第14話 決死の戦い〜後編〜
龍を殺してなお、止まらない”撲滅”。
15mは止まらないだろう。
「貴様!よくもグルーを!!」
バランス翁、次はお前だよ。
人のことより自分の事を心配しろよ。
「《貪欲の王》よ!儂の肉体を操る事を許可する!」
ん?
最上位スキルか?
やはり持っていたか......
だが、『操る』とは何のことだ?
まあ、殺せば分かるか。
『承認を得ました。[キルモード]へ変更します。』
キルモード?
何だその物騒な物は?
!!
バランス翁の力が上昇している!?
まだそんな奥の手があったのか!
『対称補足。デリート。』
ドンッ!
なっ!?
速すぎ!
俺の最大速度越えてんじゃね!?
いつの間にか足を復活させている。
バランス翁が高速で近づいてくる。
腰から剣を2本取り出す。
おそらくだが、触れたらヤバイやつだと思う。
「くっ!!」
両手で振るわれた剣をキムラヌートを使い空気の大盾を出すことで防ぐ。
間近で見るとこの爺さん、目がイっちゃってた。
『操れ』とはこういうことか。
更に力を込めるバランス翁。
ピシッ
圧力に耐え切れずヒビが俺の盾に入る。
や、ばい...パワーまで・・上がってやがる、!
パリンッ!
遂に俺の盾が壊れた。
すぐさま戦線離脱。
ズドドドンッ!!
俺のいた所が斬られる。
危ない。
後一歩遅かったら斬られていた。
冷静にこちらを向くバランス。
ヤバイな。
冷静すぎてつけ込む隙が無い。
まあ、俺には問題無いけど。
隙が無いならば力で押し切るのみ。
単純明解。
結局力で全て決まるんだよ。
こちらに走ってくるバランス。
そこで俺は剣を構えた。
奴がここに到達するまで後2秒。
剣の位置をずらしていく。
居合斬りをする時のような形に。
残り1秒。
俺の剣が光り出す。
そのまま身体が軽く押し出される。
身体はまだ居合の構えを続けている。
0秒。
遂に奴が俺の間合いに入る。
それは俺が奴の間合いに入るという意味もある。
奴のスピードは俺以上だ。
そのために俺は音と色を捨てた。
極限まで集中すると人はモノクロの世界で相手の一挙手一投足が見えるという。
まさにそれが今の俺だ。
くっきり、はっきりと奴の剣が見える。
「シッ!!」
口の間から気合いと共に吐き出した空気が漏れる。
ぶつかる奴の剣と横合から奴より早いスピードで放たれた俺の剣。俺は剣術がカンストし、《剣の秘術》になっている。だから剣術の技は使いたい放題だ。
《剣術》Lv8の剣技 ”二段居合”。
相手が間合いに入った瞬間居合斬りを放つ必殺技だ。
それだけでは無い。
その後、横の軌道を描いていた剣が突如として、逆向きになりもう一度水平斬りを放つという技である。
右に向かって振るわれた剣が終わり間近で左向きに突如として変更され、今度は左に振るわれる。
圧巻だ。
使うのは今回が始めてだが、何とかなりそうだ。
奴は両手剣で二重に圧力を掛けてくる。
俺が水平で、奴が垂直に二つの剣で。
当然力に負けて押し戻される。
好機と見てバランスが一歩前に出る。
押し戻されても俺の技は終わって無い。
多少形は崩れたが何とか一撃を放つ事が出来た。
スパッ!
