第2話 初コンタクト
1号が放つ大振りの一撃をバックステップで回避すると、あいてが硬直する隙をついて胴に一撃を加える。
「グギャア⁉︎」
チッ、枝で殴るような一撃ではあまりダメージを与えられないか。だが、《力強化》Lv1が無ければ今ぐらいの威力は出ないだろう。感謝だな。
1号はお返しとばかりに下段から右上に向かって剣を振るってくる。それを左に半身になる事で回避し、1号の頭目掛けて蹴りを放つ。それを頭を後ろに反らして避ける1号。....だが、俺の本命は蹴りじゃない。蹴りから一拍置いて放たれた渾身の突きがあいての脇腹に突き刺さる。
「グギャグギギッ!」
苦悶の声を上げる1号。しかし、俺の攻撃はまだ終わって無い。あいてに突き刺さる枝を持っていた手を離し手刀を放つ。
脇腹の痛みと右手に走る痛みから1号は剣を手放す。それを見逃すほど俺はお人好しでは無い。剣を踵で後ろに蹴り、1号を左手で押してから俺は剣を掴む。
「残念だったな。もう、お前に勝機は無い‼︎」
その剣を1号の頭目掛けて振り下ろす。1号はその一撃で消沈した。すると、
ピロリロリーン!
『経験値が一定数になりました。Lv2にアップしました。』
そんな声とともに頭に情報が流れ込んできた。
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名前 : 山岸 真
種族 : 人間
持ち物 : アイテムボックス
装備 : 普通の服(防御力、1)
スキル : 模倣Lv1・言語理解・剣術Lv2・力強化Lv2
○アップロード可能
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おおっ、進化キタコレ!
えーとなになに?
《力強化》がLv2になってるな。他は現状維持って感じか。
む、何か「アップロード可能」って書いてあるぞ?よく分からんがとりあえずしてみるか。
「すいませーん。アップロードっていうのお願いします。」
すると画面が広がった。どんなふうにかというと....、
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名前 : 山岸 真
……力強化Lv2
攻撃力:110
防御力:105
魔力:30
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ステータスの一番大事な部分来たぁー!
俺って人の中ではどんぐらいの強さなのかな?
最強レベルとか? いやー、異世界から(この世界基準)来たんだからこれぐらいは当然だよね。はっはっは、参った参った。
さて、遊ぶのはここまでにしよう。さっさとしないと血の匂いを嗅ぎつけてきた魔物に奪われてしまう。
鼻歌混じりに持ち物を奪っていると、後ろの方から、パカラッパカラッ、ガラガラ。と音が聞こえてきた。
これは馬の蹄の音と車輪の転がる音? とりあえず近づいてみよう。
……うん、あれ完全に馬車だわ。
乗せて貰えないかな?
ものは試しだ。
「すいませーん」
手を振りながら極めて友好的な笑顔(笑)で馬車に近づいていく。
だがここで俺は気づく。俺の格好って血まみれじゃん! 友好的な笑顔の意味無くなるじゃん!
どうしたものか、とテンパっている俺を尻目に馬車は俺の横で止まる。
「どうしたんだい、兄ちゃん?」
中から出てきたのは、綺麗なお姉さん!では無く普通のおっちゃんだった。
「あ、すいませ〜ん。ちょっと道に迷ってしまって。よかったら乗せてくれませんか?」
血まみれの俺に対しあいては何も言は無い。良かった、会った瞬間速攻捕縛とか絶対嫌だったからな。
さあ、あいての返答や如何に?
「良いぜ、だだし行き先はサーヴァイス帝国だぞ?」
良しっ! やったここから逃げられる! 感謝感激なんとやらってやつだぜ! あいての問いに対する俺の返答は勿論……
「問題無いです。そこでお願いします。」
okだぜ!
