第20話 VSスコーピオン⑴
1週間とは何だったのか?
「なっ!?、で、でかい!」
俺達が気持ち早めに歩いていると遂に、そいつの姿が見えてくる。
青黒い体に赤黒い物がこびり付いている漆黒の鎌。
尾には一目で毒針と分かる凶悪そうな物が付いている。
そして、
倒れている騎士らしき人達の姿。
ほぼ全員が死んでしまっているようだ。
どれもグチャグチャにされてしまっている。
この人なんか下半身が無いぞ。
ん?
まだ息がある!
「シャーラ!慈悲の王を頼む!」
叫び、俺は物質の王を発動させる。
宙に現れる7門の大砲。
SPが1000から650へと減る。
なる程、大砲と弾を1セットとすると1セット50で使えるのか。
ズドドドン!!
一斉射撃でスコーピオンを穿とうとする。
だが、奴はその硬い殻を更に硬くして防ぐ。
スキル《堅守》
自らの防御力を爆上げする。
「ちっ!」
【幻月 ”爆”】を腰だめに構えて《瞬歩》で高速で移動する。
そのまま《破壊》を乗せた一撃を左側の胴体に見舞う。
「ギュアアア!!」
良しっ!
甲殻を削れたぞ!
そして、7門全ての大砲から放たれる背中の一箇所に集中した一斉射撃。
ボゴンッ!!
一際派手な音を立てて大砲が撃った部分の甲殻が破壊される。
そんな音を尻目に俺は幻月 ”爆”の ”パイルバンカー”を発動させる。
ガゴン!
キイイイイン!
ドグシャッ!!
殻の欠けた部分から抉りこまれる穂先。
そして、手元のスイッチを押す。
連動して穂先が回転を始める。
「ギュイーー!!」
血が噴き出す。
顔に血を浴びる。
気持ちは良くないが問題無い
このまま行け!!
その時、蠍がぶれた。
「えーー?」
俺は気付くと地面に倒れていた。
「ヒュー、ヒュー」
声を出そうとして声が出ない事に気付く。
違和感を感じて俺は自分の身体を見る。
俺の胸に大穴が開いていた。
「ヒュー!!、ヒュー!!」
声にならない悲鳴をあげる。
口から大量の血が迸る。
「ガフッ!」
や、ばい?、死ぬ??
俺、が?
ーーいや、まだだ!
俺は咄嗟に物質の王による治療を行った。
胸の大穴を塞ぐように俺の身体と同じ物質を出す。
慣れない作業でSPがガンガン削れる。
残りSPが500をきった時、
俺は胸の大穴を塞ぐ事に成功した。
だが、まだ安心出来ない。
幸い心臓は外れていたが臓器がグチャグチャになっている。
血もさっき出してしまったので全然足りない。
物質の王で新しい臓器を作る。
新しい血を作る。
それらを俺に入れた時、俺のSPは340まで減っていた。
俺が自らを治療している間、彼方さんも自分の傷の修復に勤しんでいたらしい。
だが、上手くいっていない様子。
好機。
俺は王の眼でスコーピオンを視た。
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名称 : スコーピオン
種族 : 猛毒蠍種
称号 : 災害級
スキル : 駿定の王・王の眼・破壊LV10・堅守LV10・瞬歩LV10・立体機動LV10・気配感知LV9・暗視LV9・猛毒LV10・鋭鋏術LV8・自己再生LV7
耐性 : 状態異常耐性LV8・痛み耐性LV7・硬直耐性LV9・混乱耐性LV10・上位魔法耐性LV6・炎属性耐性LV8・雷属性耐性LV10・木緑耐性LV7
SP : 680 (現在、420)
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やはり、持ってたか王の力。
だけど、『アィーアツブス』って ”不安定” じゃなかったっけ?
