第19話 ある転生者 vs 蠍座
今回、真達は余り出ません。
久しぶりの別視点からです。
「はあ・・はあ・・」
見た事も無い巨大な蠍から放たれる攻撃の嵐。
一撃一撃が全て大怪我を負わせる程の超高濃度の攻撃。
そんな攻撃を一人の人間ーー ”騎士長” 赤嶺 一登は必死に防いでいた。
いや、完全に防ぎきれてはいない。
彼の鎧はぼろぼろだし、全身が血まみれになっている。
だが、彼は諦めてはいなかった。
いや、諦めるわけにはいかなかった。
周りに転がっている仲間達の為にも。
一登はここでは無い世界ーー日本の岐阜県で産まれた。
幼い頃から祖父に剣道を教え込まれ、その剣道を通じて「正しさ」を追い求めるようになった人間だ。
性格も厳格では全くなく、寧ろ陽気な性格だった。
学業も中の上を常にキープしているクラスでも評判の真人間だった。
そんな彼がこの世界に来た理由。それは・・・
キイイイイ!!
ギャリ!ギャリリ!!
ドゴンッ!!
事故死だった。
トラックに轢かれての即死だった。
原因は聞くところによると運転手の居眠り。
こうして、彼はあの白い世界にやってきた。
「あ、、れ、?此処、は一体?」
「お目覚めですか?」
「っ!?、貴女、は?」
「私は女神フラン。早速ですが貴方は死にました」
「やはり、ですか。トラックに轢かれたのは現実だったんですね」
「はい、貴方はトラックによって死亡しました。・・・もし、『転生』が可能だとしたら貴方はどうしますか?」
「転、生?」
「はい。つまり、もう一度生きたいかと訊いているのです」
「い、生きたい!僕はまだ・・・」
「分かりました。では地球に転生をーー」
「ま、待って下さい!出来れば地球以外でお願いします」
今ここで僕が地球に帰ってきたら家族やクラスメイト達はどう思うだろう?
おそらく、気が触れたと思うだろう。
そうしたらまた死ぬ事は明白だ。
だから地球以外に行きたい!
と、考えた。
「・・・分かりました。では、異世界『トラバース』に転生させます。宜しいですか?」
「えっと、じゃあ、はい!」
「ならば、祝福を授けます。この中から好きな物をお持ち下さい」
そう言って渡されたのは一枚の紙だった。
紙には、『スキル : 格闘術』や『スキル : 槍術』などと書かれていた。
「あの、スキルって何ですか?」
思い切って質問してみる。
「スキルとは『トラバース』で生きていく為に必要な技能の事です。例えば《槍術》を取ったとしたらたとえ、槍に触れた事すら無くとも一応基本程度は扱えます。更にスキルレベルを上げていく事で槍の扱いは上手くなりますし、特殊技を入手する事も出来ます。
つまり、取ったソレを素人から初心者程度まで上げてくれる技能の事です」
成る程分かりやすい。
だが、ならば・・・
「と、いう事は僕がこれから行く世界では闘いが日常茶飯事で起こるという事ですか?」
「人族の領土を離れなければ襲っては来ませんがテリトリーの外だと魔物が襲ってくる事が多々ありますね」
魔物か。
物騒な世界だな。
だが、と彼は思う。
「面白い」
素直に面白いと感じた。
現実世界では剣を振るうのは道場のみでそれ以外では禁止されていた。
勿論、刃物を人に向けて振り回したいわけでは無いが、大会に出る事さえも禁じられていたのでいかんせんつまらなかったのだ。
それが『トラバース』とかいう世界に行くと、剣を振るう相手がいるらしい。
初めての実戦が出来る。
おそらく、自分の祖父や父親も経験した事が無い事をやれるのだ。
これを面白いと言わず何と言おうか。
そして、僕は真剣になってスキルを選び始めた。
そして、この世界にやってきたのだ。
選んだスキルは《剣術》。
の、つもりだったのだが、この世界に来た途端
『熟練度が一定に達しました。スキル《剣術》を《剣才》に進化させます。』
と、神の言葉で宣言されて自分が取ったはずのスキルの一つ上のレベルのスキルが手に入ってしまったのだ。
そこから彼はギルドへと入り、尽く活躍し、その当時の ”騎士長” に認められ『王直属護衛騎士団』に入ったのだ。
あっという間に ”一般騎士” から ”エリート騎士”、”副騎士長”へと、位を上げていった。
そんな彼が次の ”騎士長” に任命されるまでそう時間はかからなかった。
そこで彼は運命的な出会いをする。
それは薄暗い森の奥底で起きた。
デルタ密林、そこの最奥にたどり着いた彼は巨樹に突き刺さっている、緑色に光輝いている一本の剣を発見した。
それに導かれるように剣を引き抜くと彼は感じてしまった。
ーーこれは現存する剣の中でも最上位の物だ。
と。
直ぐさま持ち帰りその剣を調べると、その剣の名が【アセンション】という事と件のアセンションが変形可能な、最上位に分類される幻の剣だという事が分かった。
10段階に変化出来る。
しかも、どれも『バラけてから盾の形をとる』といったような不思議なものなのだがその全てが強かった。
少なくとも現存していた最強の盾でも防ぐ事が出来ない斬撃を放てる剣にもなれるし、最強の剣で刺されてもビクともしない盾にも変化する事が出来る。
そんな僕の相棒、アセンションを構えつつ全力で右に跳ぶ。
刹那、訪れる鎌による薙ぎ払い。
ギリギリで範囲から逃げた僕は叫ぶ。
「アセンション、第二形態『カバーシールド』!!」
ピカッ
一瞬剣が緑色に輝いたかと思うと、次の瞬間には剣が柄の部分まで分裂する。
刃の銀色の部分が丸く薄く引き伸ばされていき、中心部分に茶色い柄が丸く収まる。
僕の目の前に巨大な銀のシールドが出現していた。
ブオン!
