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第十七章 「語られる真実Ⅱ」

〈語られる真実Ⅱ〉

「早く早く!遅いよー、もう!」

「ごめんね。でも、そんなに急がなくても間に合うわよ」

「そうよ、ユウト!そんなに走ったら、怪我しちゃうよ!」

私たち家族は、そんな他愛も無い話をしながら道を進んで行く。

今日は、年に1度の祭典の日。

今年一年の豊作などを願うお祭り。

今年も平和な年でありますように。なんて、毎年願っていることだけど、

大体毎年、平和だ。

今年もきっと大丈夫。

そう、思っていたのに・・・・・。

あんなことになるなんて、思っても見なかった。


祭りもひと段落つき、私たちは家に戻った。

「楽しかったね!花火とか綺麗だったよ!」

ユウトが今日あったことを楽しそうに話している。

私は、そんな弟が大好きだ。

素直で優しくて、家族思いな性格。

将来は、とてもいい大人になるだろう。

「2人ともご飯出来たわよ!」

ユウトと話していると、母が呼んできた。

どうやら、晩御飯が出来上がったようだ。

「今日のおかず、何か当てっこしようよ!お姉ちゃん!」

「臨むところよ!」

私たちがいつもやっていることがある。

それは、おかずの当てっこ。

当たったら、相手のおかずを貰っていいというルール。

物心ついた時から自然にこんなゲームをやっていた。

そういえば、小さい頃はお父さんがよく遊んでくれたっけ。

今は、仕事が忙しくて滅多に顔を合わせていない。

「じゃー、僕の予想はねー、カレー!!」

「じゃー、私はハンバーグ!!」

そういうと、私たちは階段をいっきに駆け下りた。

台所に行くと、テーブルに晩御飯が並べられていた。

そこに並べられていたのは、カレー風味のハンバーグ。

案の定、私たち2人が予想した物が混ざったおかずだった。

こういう時は、「引き分けだね」

今日は、引き分け。でも、明日こそは当ててみせる!

私は、心のどこかでそんなことを思った。

だって、いつも勝つのはユウトなんだもん!