『アィーアツブス : 特殊な王の力。元々は ”不安定” という意味だが、アィーアツブスの持つ ”調整” という能力でパワー、ブロック、スピードの3タイプの内のどれかに過重を掛ける事ができる。
パワー型 : 攻定の王となる。
能力は ”超攻撃” 、”連撃”、”調整” となっている。
ブロック型 : 防定の王となる。
能力は ”超防御”、”鉄壁”、”調整” となっている。
スピード型 : 駿定の王となる。
能力は ”超高速”、”光速移動”、”調整” となっている。』
新たな形の王の力か!
今のあいつは『スピード型』か。
なる程!
だから俺は奴の攻撃が避けられなかったのか。
俺は、如何に奴が速度特化型だとしても避けれる程の力を持っている。
仙人へと進化した俺は素のステータスでもスコーピオンに差を付けている。
そこにスキルが加わればスコーピオンとの差かなり大きくなるだろう。
しかし、
奴が王の力を使ったとなれば話は別だ。
王の力は、俺がかなり有利だとしてもそれを埋めるだけのポテンシャルを持っている。
俺が総合で5ptだと仮定すると王の力を使っていない、奴は3pt。
だが、使った場合、奴は一気に10ptとなる。
俺の2倍になるのだ。
だから、俺は奴の攻撃が見えなかった。
ただ、奴がぼやけたとしか見えなかったのだ。
だが一つおかしい点がある。
俺は奴が移動した事すら見えなかったのだ。
身体が反応しなかったのではなく見えなかったのだ。
奴のスピードが俺の2倍になったとしても、極限まで奴に集中していたさっきの俺だったら、目では追えていたはずだ。
なのに、目ですら追えなかった。
つまり、奴のスピードが俺の2倍程度では無いということが分かる。
そして、俺が喰らった攻撃から、奴が使った技が分かる。
俺が喰らったのは尾ではなく鋏の先端での突きだった。
ので、”毒” 状態にはならなかったが、かなり危険だった。
そう、尾で攻撃していれば ”毒” に出来たのに、自分の有利に出来たのに俺を毒状態にしなかったのだ。
だから、尾を構える余裕が無い程の攻撃だったと分かる。
追伸。
この攻撃もかなり痛かったっす。
ぶっちゃけ、物質の王が失敗していたら俺は死んでいた。
でも、たとえキムラヌートがあったとしても毒まで喰らっていたら俺は確実に死んでいた。
だからこの場合は感謝すべきかな?
まあ、ともかく、これらの事から奴は俺に ”光速移動” による突きを喰らわして来たと推定できる。
これ俺が推理した訳じゃ無いけどね!
数時間前、まだ女の子すら助けていなかった頃に手に入れたスキルがここまで推理してくれたのだ。
ーー《並列思考》LV1
レベル1でもなめちゃいけない。
並列思考は ”並列意思” というものを出してくれるスキルだ。
この並列意思は俺がもう一人出来たと理解してくれたら良い。
レベル1だと並列思考の並列意思は一人までしか出せないが、
これに《思考加速》をつければ・・・
もう一人の俺がゆっくりとした時間の中でゆっくり推理をしてくれるという事になるのだ。
つまり、
「俺!、頼むぜ!!」
[おう!、任されたぜ!]
って出来んのさ!
実際心の中でやってたしね。
そうこうしている内に戦況が動いた。
ーー俺に有利な形で。
「マコト!終わったわ!!」
シャーラがあの下半身無し男君の治療を終わらせたのだ。
という事はシャーラの手が空くという事であり、俺に ”付与” をかけてくれるという事。
「シャーラ!今かなり不味い状態だ!力を貸してくれ!!」
シャーラの ”付与” は助けを乞う者に力を与える能力。
だから一応慈悲の王さんに助けを求めてみた。
「OK!・・・我が慈悲の王、ケセドよ!かの者に更なる力を与え給え! ”付与”!!」
ん?
おおう!?
何か身体が軽い!
あれだな、ドーピングのような効果だな。
でも、これはかなり使える!
おっと、彼方さんも傷の修復を終えたようだな。
出来れば終わらせない内にたたきたかったんだが、しょうがないか。
「さあ、第2ラウンドに進もうか!!」
俺、では無く俺達と蠍の闘いが今始まった。
次回こそ遅くなります。
すいません!