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第二章 「人を不幸へ導く力」

〈人を不幸へ導く力〉

僕は、不幸な人間だ。何もかもが、悲劇に見えてくる。

僕が何をしても周りの状況は変わらない。

それどころか、酷くなっていく。

こんな毎日から抜け出したい!もう、苦しみたくないんだ。

誰か、僕を自由にしてくれ!

そんなこんなで、今日も僕はその悲劇に耐える1日が始まった。


朝。僕は、いつもと同じ7時に目を覚ました。

そして、朝食の準備をし、母さんが起きるのを待つ。

これが、僕の1日の始まりだ。

朝食を作っている時は、学校で何をしようか悩んでいる。

学校に行っても楽しいことなど無いのだが、今日こそは何か楽しいことをしようと心に決めていた。

そんなこんなで、母さんが起きてきた。

今日の母さんは、いつもより機嫌が良かった。

笑顔で僕に「おはよう」と言ってくれた。

そして、ワクワクしたような表情で朝食を済ました。

僕は、この表情を毎回見ているから知っている。

今日は、新しい彼氏とのデートの日。カレンダーには、日付のところに赤色のペンで大きく印が

付けられている。

母さんのデートは毎回のことだが、僕はこれが苦手だ。

デートの終わりには、いつも不機嫌になって帰ってくる。

そして、僕を・・・・・。

僕は、朝食を済ませると、食器を洗い学校へと向かった。

校門を抜け、教室へと足を進める。

扉を開き自分の机へと向かう、はずだった。

僕が教室に入ると、数人の男子に足止めされた。

そして、外に連れ出され殴ったり、蹴ったり好き放題に僕に暴力をふるい始めた。

これは、毎日のことで慣れてしまった。

痛みは感じるものの、僕の体はもう傷だらけだ。

今更、傷を治したいとは思わない。これは、しょうがないことなのだ。

僕の家庭はことごとく荒れているのだから。

これは、祖母に聞いた話だ。

僕は、生まれた直後に孤児院に預けられたという。

そして、3歳まで僕はその孤児院で過ごした。一年の終わりの月に母さんが僕を引き取りに来た。

そこまでのことは、よく覚えていない。

しかしその後はしっかり記憶に残っている。

母さんが僕を引き取りに来てから、3年後。

僕は、6歳になっていた。その頃からだったか?家庭が崩れだしたのは。

母さんは、1度離婚をしている。

それも僕が生まれた12月25日、クリスマスイブの日に離婚届けを出した。

そして、この日は2人目の彼氏ができたということで母さんはワクワク気分でデートに出かけた。

しかし、帰ってきたときの母さんの表情は余りにも酷いものだった。

朝整えていった髪は乱れ、目は視点が全然合っていなかった。

そして、部屋に上がると膝から崩れ落ち泣き始めてしまった。

僕は、堪らず「母さん、大丈夫?」と母さんを慰めた。

しかし、その慰めは役には立たなかった。僕が慰めたことで、母さんの怒りを駆ってしまったのだ。

その後のことは、体で実感している。

怒りと悲しみの余り、母さんは僕に拳を向けた。

そして、僕に殴りかかった。

僕を殴っている間、母さんは愚痴を零していた。

「何で、こんなことになるのよ!私が何をしたっていうの?憎い、憎い!」

僕は、その言葉を聞いて理解した。

「母さん、彼氏にふられたんだ」ということを。

その怒りと悲しみで僕を殴っているんだとやっと理解した。

その後、母さんは我に帰り僕を殴っていたことに気が付いた。

しかし、母さんは僕に謝らなかった。

それどころか、僕は母さんにこう言われた。

「あんたがいるから、彼氏がいなくなるのよ!全部、あんたが悪いのよ!」

彼氏がいなくなっていくのを僕のせいにされたのだ。

僕は、泣き崩れた。悲しみと怒りと憎しみの余り僕は泣いた。

何もできない。無力な僕には、泣くことしかできないのだ。

その夜、母さんは家を出たきり朝まで帰ってこなかった。

そう、僕は母さんから虐待を受けているのだ。

そのことは、学校中にあっという間に広がった。

そこからだ僕が学校でいじめを受けるようになったのは。

理由は、やはりあの「虐待」だ。

先生も気にかけてはくれているが、内心では「厄介な子だ」と思っている筈だ。

何せ、僕がいじめられていると母さんに知らせたところでアウトだ。

母さんは、僕のことなどどうでもいいのだ。

母さんは先生に対してすごく反発するだろう。

あるいは、殴りかかってくるかもしれない。

とにかく、今の母さんの様子を見る限り、情緒不安定になっている。

僕から見る限りだ、しかし他の人は母さんのことを「狂った人」と呼んでいる。

そんなあだ名で呼ばれている母さんは、特に気にしてはいないようだった。

このことが彼氏に知られなければの話だが。

その後、僕は相変わらず殴られ続けていた。

ただ、殴るだけとは違う。母さんと同じように暴言を僕にぶつけてくるのだ。

「死ね」「この世からいなくなれ」などさまざまだ。

