第23話 VSスコーピオン⑷
スコーピオンが仕掛けてくる。
右手の鋏を俺に振り下ろす。
それを右手の槍を的確に鋏の先に当てる事で回避する。
良し。一応当てどころが良ければ腕力で負けるという事は無さそうだ。
左手の村正を水平に薙ぐ。
案の定、甲殻に防がれる。
ならば、と今度は幻月 ”爆” を甲殻の隙間にねじ込む。
すると、前回の手段を覚えていたのか、スコーピオンは俺をかみ砕こうとする。
その顎を全力のバックステップで回避する。
一旦俺は距離を取った。
「成る程、敵も学習能力くらいはあるのか……。前回の手段は余り使えないかもしれない」
鋏の一撃を余裕を持って回避しながら考える。
ついでに、お返しとばかりに回避する時に剣を最大の力で振るってみる。
ガキンッ!
お?
少し甲殻が凹んだぞ。
ふむふむ。
俺の全力の腕力ならば凹ませるくらいなら可能、と。
続けざまに放たれる尾による数回の突き刺し攻撃。
これは、喰らったらかなり危険だ。
なるべく近くに寄らないように回避しようとする。
だが、最後の一撃が丁度俺の真上に来た。
「チッ!」
舌打ちと共に槍と剣をクロスさせる。
ズドン、と上から伝わる重みに耐える。
針の穂先はクロスさせて面積が大きくなった槍によって防がれている。
しかし、奴は俺が予想していなかった行動に出る。
槍に当てがわれた尾の毒針から毒を噴出したのだ。
「なっ!?」
流石に予想外すぎて頭からそれを被ってしまう。
「くっ!!」
激痛に歯をくいしばる。
ジュウジュウと音を立てながら俺の身体が溶けていく。
この毒は酸も入っているのか!
全身が痛え!!
身体の中に入らなくても効果があるとは予想外だ。
毒消しを飲みたいが今はまだ圧力が掛かっている。
手が離せない。
……まあ、反らせば良いか。
圧力を全て左側にずらす。
尾の針が地面深くに刺さる。
お?
期せずしてチャンスが到来した。
俺は尾の肉が見えている部分、付け根の部分に向かって一度鞘に収めた剣を抜刀する。
ズバッ
……良し!
斬れる!
「はああああ!!」
気合いを入れて、斬る、斬る、斬る。
槍は背中の槍専用の鞘に収めて、両手に剣を持ち変える。
更に威力の上がる俺の斬撃。
流石にスコーピオンも怒りを見せる。
尾は地面に刺さり抜けないので、身体を激しく動かし俺に的を絞らせまいとしている。
なら、槍を使う!
剣を腰に付けている鞘に収めると、背中から幻月 ”爆” を引き抜く。
右手で掴んだそれを全力で付け根に向かって放つ。
「グギャアアア!?」
俺のは仙人級の力で奴の尻尾に穂先を刺したのだ。
奴は痛みに悶える。
だが、これで終わりと誰が言った?
俺は槍の柄に付いているボタンを押す。
前より改良を重ねて、爆石の量を積み、刃先を鋭利にするなどした超威力のパイルバンカーが射出される。
俺の槍は奴に刺さったままだ。
そこで、パイルバンカーを発動させるとどうなる?
そう、奴の尻尾の肉の内部で刃が飛び出すのだ。
スパンッッ!