いつまでも負けてなんていられない。

「次は、勝つからね!」

「臨むところだよ!お姉ちゃん」

ユウトと楽しい会話をする。

お母さんとも仲良くできている。

でも、お父さんとだけはなぜか話す機会がなかった。

いつもは、ご飯時に呼びに行かないんだけど、

今日は、どうしても一緒にご飯を食べたかった。

単純な理由だけど、普通の家族なら当たり前のことだけど、

でも、私たちの家庭ではそんなの当たり前じゃない。

お父さんとは、ろくに話しもしないし、遊んでもくれなくなった。

それに、家に引き篭もってばかりいる。

お母さんに聞くと、「仕事が忙しいのよ」とだけ聞かされていた。

でもその当時の私には、そんな理由じゃ納得できなかった。

「ちょっと、お父さん呼んでくる!」

私は、そう言って階段を駆け上がった。

でも、その途中でドンッ!とものすごい音が家中に響いた。

「な、何!?」

「大丈夫!どこも痛くない?」

お母さんは、私を抱えて下に下りた。

そして、私とユウトの安全を確認すると、お母さんは1人で2階へ上がって行った。

私は、お母さんの背中を見るのが怖くなった。

このままいなくなってしまうのではないか?と怖くなった。

「ユウト、奥の部屋に行こうか」

私は、ユウトを連れて家の奥にある和室に身を潜めた。

そっと耳をすますと、お父さんのイライラした声が聞こえた。

「クソッ!また、失敗だ!何故だ、何故うまくいかない!」

「あなた、落ち着いてください!」

それを止めるお母さんの声も。

「お姉ちゃん。僕、怖い!」

ユウトは、私の胸の中で身体を震わせていた。

そして、小さく本当に小さく、泣いていた。


しばらくすると、家の中が静まり返った。

私は、ユウトにここで待つように言うと、和室からそっと出て行った。

一歩また一歩と階段へ近づいて行った。

そして、そっと覗き込むとそこには、真っ暗な影だけが漂っていた。

しばらく眺めていると、お母さんが姿を現した。

「お母さん!お父さんは?大丈夫だったの?」

私がそう聞くと、お母さんは笑顔で「大丈夫よ」と言った。

でも、その言葉を聞いても私の恐怖は消えてくれなかった。

少し、肩が震えていた。

その後、私たちは静かに夕食を済ませた。

ユウトは、すすり泣きながら食べていた。

よっぽど、さっきの出来事が怖かったのだろう。

目は、赤くなっていた。

私も実際は、すごく怖かった。

お父さんがイライラしているのは、いつものことだけど

あんなに取り乱していたのは、始めてみたような気がする。

あの時のお父さんの顔は、とても怖かった。

夕食を食べ終わると、ユウトと一緒に部屋に戻った。

「ユウト、今日はもう寝なさい。」

「えっ?なんで、まだ時間早いよ。」

「いいから、寝なさい!」

私は、厳しい口調でユウトにあたってしまった。

私の気を察したのか、ユウトは素直に布団に入った。

「ごめんね。ユウト」

私は、ユウトの頭を優しく撫でながら謝った。

いままで、ユウトにきつくあたったことなんてなかったから。

自分でも怖くなってしまった。

「大丈夫、ユウトのことはお姉ちゃんが絶対守るからね」

私は、そう言い残して2階へ向かった。


ゆっくりと階段を上っていく。

お父さんの部屋とお母さんの部屋は、別々にある。

私は、お父さんの部屋の方に足を運んだ。

そっと中を覗き込むと、そこにはお母さんの姿があった。

お父さんともめてるみたい。

「あなた!もう、やめてください!」

「うるさい!お前には、関係のないことだ!それに、もう計画は止められない!」

「関係ないわけないでしょ!あの子達を危険に晒すことだけは、許しませんから!」

「自分の子供を利用して何が悪い?2人がこの世界の役に立てるなら、それでいいじゃないか!」

「そんなこと、絶対にダメです!!」

お母さんたちは、そうとう激しく揉めあってるみたいだった。

でも、さっきのお父さんの言葉は?

私たちを利用する?世界の役に立てる?

何のこと?全く分からない!

「お姉ちゃん、こんなところで何してるの?」

私の背後に突然、ユウトが現れた。

「まだ起きてたの!?早く、寝なさい!」

さっき寝かせたはずなのに、もう起きてきてしまった。

やっぱり、寝かせる時間が早すぎたのかもしれない。

私は、そう後悔した。

「どうして、来たの?ここは、危ないからはやく下に下りて、

 布団に入ってなさい!」

そう言った時だった。

お父さんとお母さんの会話は、止まっていた。

どうやら、私たちがいることに気づいたようだ。

しまった!これは、マズイ!

「ちょうどいいところに来てくれて様だな。」

そう言って、お父さんは私ではなくユウトを掴んだ。

「まずは、弟からがいいかな」

私は、しばらく眺めているだけだった。

でも、我に返った瞬間。とっさにお父さんにしがみ付いていた。

「ユウトを離して!お願いだから!お願い、お父さん!」

私は、必死に対抗した。

さっき、誓ったばかりなのに。ユウトのことは、私が守るって

それなのにいざとなったら、全然足も出なくなってしまう。

そんなの嫌だ!絶対に嫌だ!

私のせいでユウトが犠牲になる。

それだけは、絶対に避けたい。

でも、お父さんには敵わない。

どうしよう。どうしよう。どうしよう!

頭の中がそんな言葉で埋め尽くされていった。

ユウトは、声には出していなかったけど泣いていた。

そうだ、今の状況で一番恐怖を感じているのは、ユウトなんだ。

早く、ユウトをこの恐怖から開放してやらないと。

「あなた、本当に止めてください!」

お母さんも必死にユウトを助けようとしている。

でも、全然歯が立たない。

「これは、私自身のためでもあり、この世界のためでもあるんだよ。

 この実験に成功すれば、私の名誉も世に知れ渡る。

 そうすれば、あのいかれた科学者たちも私を信用するだろう!」

お父さんに言ってることがますます分からなくなっていく。

でも、こんなことになった原因は思い出せた。

2年前のこと。

テレビを見ていたお父さんは、なんだか悔しそうな顔をしていた。

テレビの内容は、ある科学者が「人造人間」の開発に成功したという

ニュースだった。

それを見て、お父さんは、「こいつらに負けないぐらいの人造人間を造ってやる!」

そう言ってから、部屋に篭るようになった。

じゃー、今この状況はその「人造人間」を造るために本物の人間を使うという

目的を果たすために、私たちを利用しようとしてるんだ。

ということは、私とユウトは、この場で「死」を迎えるということになる。

そんなのヤダ!

そう思った時には、すでに遅かった。

いつの間にか、私はお父さんに担がれていた。

もう片方の腕の中には、ユウトのぐったりした姿があった。

私があれこれ考えている間に、事態は発展していたのだ。

「は、離して!!」

私は、我に返ると必死にお父さんの腕から逃れようとする。

でも、私より力が上のお父さんには敵わない。

私は、とっさにお母さんの方を見た。

でも、お母さんもその場に倒れ伏し、動く気配もなかった。

「お母さん!お母さん!」

私は、何度も叫んだ。

でも、私の声はお母さんには届かなかった。

「少しは、静かにできないのか?大人しくしていれば、何も怖いことなんてないんだからな」

「そんなの嘘よ!お父さんは、実験のために私たちを利用したいだけでしょ!」

私は、力がダメなら言葉で逃れようと必死に言葉を綴った。

「だからなんだ?自分の子供を利用して、何がいけないんだ?お前たちが今日、この瞬間、

 生きてられるのは、誰のおかげだと思ってる?」

「そ、それは」

その言葉を聞いて、私は遂に黙ってしまった。

今、生きていられるのは、お父さんとお母さんのおかげ。

それは分かってるけど、こんな死に方したくないんだもん!

ねぇー、お父さん。

私は、身体に力が入らなくなり、その場で気を失った。





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