ドシャ
俺の剣が奴の右腕を切り裂く。
それに僅かに眉を顰めると、徐ろに再生させようとする。
そんな事俺がさせるわけが無い。
「”腐敗”!」
俺の左腕と脇の穴は最上位スキルを入手した時に全て再生している。
その左手を奴の右腕に当てる。
ーー『腐敗』
アクゼリュスを入手した事で獲得した技。
前にも述べた通り、『腐食』系の攻撃だ。
威力は格段に違うが。
途端、バランスの右腕が壊死し始める。
慌てて壊死した部分に再生魔法を使う。
効くわけ無いけど。
『腐食』ならともかく、その上の『腐敗』に効くわけないだろ。
もう少し考えろよな。
案の定、再生魔法では解けなかったらしい。
回復魔法、その上位の快復魔法を掛けても効果は薄い。
魔法掛けても腐敗には効かないのにご苦労だな。
腐敗には『魔法分解』が取り込まれている。
通常、魔法師は「魔法陣」を作ってから魔法を放っている。
この魔法分解は魔法陣を侵食する効果が付与されている。
なので、魔法は無意味なのだ。
右腕から始まり、胴体、左手、首、そして・・・
顔まで達した”腐敗”は迅速に奴の頭を破壊しに掛かる。
『っ!?外部からの干渉を!・・・システムをオフにします・・・』
バランスから尋常じゃ無い力が消える。
「・・・!?、これは?これは一体!?」
おお、爺さん混乱してやがる。
無理も無いな、最上位スキルに任せたから次起きるのは勝ってからだと考えていただろうからな。
力が消えると同時に痛みも襲ってきたようだ。
「っあぐうっ!?
これは、侵食攻撃か!?、今の儂には対処できん!!」
お、気づいたっぽい。
気づいた所で解除は出来ないようだけど。
「うぐあっ!!」
ん?
”腐敗”が脳までいったかな?
脂汗をダラダラと流す爺さん。
「ぐあああっっ!?」
想像を絶する痛みを経験してるんだろうな。
あ、”腐敗”が身体全身に廻った。
壊死した足では立っていられない。
地面に崩れるように、いや崩れながら、血や臓器をぶちまけて倒れたバランス翁。
「っっ!!・・・・・・」
倒れた事で頭内の壊死した部分がまだ壊死していない部分を蹂躙する。
うわー、グロ。
R18だわ。
まあ、それ位の事をしたんだ。
地獄で罪を数えてろ!
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マレータ・ギルバートは屋敷で、自身の寝室で布団を被っていた。
時刻は午後3時。
寝るには早すぎる時間だ。
マレータは生まれたときから身体が弱かった。
だからこのように昼過ぎから寝ている事もしばしばあった。
実はあの二人に馬車を準備した時は自身の「外に出たい」という願いを叶えるため、というのもあったりする。
「・・・大丈夫でしょうか・・・」
あの二人の事を考えていたからだろうか、心配の声が出る。
デルタ密林は危険度Bであの二人の実力ならば余裕で進めるレベルの場所だ。
勿論中心部はランクS以上推奨なので、危険度は格段に上がるが、ゲラドさんがいるからそこまでは行かないでしょう。と考えていたマレータは中心部へ行くという危険についての心配はしていない。
だが、とても不安なのだ。
子供の頃から、不安がよく的中していたマレータ。
こんなエピソードがある。
昔突然、「此処に居るのが不安」と思い、両親に「此処に居るのが怖い」と言って両親や家の者達と隠れていると、階下から何かが入って来る音が聞こえ、それが盗賊だと知ると両親達が顔を青ざめさせる。といった事があった。
この時は全員が隠れていたので人的被害は無かったが、お金や貴重品が少なくない量奪われた。
もし、あの時娘に言われなかったら・・・
と、両親は今も思っている。
今回もそんな感じの不安があるのだ。
何か恐ろしい者が襲ってきて、二人が・・・
いえ、大丈夫なはずです!
あそこには危険な者など二人の実力なら居ないはずですから!
そう言って不安を捨て去ろうとする。
「どうか、どうかご無事で・・・」
そう呟かずにはいられない。
ポツリ、
ザアア
雨が降って来た。
マレータの不安がますます増長される。
空はマレータの心を表すように暗く濁っていた。
1、2週間後と書きましたが日曜日に変更です。
日曜投稿です。