「グルアァァァ!!」
奴の口から悲鳴とも怒りともつかない声が飛び出す。
そりゃそうだ。
だって俺はーー
ーー奴の尻尾を斬り落としたから。
あんまり、肉を断つのは良い感覚じゃ無い。
結構な数の魔物を狩ってきたし、人間も一人殺してしまったが、やはり肉を斬りのは慣れない。
まあ、慣れたら慣れたで問題なんだけどね。
奴が怒って無事だった右手の鋏を俺に向ける。
俺はそれを見てからーー
ゆっくりと地面に倒れた。
ドサッ
前からうつ伏せに倒れる。
俺に防ぐ術は無い。
「……もう、毒のせいで痛いとも感じ無いな」
顔から地面に突っ込んだというのにまるで痛みを感じ無い。
手の感覚も足の感覚も無い。
だから薬も飲めない。
突然地面に倒れた俺を不審そうに見ていたスコーピオンは俺が全く動けないと知ると、嘲笑うかのようにゆっくり、ゆっくりと俺に近づいてきた。
「あー、ちくしょう。……折角転生までしたのに俺はここで終わるのか……」
俺の足元に立っているスコーピオンを見ながら呟く。
「もっと、早く思い出せなかったのかなあ。
……父さん、母さん、そして弟。ごめん、こんな所で死ぬ俺を許してくれ」
先程思い出した、《記憶》LV3で思い出した家族の事を思う。
最期くらい家族の事を考えて死にたい。
俺はそう、思い深く目を閉じた。
上から感じる圧倒的な恐怖、死への恐怖を目を閉じる事で少しでも避けようとする。
奴が鋏を振り上げたのが分かる。
ーーお父さん。
仕事で疲れてたのにいつも無理言ってごめん。
奴が鋏を振り下ろしたようだ。
ーーお母さん。
いつも邪険にして、ごめん。ウザいとかいってたけど本当は大好きだったよ。
奴の鋏の風圧が顔に感じられる。
ーー祥介
俺はお前にカッコいい所の一つも見せられなかったな。いつも、俺の事カッコいいとか言ってたけど、お前の方が数倍カッコいいよ。
仙人になった事で更に鋭敏になった感覚がもう鋏が0コンマ1秒で当たると知らせてくる。
最期に家族と、この世界で会った皆んな!
今まで本当にありがとうございました!!
鋏が俺に当たるーー
直前だった。
「久しぶり、兄さん」
懐かしい弟の声が聞こえてきた。
痛みは無いがここは天国なのか?
この世界には居るはずの無い弟の声が聞こえるなんて俺はそんなに弟を大事にしてたんだなあ。
「ムグッ!?」
何か口に押し付けられた!
ガラスの瓶のようだ。
抗うことが出来ず素直にそれを飲む。
すると、身体の倦怠感が無くなった。
更にHPやSPまで全快になっている。
もう、身体は動く。
跳ね起きて状況を確認する。
そこで、俺は信じられない物を見た。
「祥…介……?祥介なのか!?何故ここに!?」
スコーピオンに物怖じせずに立ち向かっている弟の姿だ。
「兄さん、身体はもう大丈夫?」
「あ、ああ。それより、危険だぞ!あいつはとんでもなく強い!お前じゃ……」
「大丈夫だよ、兄さん。」
「祥介!」
俺の呼びかけに応えずにスコーピオンに剣を、俺と同じ刀を振るう祥介。
「ふーん、なるほどね」
弾かれる刀を見ても顔色一つ変えない祥介。
堪らず俺は祥介に叫ぶ。
「祥介!ここは兄ちゃんに任しとけ!お前はそこで倒れてる俺の仲間を……」
「本当に兄さんは心配性だなあ。だから、大丈夫だって。それよりも兄さんが治療してあげた方早いでしよ。ほら、早くしないとあの人死んじゃうんじゃない?」
祥介はそういって赤嶺の方を指差す。
確かにもう虫の息だ。
「だー!くそッ、無茶すんなよ!」
赤嶺の元へ走る。
そして、物質の王で必要な物を生成していく。
「これで、どうだ!」
血液をいれ、破壊された部位に新しい臓器を入れ、傷口を針で(全自動)縫って、心臓に一撃加えた所で赤嶺が蘇生する。
「ガブッ!?」
「気が付いたか?」
しばらく虚ろな目をしていたが、大丈夫そうだったので、岩の後ろに隠して祥介の元へ向かう。
「祥介!兄ちゃんも手伝うぞ!」
「だからいいって!……って、聞いてないか」
何か祥介がごちゃごちゃ言ってたが聞こえないフリをする。
手負いの巨大蠍何かに俺たち、最強の兄弟が負けるか!
「最強の兄弟って……、しかも、最後のも何かフラグっぽいし……」
何も聞こえないなあ!
弟君参戦です!