン玉の中に入って飛ぶというメルヘンチックなスキルになっていたので、こっちにしたという理由もあるが。
「でも、これでかなり面白くなりましたわね。……あの暴走状態で本物さんと出会ったら。……考えただけでも楽しいですわ」
彼女は空から文字通り高みの見物をしている。
ここで、敗れた彼女が入るのも無粋だからだ。
そもそも勝てないというのもある。
空から見ているとマコトとかいう真っ黒い暴走人間は自分が《幻想》で成りすましていた少女に出会っていた。
あの様子から察するに理性は無いだろう。
ガアァァァッ!とか叫ぶ真人間がいたら逆に見てみたいものである。
「ついに接触しましたわ! さてこれからどうなるのか! 楽しみですわ〜♫」
彼女の視線の先では鉢合わせをしたマコトとシャーラの姿があった。
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一方、そのころ祥介は……
「どこかな〜、あえて感知系のスキルは使わねえから存分に隠れて良いぜ!」
珍しいリーゼント頭のヤンキーの声が響く。
それを茂みに隠れてやり過ごす祥介。
その姿はボロボロだった。
所々服が破け、血だらけの肌が露出している。
「隠れんぼは好きなんだよなあ。……見つけた時の快感がたまんねえよ!」
「……チッ、楽しんでやがる」
小さくぼやき何故こうなったのかをもう一度考える。
最初は祥介が押していた。
真達と逸れて、このヤンキーに会った時は ”あの強大な威圧感の持ち主か!?” と身構えたが、ヤンキーの放つ威圧感が圧倒的に先の物とは違ったので、祥介の方から姿を現し攻撃を仕掛けたのだ。
意識の外からの完璧な奇襲。
感知系のスキルの気配は無かった。
祥介が狙ったのは勿論頭。
エンチャントは無しでそのままの刀を頭目掛けて振るった。
が、
「……ヒュウ! 危ねぇ危ねぇ」
それを奴はギリギリで躱した。
今思うとこの時点で逃げれば良かった。
だが、その時は「何っ!?」とは思ったものの攻撃の手は止めなかった。
刀の勢いにわざと流されて左足で蹴りを放つ。
それは奴の脇腹に直撃した。
奴はリーゼントを揺らしながら派手に吹き飛んだ。
なので、この時既に初手で躱された事は忘れていた。
追撃する。
ヤンキーが起き上がる前に奴の前に移動し刀を水平に振るう。
今度は避けられないように首の辺りを狙う。
頭を下げたとしても斬られる位置だ。
そもそも奴は大勢が崩れている。
避ける事は不可能だ。
「……もう良いか?」
奴の首にもうすぐ当たるーー時にヤンキーらしいぞんざいな口調で問いかけてきた。
不審に思うも咄嗟には止められない。
祥介の刀は奴の首に吸い込まれるように直撃する。
キィン!
しかし、弾かれた。
いや、違う。
祥介の刀の半ばから全てをへし折ったのだ。
「……っ!?」
半ば以上無い刀身を失った刀を呆然と見る。
この刀は祥介の所属するグループで一番力がある人間が作った業物だ。
強度は折り紙付きで、スコーピオンの表皮でさえも弾かれはしたものの折れはしなかった。
それをこの男は首筋だけでへし折ったのだ。
たとえ《堅守Lv10》を使ったとしても折れないこの刀を折ったのだ。
ここでやっと祥介は相手の異常性に気付く。
武器も失ったので、と撤退を主として考え始める。
だが、それが隙になった。
「《蠱毒》! 喰らいやがれ!」
リーゼントを揺らしながら両手をこちらに向けてくるヤンキー。
するとその手から紫色の液体が勢いよく射出された。
危険を感じた祥介はそれを刀身がほぼ無い刀で叩き斬る。
「なっ!?」
ここで祥介は更に驚く。
ジュワアアア
刀が溶けた。
紫色の塊を斬った瞬間、刀身が溶け、すぐに柄の方も溶け出していく。
慌てて刀から手を放す。
地面に落ちた刀は落ちた衝撃で粉々に砕け散った。
そして、やはりジュウウと音を出して溶けた。
刀の欠片達は全て地面のシミとなる。
ここで更に祥介は奴の評価を上げる。
祥介が刀に気を取られている間に奴は自身の周りに紫色のシャボン玉を浮かべていた。
そう、奴が言っていたスキルーー《蠱毒》を固めた物のような。
蠱毒とはコドクと読む最上位の毒の事だ。
一つの壺の中に沢山の毒虫を入れて殺し合わせ、生き残ったムシが持つ毒。
それが蠱毒。
全ての毒を超越した超猛毒。
当然スコーピオンの毒なんかこのレベルには及ばない。
いくら ”猛毒” と言っても蠍は壺の中で最後まで生き残れなかった。
つまり、その程度という事だ。
そんな毒の塊が一斉に祥介を襲った。
急病に付き、一旦更新終了です。
すいません(涙)




