第九章 「狂った原因」
〈狂った原因〉
「あなた!もう、やめてください!」
部屋の奥から母の声が聞こえる。
何か叫んでいるようだ。
「うるさい!おまえには、関係のないことだ!それに、もう計画は止められない」
父の声も聞こえてきた。
「計画」とはなんだろうか?
さっぱり分からない。
「姉ちゃん?何やってんのこんなとこで」
「×××、まだ起きてたの?早く寝なさい」
私は、突然現れた弟にそう告げる。
弟は、目を擦りながら「うん」と言って、部屋に戻って行った。
こんなことが親に知れれば、きっと怒られる。
弟が部屋に入るのを確認すると、私は父親の部屋に引き返した。
中をもう一度そっと覗き込むと、
「いい加減にしろ!何度言わせる気だ、もう止められない。後戻りはできない!」
怒鳴り散らす父の前に母が涙を零しながら訴えている。
「お母さん」
「・・・ラス・・カーラス!」
「あっ!」
「どうした?うなされていたぞ」
目を覚ますとそこは、いつもと変わりない、私の部屋だった。
「また、あの夢を」
隣を見ると、リーダーが心配そうな顔をして私を見ていた。
そうか、私はあの夢でうなされていたのだ。
リーダーに心配をかけてしまった。
私は、少し笑ってリーダーに言った。
「大丈夫ですよ。ちょっと、嫌な夢を見たものですから」
そういうと、リーダーは安心した様子で言った。
「あまり、驚かせるな」
「すいません」
私は、ベッドから身を下ろすと、広間へと足を進めた。
あの夢は、もう何十回と見ている。
いつも、「もう、見たくない!」と思っているのに見てしまう夢。
(あの時の記憶なんて、忘れてしまいたい)
心の中で毎日、そんなことを思っている自分がいる。
このまま、私は崩れていくのだろうか?
「カーラスさん、どうしたんですか?何か悩み事でもあるんですか?」
突然、声をかけられて少しびっくりしてしまった。
「いや、なんでもない」
声をかけてきたのは、ライアだった。
彼女も私たちと同じ「悩み」を持っている。
ここにいる者は、何かしらの「悩み」と「望み」を持っている。
「今日は、体調が優れなくて、心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうでしたか、あまり無理をなさらないでくださいね」
「ええ、ご心配をおかけしました」
私は、そういうとそそくさと広間を後にした。
微かにリーダーの声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
外に出て、細い路地を抜けると都会の町が見えてくる。
町を抜け、その先にある深い森に入って行く。
少し行くと足を止める。
「どこですか?ここにいるのでしょう?」
私がそういうと、森の中に風が吹く。
そして、その風と共に一人の少女が現れた。
「よくここだって分かったね?僕は、教えたつもりはなかったんだけど」
「この前、あなたの行動をチェックしているときに丁度ここで姿が見えなくなったので、
多分ここが、住処なのだと思いまして」
そういうと、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
この人のこういう性格は、少し気に食わない。
いつも、ヘラヘラ笑って何を考えてるか分からない。
そういう態度を見せられると、少しイライラする。
「カーラスって、僕の監視役なの?驚いたなー、それストーカー行為にならない?」
私を見ながら彼女は、そう言った。
その顔は、少しあざ笑っているようにも見えた。
「あなたは、どうしてそんなのんきなんです」
「さぁー、この世に生まれてからずっとこんな感じだよ、僕は」
確かに彼女は、この世に生まれたときからこうなのだ。
のんきで人をからかうのが大好きなこの人にとって、これは「普通」なのだ。
私は、何を考えているのだ。
これほどのことで、イライラしてしまっている。
私は、なぜか思考を止めることができなくなっていた。
「ねぇ、カーラス。それで、僕にどんな用があってきたわけ?」
彼女の言葉に私は、ハッとした。
「えぇ、実はこの記憶を預かってもらおうと思いまして」
「あぁ、君のその嫌な思い出の記憶ね。預かってもいいけど、後で絶対後悔するよ」
彼女は、笑みを浮かべながら言った。
「なぜ、後悔する必要があるんですか?私は、もうこんな悪夢見たくないんですよ!」
私は、せっぱつまった声で訴えた。
その声は、叫んでいるようで駄々をこねているようにも聞こえた。
そして、私の頬を伝う涙が温かかった。
「そうか、記憶が夢に具現化しているわけか。それは、珍しいことじゃないんだけどね」
そう言って、彼女は私の前にしゃがみ込んだ。
しばらくの間、私と彼女に沈黙があった。
私がそっと顔を上げると、彼女は私に向かってこう言った。
「僕は、君の記憶を預かれない。僕はね、カーラス。君が本当に知りたがっている記憶を
もう預かってるんだ。だから、今の記憶は君が持っておくものなんだよ。
それが、君の人生が狂った原因の1つだとしてもね」
そういうと、彼女は風にまぎれて消えてしまった。
アジトに戻ると、真っ先にリーダーが出てきた。
相当心配していたのだろう。
目が赤く腫れていた。
「このバカ者!どこまで行っていたのだ。心配したんだぞ!」
そういって、私に抱きついてきた。
私は、彼女の頭をやさしく撫で「ご心配をおかけしました」と謝罪した。
その後に、ライア ユキト 風真も顔を揃えた。
私は、彼らに囲まれている。
今、私がやらなければならないことはただ1つ。
「世界を変える」ことだ。
私は、そのためならなんでもやる。
どんな犠牲をはらおうとも。
投稿がだいぶ遅くなりました。
これから、まだまだ続いていくのでお楽しみに!!