あ、路銀とか取られんのかな?そんなら無理なんだけど。
「そんなら早く乗りな。早くしないと日が暮れちまう。」
ゴブリンとの戦闘で忘れていたが太陽はもう沈もうとしている。
「あ、じゃあお願いします。」
そう言って俺は馬車に乗る。
室内は荷物で一杯だった。どこに乗るんだ?
「そんなまどろっこしいことしてないでさっさと乗れよ。じゃないと行くぞ?」
その声とともにおっさんは荷物の間に身体を滑り込ませる。
「旦那、早くしないと日没までにつけませんよ?」
おっさんの声に続き御者台の男も言いだす。さっきまでお前空気だったろ!
とは言わず、俺はおっさんのように荷物と荷物の間に身体を滑り込ませる。
「では出発致します。」
荷物の壁を抜けるとそこには広いスペースがあった。どう見てもこんななかったでしょう!って感じである。
そのスペースにある座席で紅茶を飲んでいる禿頭のおっさん。呆然と立ち尽くす俺。これ、今の状況。
「そんなところに居ないでさっさと入ってこいよ?」
おっさんが声を掛けてくる。
「えと、コレってどんな仕組みで広くなってるんですか?」
「ん? これは唯の《空間拡張》だろ? 兄ちゃんって冒険者だよな? これぐらい知ってるだろ?」
俺は冒険者では無い。それを言った方が良いのかそれとも言わない方が良いのか。
「……いえ、僕は冒険者ではありません。なのでこんなスキル初めて見ました。」
結局、素直に言う事にした。誤魔化してもどうせボロがでると思ったからである。
「そうか、冒険者じゃないのか? ……じゃあなんでそんな血まみれなんだ?」
「さっきそこでゴブリンに襲われまして、反撃して血を浴びたんです。」
「ふむ、それは災難だったな。……まあ、帝国までは無事に送り届けてやるよ。」
そう言っておっさんは破顔した。良い人だなぁ素直に思う。
おっさんが手招きしているので俺も座席に向かう。そこでおっさんが紅茶を淹れてくれた。飲んでみると甘みが俺の疲れた身体を癒す。
「ふう〜」
つい、声が出てしまった。まあこれもしょうがないことだろう。
ところで俺に試したいことが出来た。
「すいません。自己紹介がまだでしたね。僕の名前は山岸真、マコトと呼んで下さい。」
「そうか、俺の名前はガインだ。以後よろしく頼む。」
そう言って自然な感じで手をだす。そして、必然的に握手を交わす。
ふっふっふ、計画通り。あいてのスキルを見て身体的接触を果たした。さあ、コピらせて貰おう。
コピーしちゃって下さいっ!
『エラー。現在のレベルではコピーすることが出来ません。』
どっ、どういうことかねジン君!
『《空間拡張》は、Lv1ではコピー出来ない高等スキルなので失敗扱いになっているのデス。』
何っ!そんな高等スキルなのか、ならこれを持ってるこのおっさんどんぐらい強いんだ?
「ん? どうかしたのかい?」
いっこうに離さない手を見て不思議そうに問いかけるおっさん。
「……いえ、なんでも無いです、」
落ち込みながらもそう声を掛けて手を離す。
「……? 何か落ち込んでないか? 何か大変な事でもあったのか?」
やめてっ! 私のライフはもうゼロよっ!
もうすんなり諦めて他のスキルを探ろう。直接スキルを聞くのは憚られるな。よしっ自然な感じで
「いえ、気にしないで下さい。……そういえば、ガインさんの職業って何ですか?」
良い切り出しじゃないか?これならすごく自然だ。
「ん? 俺は商売人だぜ。この荷物を売り捌くのさ。」
「ああ、そうだったんですね。なら商売の秘訣とかってあるんですかね?」
「そうさなぁ、まあ強いて言うなら《商売》のスキルと口撃かな?」
よしっ聞けた。あとはさりげなく触れば....
「そうなんですね、あっ!虫が付いてますよ?」
よしっ!触れた。さあ、コピれるのか?
確かに入ってくるこの感じ!やったコピれた!
あ、でも商売ってあんまり使わないかも。