第十九章 「破壊の時」
〈破壊の時〉
「これで、話は全て終わりです。どうでしたか?退屈だったでしょう、私の話なんて」
カーラスは、話し終わると「今のは忘れろ」とでもいうような口調で話した。
実際話を聞くと、驚くことばかりだった。
実の父親に利用されたこと。弟がいたこと。それに、カーラスという名前は別の人物に付けてもらって
いたということ。
「カーラス。さっき話していた、カタロスっていうのは誰のことなんだ?」
私は、話の中で出てきた「カタロス」という人物について気になった。
「そうでした、リーダーはまだ彼女に会っていないのでしたね。
彼女は、私の命の恩人でもあり、二人目の親みたいな存在ですよ。
彼女がいなければ、私は今この場にいない。全て、彼女のおかげなのです。」
カーラスは、随分とカタロスという人物に恩を感じているようだ。
「そうか。お前にとって、大事な存在なんだな」
「はい。でも、風真君は既に会ってますよ。そして、彼は今カタロスさんに会いに行っている
ところです。そろそろ、帰ってくると思いますよ」
風真もカタロスという人物に会っていたのか。
でも、一体彼女は何者なのだろうか?
話を聞いただけでは、さっぱり分からなかった。
私も一度、彼女に会っておいたほうがいいのかもしれない。
「なぁー、カーラス。私にも会わせてくれないか、カタロスさんに」
私がそう告げると、カーラスはにっこりと笑って「いいですよ」と返した。
「それじゃー、風真君を迎えにいくついでに会いに行きましょうか」
そういうと、カーラスは私について来いというかのように歩き始めた。
外は、とても暑かった。
もう、夏なんだなーと感じることができるほど暑かった。
カーラスは、あれから一言も喋らない。
ただただ、歩き続けている。
しばらく行くと、知らない森に入った。
こんな都会でも森はあるんだなーとちょっと不思議な感覚に襲われた。
突然、カーラスが立ち止まった。
「どうした?何か見つけたのか?」
私の声が聞こえていないのか、カーラスはただ前だけを見つめていた。
私も目を向けると、そこにはこちらに向かってくる風真の姿が見えた。
風真の顔は、いつもとは違いすっきりしていた。
まるで、悩みなど全然ないような顔をしていた。
それを見たカーラスは、笑みを零した。
「風真君でしたか、その顔は全てを知ったのですね?」
「あぁ、全てな」
恐らく、風真はカタロスという人物に会い、そこで自分自身の全てを知ったのだろう。
「風真君、カタロスさんはまだいますか?」
カーラスは、笑顔のままそう質問した。
「まだ、いると思いますよ。俺がここまで来るのに、時間は掛かってませんから」
「そうですか。じゃー、もう一度一緒に来てください。あなたにも知る権利くらいはあると思うので」
カーラスは、それでけ言うと歩き始めた。
風真も何も言わずについて来る。
しばらく行くと、木が生い茂る場所までやってきた。
さっきよりもはるかに木の本数は増えていた。
「どこです?いるのでしょう、カタロスさん」
カーラスは、大声でカタロスを呼ぶ。
その声は、森中に響き渡った。
「おや?カーラスじゃないか!久しぶりだね。君からわざわざ来てくれるなんて思わなかったよ」
声と共に現れた人物こそがカタロスだった。
私は、一瞬男の子と勘違いしてしまった。
なにせ、服装といい髪型といいすべてをひっくるめても、男の子という印象しかない。
これは、カーラスが見て間違える筈だ。
「ところで何の用かな?」
突然、カタロスがそう切り出した。
「いえ、リーダーにあなたを紹介しておこうかと思いまして」
そういうと、カーラスは私の方を向いた。
あいさつしろと言っているのか?
「初めまして。私は、この組織のリーダーをしている者です」
「あぁ、知ってるよ。初めまして、ご主人様」
ん?今、彼女はなんと言った?
私のことを「ご主人様」と呼んだのか?
一体、なんなんだ?会うなり、「ご主人様」って。ふざけているのか?
「いやー、まさかこんな早くに主人に会えるなんて、光栄だな」
「お前、ふざけているのか!私は、主人ではない!」
私は、初対面の人物に対して怒りを覚えていた。
でも、そんな私の怒りとは変わって、彼女はニコニコしていた。
まるで、この状況を楽しんでいるかのように。
「そんなに怒らないでくださいよー、私は本当のことを言ったまでですよ。
あなたは、この世界の主人。だから、この世界を動かしているのもあなたですよ。
リーダーさん」
その話に私は、驚かずにはいられなかった。
私がこの世界の中心?動かしているのは、私?訳が分からない。
彼女は、一体何を企んでいるんだ。
「カタロスさん。あなたは、何を言ってるんですか?」
カーラスが少し動揺を見せた。
カーラス自身もこんな話は、初めて聞くのだろう。
「しょうがないなー、そんなに知りたいな教えてあげる。でも、これでカウントダウンは0だ」
彼女が指を鳴らした瞬間、遠くのほうで爆発音が響いた。
爆発が起きた場所。
そこは、私たちのアジトだった。