蠍はそんな盾を気にもとめず左の鎌を繰り出してくる。
キィン!!
交差する僕の盾と蠍の鎌。
だが、直ぐにーー
パリィィン!!
ーー僕の盾が破壊された。
なっ!?
僕の盾は現存する最強の剣でも壊れなかったんだぞ!
ましてや、魔物の攻撃にも余裕で耐えていた。
なのに何故今回こわれたんだ!?
・・・相手の鎌の方が強度が上?
尚且つ僕の攻撃力より相手の攻撃力の方が上?そんなことを考えている間にも鎌は迫ってきている。
クッ
僕は左腕を犠牲にする事で何とか回避する事に成功する。
「痛っっ!!」
何とか叫ぶだけで痛みを堪える。
ヒュン!
見ると、僕の横に壊れたはずのアセンションの姿があった。
成る程、自動再生機能も付いているのか。
っと、感心してる場合じゃ無い。
僕はアセンションの上に立つ
「飛べ!」
一言命ずる。
それにアセンションは忠実に応えてくれる。
浮遊感を感じる。
思わず目を閉じたくなるが今目を閉じたら下に真っ逆さまだろう。
蠍を見る。
蠍は未だ動いていなかった。
ただ、僕のことをずっと見ていた。
そんな姿に思わず身震いすると気合いを入れて剣を動かす。
「アセンション!第五形態『バインドウィップ』!!」
僕は低空飛行にしていた剣から飛び降りる。
勿論、蠍の射程外に降りた。
アセンションが光輝く。
そのまま地面に突き刺さる。
すると、
ゴゴゴゴゴ
地鳴りが聞こえてくる。
ズドンッ!
現れたのは数十本はある棘の蔓だった。
剣を中心に地面から突き出ている。
「喰らえ!」
ズドドドンッッ!!
それらすべての蔓が一斉に蠍を叩き始める。
これが僕の最終奥義『バインドウィップ』だ。
地面から突如生えてきた謎の棘の蔓が一斉に襲いかかる。それがこの技の正体。
未だこの技を受けて立っていた者はいない。
おそらく今回の敵、蠍は死にはしないだろうが四肢を地面に付け、瀕死の重傷を負っているだろう。
蔓が地面に打ち付けられているので砂埃で蠍がどうなったのかは見えない。
蔓の攻撃が止む。
ようやく砂埃が晴れる。
その中から姿を現した蠍はーー
無傷だった。
遠目から見て目立った傷は一つも無い。
「そんなっ!奥義が!!」
その時蠍が動いた。
ヒュン!!
何が起きたのか全く分からなかった。
ただ、立つことが出来なくなっていた。
(何で立てないんだ!?)
いくら足に力を込めても動かない。
と、いうよりも足そのものが無いような・・・
「うわあああ!!」
僕は自分の下半身を見て理解する。
僕の下半身は何処にも無かった。
下半身があったと思われる部位からとんでもない量の血が流れていた。
自分の下半身が無いと自覚すると痛みが押し寄せてくる。
「ぐあああっ!!!」
そして、僕は意識を手放した。
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その時俺は何か嫌な予感を感じた。
少し身震いする。
なんだ?この感じは。
興奮とは少し違うし、何だか寂しくなるようなこの感じは何なんだ?
ふと、シャーラを見ても同じようにしていた。
ん?
何か変な匂いがする。
くんくん。
これは・・・血?
「少し急ごう」
嫌な予感が止まらない。
一刻も早く『スコーピオン』の所に向かわないと!
次回も結構遅くなりそうです。




