第16話 目覚め
2章開始です!
深夜。
誰もが寝静まり夜行性の魔物が動き出す頃、一人の青年が自分の城の中で嗤っていた。
唯の青年とは思えない酷薄な笑み。
青年ーー魔物や魔族を統べる王である魔王は玉座で嗤いながら自身の行った事で起こる混乱を想像する。
「俺様が『12星魔獣』を動かしたと知ると人間はどうするかな?泣きわめくのか?それとも戦うか?・・・くっくっく、面白くなりそうだ」
彼は飽きていた。
ひたすら暇だった。
彼の唯一の楽しみーー闘いも自分に勝てるどころか、自分と同等の者すらすでに居ないこの世界に飽きていたのだ。
けっして彼の配下である魔族や魔物達が弱かった訳では無い。
寧ろかなり強い方なのだ。
だが、彼には全く及ばない。
既に彼は ” 神 ” のステージに来ていると言っても過言では無い程に強くなっている。
いや、実際片足神の領域に足を突っ込んでいる。
そう、そんな彼が楽しめるのはもう無いのだ。
でも彼にはもう一つの楽しみがあり、それが人族を殺戮するのを見物するというものであった。
人々が無様に命乞いをしながら逃げ惑い、涙と尿を垂れ流しにしながら殺されていくのを見る、のが好きだった。
「だから、『星魔獣』を解放したんだ。人々が逃げ惑うのを見る為に。
そして、俺様に立ち向かう者が出てくるのを待つ為に」
誰に向かってでも無く一人で喋る魔王。
魔王が考えているのは殺戮ショーを見るだけでは無い。
彼の『星魔獣』を倒し、その力を得て彼に立ち向かう者が出るのを期待しているのだ。
一石二鳥。
人々が何も出来ず殺戮されるのも良し。自分に立ち向かう者が出たらなお良し。
そんな考えの元彼は『12星魔獣』を深い深い眠りから目覚めさせたのだ。
「もし、『星魔獣』を5体斃せれば俺様と同じステージに立てるしな」
半神ともなった彼と同じステージに立てる者は今の所居ない。
だが、5体斃せれば・・・
「くっふふ、あはははは!!」
魔王城にはいつまでも青年の嗤い声が響いていた。
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ボランチ砂漠。
砂しか無い ”死んだ土地” とも呼ばれるその地で一匹の魔物が動き出す。
それは羊。
ただの羊では無い。
12星魔獣の『牡羊座』。
魔獣、アリエス。
金色の毛に、悪魔のような黒い角。
そして、燃えるような真っ赤な目。
それが牡羊座だった。
数百年に渡る長き眠りから起きたアリエスは己の主である、魔王の命に従うべく速やかに動き出す。
人間なのに魔王となった異質な存在である、絶対の『転生者』に。
デルタ密林。
アリエスと時を同じくしてある魔獣が深い眠りから覚める。
『蟹座』魔獣キャンサーグ。
蟹らしい巨大なハサミを持ち、背中にとても堅い甲羅を持つ魔物。
キャンサーグは思案を巡らす。
どうすれば世に混沌を齎せるのか。
まだ、目覚めたばかりで全然何も考えついていないが幸いにも同胞が動く気配があった。
だからキャンサーグは取り敢えず考える事にした。
自分が目覚めた場所である迷宮区の最奥にて。
西の王国。
嘗て帝国よりも栄えていた王国であり、その帝国により滅ぼされた国である。
「んっ!良く寝たわ」
伸びをして一人の女がベットから起きてくる。
周囲は壊れた物や腐った物でごちゃごちゃしていた。
そんな様子を気にもとめず女は歩く。
廊下に出ても物が散乱していて汚かった。
だが、女はやはり気にしない。
廊下をどんどん進んで行く。
一つの部屋の前で女は止まる。
徐に扉を開ける。
「っ!?だ、誰だ!?」
中には一人の男がいた。
「何だ、女か・・・中々美人だな。ちょっと遊ばないかい?」
そう言って男は女に向かって歩いてくる。
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる男に女は顔色一つ変えずに
「そうねえ・・・貴方少し汚いし何も持ってないから遠慮するわ」
一応丁寧に断っておく。
まあ、断っても襲ってくるだろうが。
案の定男は
「お前に拒否権はねえんだよ!!」
女に手を伸ばす。
「久しぶりのお楽しみだぜ」
後1センチで触れるーー
「??何だ?」
触れる瞬間、自分の腕に衝撃を受けた男は疑問の声を上げる。
女は自分に対して何もしてきていない。
じゃあ今の衝撃は何なのか?
「まあ、良いか。今はお前がーー」
男の言葉は途中で途切れた。
「うぎゃあ!!!」
自分の腕が切り落とされているのを見て。
男が女の前で蹲る。
女はそれに目をやると、慈愛の目で男を見る。
ホッと安堵する男。
自分を助けてくれるようだと理解してからは痛みも少しは我慢出来る。
「へへ、有難うよ助けてくれるんだろ?じゃあ早く俺の手当てを
グシャ!!
男の死体を一瞥すると女は再び廊下に戻る。
男の頭を踏み潰した靴に血がべったりくっついているが気にしない。
そのまま血の足跡をつけながら廊下を歩く。
「今の退屈な奴にも良い記憶はあるのね」
女はーー『乙女座』のバーナは呟く。
彼女の能力で今しがた奪った男の記憶を見ながら。
王の力 : 色欲の王
最上位スキルの中でも非戦闘型という珍しいタイプだが、効果が強すぎるお陰で戦闘型と同等以上の力を発揮する。
バーナは計画を立てる。
人間達の記憶を奪う為に。
奪った記憶からより良い準備を行い、彼女の主に従順に従う為に。
「ここにはもう、気配がないわね。
周辺の街にでも行って記憶を奪って来ようかしら?」
正面玄関の扉を開ける。
バーナは歩き出す。
各地で最強の魔物である、『12星魔獣』達が動き出す。
海から、
陸から、
空から。
至るところで目覚め自分達の手下を作り始める。
こうして、魔物の軍隊が攻めて来たと人族に知らせが届いくまでそう時間はかからなかった。
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「ほいっ」
帝国を出て今日でもう5日になる。
その間に魔物を駆逐し続けた俺はいつの間にか近くの村で英雄になっていた。
「有難う!お兄ちゃん!」
「ううん、気にしないで。それより怪我は無い?」
今も蜘蛛の魔物に襲われていた女の子を助けた所だった。
「うん!怪我して無いよ!お兄ちゃんが守ってくれたから!!」
うっ
そんな綺麗な瞳で見ないでくれ。
俺、人のスキルのお陰でここまで強くなれたようなもんだから。
なんか罪悪感を覚える!
「さ、さあ、村へ帰ろう?」
「うんっ!!」
元気良く頷く女の子。
可愛い。
ついついほおが緩む。
あっ、決してそういう趣味じゃないですよ。
僕はノーマルです。
心の中で言い訳をしながら女の子を見て歩いていると、
「キャアアアー!!」
空から女の子が降ってきた。
次回も1、2週間後?くらいかな?
追伸、多分早くなります。