そんな中、校門の外には2人の女性が僕をじっと見ていた。

多分、かわいそうな子と思いながら見ているに違いない。

今までがそうだったのだから。

もう、散々だ。いなくなりたい。死にたい。そう思うようになってしまった。

人の痛みも知らずによくこんなことができるものだ。

僕の中で、悲しみと憎しみが雑じりあうのを感じた。

そして、僕を散々殴った男子はチャイムの音に気づいて教室へと戻って行った。

僕は、しばらくその場を動けなかった。

それもそうだ、散々殴られて体中が痛い。

僕が顔を上げると、2人の女性はまだ僕を見ていた。

なぜ、僕を見ている?あんた達の見せ物なのか僕は。

そんな毎日に嫌々していた僕は、校門を出るといつも行っている公園へ走った。

公園に着くと僕は砂場にうずくまった。

そして、ずっと我慢してきた涙が僕の頬を伝った。

今、僕が思っていることは、「憎い」ということだ。

母さんも学校の奴らもどうせ、僕の心をボロボロにし体までズタズタにしていく。

なぜ、こんなことになったのか僕には分からない。

まだ、子供の僕には分からない。

どうも僕はいつの間にか我慢強い性格になってしまったようだ。

ここまで、涙を堪えられたのは初めてだ。

「大丈夫ですか?」突然そんな言葉が僕の後ろで聞こえた。

恐る恐る振り返ると、そこには学校の前にいた女性だった。

「うわぁ!」

僕は驚きのあまり、声を上げてしまった。

よく見ると、綺麗な人だった。

しかし、少し怪しい気配もしたがそこは後で分かるだろう。

「あ、あの何ですか?さっきから僕を追いかけ回して」

僕は、恐る恐る聞いた。

女性は、しばらく黙っていたがやがて話始めた。

「あなたを助けにきたのですよ。辛いでしょ?あんなことされて、私たちが来たからにはもう

 大丈夫ですよ。一緒に世界を変えましょう!」

世界を変える?何を言っているのだこの人は。

そんな簡単に世界が変わるなら、僕はとっくにやっている。

こんな世界いたくもない。変えるとしたらそうだな。

僕を傷つけた奴らに復讐することだな。

まー、この人の話はいまいち信用できない。

「そんな話、嘘っぱちに決まってる。世界が簡単に変わる筈ないじゃないか!」

僕は、信用できないという素振りをみせて言った。

しかし、女性は怯まなかった。

「変えれますよ。あなたが私たちに協力してくれるならね。あなたにもこの状況を変えたい

 という願いがあるのでしょ?あなたが願っていることは、私たちも願っていることなのです。 

 あなたの望む世界は何ですか?」

彼女の表情は、なぜか本気のように思えた。

そして、答えた。「僕を傷つけた奴らを同じ目に合わせる世界」と

簡単に言えば、「人を不幸にしたい」のだ。

そして、自分は幸福になる。これが、今僕が望んでいる世界だ。

「そうですか、それは良かった。あなたにピッタリの能力がありますよ。

 それをあなたにあげます。そして、私たちと一緒にあなたの望む世界にしましょう!!」

僕が望んでいる世界を作れる。彼女の言葉が僕に、大きな何かを生んだ。

これは、チャンスなのではないか?たとえ失敗したとしても、いつかは成功するかもしれない。

そんなことが僕の頭をよぎった。

そして、小さい声ではあったが僕は彼女にはっきり言った。

「分かった。付いていくよ」と。

その後は、このメンバーのリーダーである女性に出会った。

名前はないらしく、僕は単純に「リーダー」と呼ぶことにした。

いや、本人がそう言っていた。

僕たち3人は、商店街を歩いていた。

「そういえば、まだあなたの名前を聞いていませんでしたね。名前は、何というのですか?」

突然、聞かれて驚いたが、確かに仲間になったのだから自己紹介はしておかなくては。

僕は、自分の名前ははっきり言おうと決めていた。

「雪斗。佐々木雪斗」

僕は、はっきり自分の名前が言えた。

これまで、自己紹介をあまりしてこなかったこともあり、うまく言えたか分からない。

「雪斗さんですね。私の名前はカーラスと言います。これから、よろしくお願いします」

カーラスと名乗った彼女は、笑顔で言った。

隣にいたリーダーは、少しガッカリしているようだった。

そりゃそうだ、何せ自分の名前がないのだから。


その後、僕はカーラスに「人を不幸にする」という能力を授かった。

説明すると、僕が能力を開放して誰かの体に触れるとその人を確実に不幸にできるらしい。

それは、人でも植物でも動物でも不幸にできるらしい。

なんて便利な能力だ。こんな物が人の手で作り出されるものなのか?

僕は、不思議でならなかった。

でも、これで僕の望む世界を作ることができる。

その為なら、たとえ命が無くなっても。と僕は考えた。

そして、2人には聞こえない声で言った。


「これから、よろしく!」





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