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第十八章 「語られる真実Ⅲ」

〈語られる真実Ⅲ〉

目を覚ますと、ベッドの上にいた。

あの後、一体私はどうなったんだろうか?

記憶は全然ない。

ただ、お父さんに襲われて実験体にされそうになったことだけは覚えている。

でも、その後の記憶はさっぱり抜けている。

痛みも恐怖も感じなかった。

視界がなんとなく、ぼやけて見えた。

視力でも落ちたのだろうか?

私は、小さい頃から目だけは良かった筈なのに。

「やっと目を覚ましたか!このときを待っていた!」

隣から男の人の声が聞こえた。

この声には、聞き覚えがある。

そう、この声は私のお父さんの声だ。

私は、ゆっくりと首を横に倒して、お父さんの顔を見た。

「お・・とう・・さん」

微かだが声も出た。

しかし、私の反応を見て、お父さんの表情は曇った。

そして、あの時のように叫んだ。

「まただ!また、失敗だ!!どうしていつもこうなんだ!ふざけるな!!!!」

失敗?

私が失敗作となったと伝える言葉だった。

それは、とても悲しく苦しいものだった。

「ど、どうして。私が」

しばらくすると視界もしっかり見えていた。

そして、言葉もはっきりと伝えられるようになっていた。

「お前、私が誰だか分かるか?」

お父さんは、突然そんな質問を投げかけてきた。

私は、率直に答えた。

「私のお父さん」

その言葉を聞くと、さっきのように叫んでいた。

「そう、それだ!その答が間違っているんだ!」

「どうして?本当のことでしょ?」

「お前の身体も精神も今ある身体に移し変えたというのに、お前の記憶はリセットされていない!

 本来なら、身体と精神が入れ替わることで、記憶も思い出も何もかもきれいにリセットされる

 筈なんだ!だが、お前は何もリセットされていない!こんなことはあり得ない!

 お前は、失敗作だ!」

そんなこと、言われなくても分かっている。

私が失敗作で、もうお父さんの娘ではないということも。

記憶は、ある。

でも、恐怖なんていう感情は、もうどこにも存在していなかった。

あるのは、私はもうお父さんの子ではいられないということだけだった。

それが今の私にとって、一番の恐怖だった。

「そういえば」

私はふと、弟の存在が気になった。

あの後どうしたのか?

やはり、私と同じく死んでしまったのか?

「あの、ユウトはどこにいるの?」

私は、恐る恐る聞いてみた。

「ああ、ユウトか。あいつなら、お前の近くにいるではないか」

「えっ?」

そう言われて、私は隣のベッドに目を向けた。

「はっ!」

私は、自分の目を疑った。

ベッドの上にいたのは、変わり果てたユウトの姿だった。

背が異常に高く、はたから見ると16歳前後の体をしていた。

これが本当にユウトなのだろうか?

私が知っているユウトは、泣き虫でとても可愛げのある子だということだけ。

あの涙の後に、こんな姿にされてしまったのだ。

それを思うと、自然と涙が流れていた。

そして、ユウトにすがるようにして謝った。

「ごめんね。お姉ちゃんが守ってあげるって言ったのに、全然守ってあげられなかった!」

私の姿を見て、お父さんは呆れた顔をしていた。

「いつまで泣いているつもりだ?お前は、失敗作として終わった。それがどういう意味か

 分かっている筈だ。」

失敗作がどうなるかということだろう。

それぐらい分かっている。

分かりきっている。

でも、いつまでもお父さんの子でいたいって心の底では強く思ってるの。

ずっと、家族で幸せに暮らしたいって願うのはダメなのかな?

ねぇ、お父さん。お父さんにとって、本当に私は必要ないの?

「出て行け!お前は、もう必要ない!」

「本当に必要ないの?」

「あぁ、お前がいなくてもユウトがいるからな。だから、お前はもう必要ない」

「そうなの。分かった、出て行く」

そう言って、私は家を飛び出した。

走っていく中で、涙が止まらなかった。

それは、お父さんに捨てられたという悲しみと、

ユウトを見捨ててしまったという後悔の涙だった。


どれくらい走り続けただろう?

もう、体力も残っていない。涙を流すだけの力さえ、残っていなかった。

外は、真っ暗で何も見えない。

「た・・・すけ・・・て」

声は、出る。

私は、誰に届くはずもない助けの声を上げた。

きっと、誰も気づかない。

私は、このまま死んでいくのだろうか?

まぁ、そっちの方が楽になれていいかもしれない。

そう思いながら私は、静かに目を瞑った。

しかし、それは一瞬だった。

誰かの声がして、私はとっさに目を開けた。

そこには、1人の少年が立っていた。

「君、大丈夫?ひどいケガだね。僕の肩につかまって」

私は、言われるがままに彼に従った。

これで助かる。

その嬉しさでいっぱいだった。

森の奥深くに、彼の家らしきものが建っていた。

家といっても、とても小さく倉庫のような造りをしていた。

「汚い所でごめんね。すぐに手当てしてあげるからね。」

私は彼の手当てを受けながら、ユウトのことを考えていた。

あの後、ユウトはどうしたのだろうか?

やっぱり、お父さんに利用されているのだろうか?

そう考えると、辛くて悲しくてどうしようもなくなる。

私は、この時初めてお父さんが憎いと思った。

お母さんのことも分からない。

お父さん自身のことも全く分からないまま、ここまで来てしまったのだ。

手当ても終わり、遅めの朝食をとりながら彼と話をした。

いや、正式には「彼女」が正しい。

話をしている中で、彼女は「僕は、一応女なんだけど、まぁ勘違いされるのも無理ないかもね」

と話していた。

一人称が「僕」であるから男と間違えたところもあったが、一番最初に男だと間違えたのは、

彼女の服装から髪型まで、男という感じだったことが印象強かった。

「なんで、そんな格好を?女の子なら、女の子らしい格好をすればいいんじゃないですか」

私がそう告げると、彼女は困ったような顔をした。

「そうだね。僕だって、できることなら一度くらい女の子らしい格好をしてみたいよ。

 でも、そうは言ってられないんだ。」

その後、一緒に過ごしていく中で彼女はいろんなことを教えてくれた。

自分がどういう存在であるのか。

彼女がどんな気持ちでこの世界で生きているのか。

その全てを知ることを私は、許された。

「君には、知っておいてもらいたいんだ。僕の過去をね」

その言葉は、今の自分を見ているようで悲しくなった。

私も今、誰かにこの気持ちを伝えたいと願っている。

分かってもらいたい。自分のことを誰かに。

私の思いに気づいてくれたのは、やはり彼女だった。

私は、彼女に全てを話した。

恐怖をじかで感じた、あの瞬間を。


「君の名前は、なんて言うの?」

「えっ?自分の名前ですか?・・・・・分かりません」

「そうか。僕の名前は、カタロスっていうんだ。」

「カタロスさん?」

「そう。じゃー、君の名前は・・・・カーラス。」

「それが、私の名前ですか?」

「そうだよ。君は、今日からカーラスだよ!」

「素敵な名前ですね。ありがとうございます!」

「最後に一つだけ。」

「何ですか?」

「君がしていることは、正しいよ。でも、その中で君は、裏切りというものを覚えるんだ。

 人は、利用されるだけの存在だとじかで知ったろ?だったら、君も人にそのことを

 伝えないとね。今日からは、君だけで行動する。だから、利用し終わったら裏切ってもいいんだよ。」

「はい。分かりました」





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