第26話 シャーラの心
感知系のスキルを総動員させても周りからは気配が感じとれない。
完全にはぐれたー!
んー。
どうしようか?
選択肢は二つある。
一つははぐれたあいつらを探す事だ。
あの強烈な殺気。
威圧感の中に殺気が混ざっていた。
それも結構な割合で。
つまり敵は俺たちを殺る気だろう。
だからあいつらがもし俺と同じような目に遭っているのなら勝機は無い。
最低でも二人、出来れば全員揃って臨まないと勝てない。
探すか?
……だが、探しに動いてそのままバラバラになって更に分からなくなったらどうする?
そうなったら詰みだろう。
二つ目は待つ事。
常時感知系スキルを発動させ誰かが通りかかるのを待つ。
だが、それには敵が引っかかる可能性がある。
感知系スキルは感覚が鋭敏な人なら自分が感知されていると理解出来る。
だから、敵が引っかかりあの強大な奴と一対一で……。
ムリムリ。
俺そしたら死ぬじゃん。
なら無難に探すしか無いか。
考えてて思い出したけど俺ってこういう時に使えそうなスキルを持ってるわ。
良し。
使おう。
「初めて使うんだけどなあ……まあ成り行きで何とかなるか。……《分裂Lv1》!」
上位のスキルでは無いが、ステータス画面でなぜか独立してたから気になってたのだ。
おそらく中位スキルかな?
「ん?……おおお!」
俺の身体から何かが出て行く感じがする。
横を見るともう一人の俺が立っていた。
無表情でどこか冷めている印象を受ける。
クールとも違う。
……俺ってこんな感じなの?
いや、そんな訳は無い!
俺は………もっと感情豊かだ!
コホン。
話を戻そう。
とりあえず《分裂Lv1》は成功した。
レベルが1だからかどんなに頑張っても1体しか出せなかったが成功はした。
問題はどうやって命令を出すかだが……。
「口で喋れば分かるかな? おーい聞こえる?」
すると、微かに瞼が動き一度目を閉じる。
そして、すぐにまた開いた。
YESって事?
だが、何にせよ通じる事は分かった。
「良しっ! ならば、俺の仲間を探し出せ! 見つけたら《念話》で俺に呼びかけてくれ」
瞼を一度開閉させて、”俺” は行ってしまった。
あ、そうだ。
俺は走り去っていく ”俺” に《並列思考Lv1》の並列意思を植え付けてみた。
すると、”俺” は一度こちらを振り向くとサムズアップしてきた。
うぜえ。
……でも俺っぽい。
そして、”俺” は闇夜に紛れた。
『経験値が一定に達しました。スキル《並列思考》をレベル2に移行します。』
そして、今更レベルアップしやがった。
俺にはまだ試したい事があった。
《分裂》の他にももう一つ上位スキルでは無いのにステータス画面に記載されていたスキルがあったのだ。
それも使ってみる。
「《召喚Lv1》!」
おおー!
俺の目の前の地面に魔法陣が形成される。
それが発光しだした。
その光が生物の形をとり始める。
その光はやがて烏の形をとった。
カァー、と鳴く烏。
中々良いんじゃ無いか?
烏は上から偵察も出来るし。
これは良いスキルだった。
ただ一つ気になって二重検索してみる。
『召喚 : レベル相応の使い魔を出すスキル。レベルが1だと術者と最も相性の良い生物が生み出されーー』
そこで俺は読むのを止めた。
だって、烏と相性の良いって、俺が人からのおこぼれで生きてるっていう事になってしまうじゃないか。
断じて違う!
そんな訳無いだろ!
……今は捜索に集中だ。
二体が出て行ってからほんの数秒。
さっき飛び立った烏がシャーラの居場所を捉えた。
流石、優秀だ。
つまり、俺もそれくらい優秀って事にーー。
うん。
この話は止めたはずだったな。
一先ずシャーラの所に行こう。
ここからシャーラの場所までは20mくらいだ。
感知系スキルの限界範囲はおよそ10m。
結構遠くではぐれたもんだ。
「シャーラ無事か!?………シャーラ?」
《瞬歩》まで使ってシャーラのもとに向かった俺は、そこで蹲っているシャーラの姿を見つける。
「おい、大丈夫か?」
「……マコト?」
「ああ。頼れるお兄さんマコトさんだぞ!」
「……」
「その無言止めて!」
呆れるような目で俺を見つめてくるシャーラ。
こんな事しなきゃ良かった……。
「……ねえマコト」
それまでの雰囲気を霧散させ俺に問いかけてくるシャーラ。
「ん? 何だ?」
「……このまま二人で逃げない?」
「………は?」
俺は自分の聞いた事が信じられなかった。
シャーラが逃げようだって?
そんな馬鹿な!
シャーラは仲間を大事にするはずだ。
それは、見ず知らずだった赤嶺を助けた事からも分かる事だ。
「今、私は凄く怖い。震えが止まらないの!……もう早くここから逃げ出したいのよ」
「いや、でも」
「……ねえマコト。何で私が怖いのを我慢してここまで残ったと思う?」
「え?」
「それはね………あなたが好きだからよ」
「……は?」
衝撃的だった。
あのシャーラが俺を好き?
そんな訳無いだろ。
第一、俺とシャーラは出会って1日だ。
そんなに簡単に人を好きになる訳が無い。
「……期間なんて関係無いわ。あなたは私を助けて、支えてくれたじゃない!」
いや、だが……
「勝手にスコーピオンに飛び出していった私を死の淵から救い上げてくれたじゃない。……あの恐怖の象徴のようなスコーピオンから!」
「……」
俺は右手の拳を握り締めた。
身体が震える。
「……私はあなたが大好きなの。期間なんて関係無い。あなたの優しさに惚れたのよ」
俺は無言でシャーラの側まで歩いていった。
そして、シャーラの肩に左手を載せた。
そして、有無を言わさずシャーラの顔に自身の顔を近づけていく。
「マコト……」
シャーラのか細い声が聞こえる。
安心させるように呟く。
「シャーラ……俺は……」
そう、俺はお前の事がーー
「大嫌いだよ!!」
握りこぶしのまま待機させておいた右手を躊躇いなくシャーラに向かって全力で振り下ろした。