第24話 決着
祥介の刀が奴の殻に弾かれる。
だが、何故か祥介は余裕を崩さない。
スコーピオンは少しも焦らない祥介に苛立ったような咆哮を上げ、無事だった右手の鋏を振り下ろす。
「おっと」
刀で右側に逸らす。
上手い。
……俺には劣るがな!
本当に!
まあ、俺もいつまでも祥介に頼っているわけじゃ無い。
何時ものように大砲を準備する。
いや、”いつもの” では無いな。
大砲の弾を俺は槍の穂先に鉤針を付けたような形に変更した。
それを大砲の内部でワイヤーを使って括りつけたのだ。
え?
何に使うのかって?
しょうがない。この俺が説明しよう。
「………兄さん」
哀れむような弟の声をサクッと無視する。
大砲を奴に向けて放った時、集中砲火させないと奴の殻は破れなかった。
そこで、俺は考えたのだ。
そう、先っぽを鉤針にして殻の隙間にねじ込み引っこ抜けば良いんじゃ無いか、と。
「良し!撃てぇぇい!」
別に声を上げる必要は無いが、俺の気持ちが高ぶっていたので声を上げてみた。
……黒歴史にはならないよね?
俺の気持ちとは裏腹に一斉に関節や駆動部を狙う大砲。
ガキンッ!
ちっ!上手くいったのは5本だけか。
まあ、全て外れるよりはマシだ。
空中に浮いたまま全力で引っ張る大砲。
俺のSPを結構消費しているが、構わない。
何故なら……
「祥介!お前、SP回復薬持ってる?」
「用意してるよ!兄さんはそういうの絶対忘れてると思ったからね」
祥介が持ってきていると思っていたからだ。
こちらに投げられるビン。
片手で覆い隠せる程の小瓶だ。
中には無色透明な液体が入っている。
開けてみる。
匂いを嗅ぐ。
……無臭。
それを一気にあおる。
「んぐっ!……ぷはぁ!」
たちまちSPが回復する。
俺のSPは今も削れているが、一応マックスにはなった。
俺がSP回復してる間に甲殻の一部が剥がれていた。
「ナイス、兄さん!」
そこに突っ込んでいく祥介。
「エンチャント[災火]!」
祥介の刀に真っ赤な火炎が宿る。
そのまま祥介はジャンプして、甲殻が剥がれた部分にその刀を振るう。
「ーーッ!?」
消耗し過ぎて声もまともに出せないスコーピオン。
だが、苦痛に感じている事は分かる。
肉が焼ける匂いがする。
レストランで嗅ぐ香ばしい匂いでは無く、野生動物を取って焼いた時のような、血や内臓の焦げる匂いだ。
祥介は止まらない。
斬った後、甲殻の上に着地した祥介はその紅く輝く刀で何やら細工をしていた。
遠目から見ると魔法陣のように見える。
しかも、書いてる部分の甲殻は熱さに耐え切れなかったのか、少し溶けてしまっている。
それだけで、あいつの刀の熱さがどれほどか分かるというものだ。
「ーー出来た!」
祥介は出来上がったらしい魔法陣の上からさっさと降りてくる。
すると、そのタイミングを見計らったかのように魔法陣が更に紅く輝き出す。
「 ”火焔流” 」
祥介が呟いた途端、奴の背中から火が噴き出した。
これを説明するのは難しい。
これに一番似ているのは火山の噴火だろう。
中学生時見た、火山の噴火の映像にそっくりだ。
いや、それよりも数段上かもしれない。
それほどの事が目の前で起こっていた。
そして噴火が終わった時、俺が見たのは甲殻をドロドロに溶かした巨大な蠍の骸だった。
「……今のは?」
「内緒」
祥介は秘密癖が有るのだ。
子どもの時からそうだったので、ダメ元で聞いてみたがやはり教えてくれなかった。
まあ、良い。
何故なら俺には秘策があるからな!
《王の眼》で視れば良い。
そうすれば、弟の隠してることも暴け出せる。
フッフッフ。
祥介破れたり!
満を持して《王の眼》を発動させる。
『測定が邪魔されました』
は?
あれ?何かミスったかな?
慌てて祥介の方をみるとドヤ顔でこちらを見ていた。
「兄さん、ダメじゃないか。人のステータス見るなんて。……もしかして変態?」
「んなわけあるか!」
祥介は俺を見て笑ってる。
……すさまじく悔しい。
だが、何故俺の《王の眼》は通じなかった?
《王の力》持ちのシャーラにも通じたはずなのに。
不意に寒気を感じる。
これは……《王の眼》だな!
しかし、一体だれが……
俺は出どころを必死で探す。
犯人は意外と近くに居た。
祥介だった。
やっぱりドヤ顔でこっちを見ていたのですぐに分かった。
つまり、祥介は《王の力》を持っていたという事だ。
……俺が見たあの技か?
いや、《王の力》程の火力は出て居なかった。
ならば、出し惜しみしていた?
……可能性はあるな。
祥介は秘密癖だから。
そんな事より、今は《王の眼》対策だ。
どうも祥介に負けてると腹が立つ。
出来れば見返してやりたい。
兄の威厳も保ちたいし。
どうにかなんねえかなあ、と思っているとかなり使えそうな技がある事に気付いた。
”反射” なる技。
これは、《王の力》か《絶対の力》を二つ以上所持て取得可能らしい。
らしい、なのは俺も今気付いたからだ。
物は試しに、と使ってみる。
どうせ失敗してもたいして問題は無い。
いや、失敗する前提の方が良いかもな。
と、短絡的に考える。
結果、
「えっ?……兄さんも使えたのか」
妨害出来ちゃった。
やべえ。
これ超便利技だ。
使っておいて良かった!
後、失敗する前提とか言ってスンマセン!
そして、俺達はからくも12星魔獣の一角を退けたのだった。