第十四章 「知ってしまった現実」
〈知ってしまった現実〉
「あぁー、勢いでここまで来たけど、どっちに行けばいいんだ?
あの、カタロスさんに俺の力の全てを聞かねぇーと!」
カーラスさんの話を聞いて、飛び出してきたのはいいものの、
初っ端から、道に迷ってしまった。
カタロスさんは、俺の全てを知っているかもしれない。
それなら、直接会って話してやる。
でも、なぜあの時、カーラスさんは俺に全てを話さず、
カタロスさんに直接会って聞いてみろと言ったのだろうか?
「あの人が、もし俺の全てを知っているのなら、聞くしかない。
でも、もしあの時みたいに後悔するような内容だったら、俺はどうすればいいんだ?
それに、生まれた頃からって、あの人は俺のどこまで知ってるんだろう?」
そんなことを考えてみる。
この考えで、全てがまるっと収まるならそっちの方がいい。
でも、現実はそう甘くない。
考えただけで、なんでもかんでも収まれば、楽に生きられるかもしれない。
「そんな世界もありなの・・・かな?」
そんなことを考えながら、歩いているといつの間にか、
見知らぬ森に立っていた。
「あれ?俺、なんでこんなところに?っていうか、こんな都会に森なんてあったんだな」
俺は、森をゆっくりと歩いて行った。
見渡す限り、全てが木だった。
立派で堂々と立っている。
俺も、この木たちみたいに堂々としていたいものだ。
「うっ!」
そんなことを考えていると、突然目が疼いた。
思わず目を瞑る。
数分経って、やっと目が開けられるまでに回復した。
「な、何だったんだ?今の痛み」
俺は、ゆっくりと目を開けた。
しかし、俺の目に映り込んだのは、さっきいた森ではなかった。
そこは、全てが歪んでいた。
これは、夢だ!そうだ、変な夢でも見てるんだ!と自分の中で丸め込もうとした。
しかし、いくら自分の体を痛めつけても、風景は変わらなかった。
夢でもないし、現実でもない。
「何なんだよ!この世界!もう、何がなんだかわからねぇーよ!」
俺がそう叫ぶと、歪んだ空間が動き始めた。
荒々とした風が吹いている。
「この世界のことを知りたいか?」
俺の耳に突然、そんな言葉が入り込んできた。
「だ、誰だ?いるなら、出て来い!」
俺の叫びは、その空間に響くだけだった。
でも、この歪んだ空間の動きは止まらなかった。
それをじっと見ていると、また同じ声が聞こえた。
「久しぶりだね。風真君!」
この声は、どこかで聞き覚えがある。
つい最近、聞いたような声だ。
「あんた、カタロスさんか?」
俺がそう質問すると、答えはあっさり返ってきた。
「あれ、覚えててくれたの!ありがたいなー。僕って、いつも忘れられる存在
なんだけどね~」
この人の顔は、忘れようとしても忘れられない。
何故かって?それは当然、俺の記憶を勝手に取り去り、
理由も無しにあっさり返してきたからだ。
「そんなことは、置いておくとして。この世界のこと教えてくださいよ」
俺は、初めに自分の能力とは違うこの「歪んだ世界」のことについて質問した。
「うん。いいよ!えっとね、この世界は君の本当の世界だよ。」
それだけあっさり言ってしまった。
俺は、カタロスさんの話に耳を貸していたものの、あまりにもあっさり言ってしまった
ため、話の内容がまったく理解出来ずにいた。
「えっと、それはつまり、どういう意味ですか?」
俺は、再度質問した。
「そうだよねー、これだけじゃ分からない。今から、全て話すよ。
君は、自身の力について聞きに来たんでしょ?カーラスから聞いてるよ」
そういうと、彼女は寝そべった体を起こし、姿勢を正した。
なんだ、カーラスさんは彼女に俺が来ることを伝えてくれていたのか。
そこら辺は、優しいんだな。あの人も。
「まずは、君自身の力のことについて話すとしよう。風真君は、少年と狐の話は聞いたことあるかい?」
カタロスさんが言っているその話は、俺が小さい頃から母さんに聞かされてきた話だろう。
「あぁ、知ってる。でも、最後までは聞いたことは無い」
そういうと、彼女は「やっぱり」という表情をした。
まるで、俺のことを隅から隅まで知っているかのように。
「じゃー、その続きを話してあげるよ。でも、後悔しないでね」
この言葉は、聞いたことがある。
俺がここに来る前、「後悔しなければいい」と思っていた言葉だ。
やはり、俺の全ての記憶は「後悔」することばかりなんだ。
もう、後悔なんてしたくないのに、それは許されないのか。
そういえば、俺はあの時以来、「泣く」ということをしていないような気がする。
奏介を亡くした時以来、一度も泣いていない。
それが、不思議でならなかった。
「後悔するかしないかは、俺次第だろ?だから、全て話してくれ」
「分かった。じゃー、一旦この歪んだ世界を出ようか」
そういうと、カタロスさんは俺の額に手を当てた。
その瞬間、酷い頭痛が襲い、目まで疼いてきた。
目の前がグルグルと回っている。
気がつくと、元の場所に戻っていた。
「い、いつの間に戻ったんだ?一瞬、目の前がグルグル回ったと思ったら、
いつの間にか戻ってる。何なんだよ、これ」
俺が、1人であたふたしていると、カタロスさんがゆっくりと話始めた。
「その後、少年は急いで家に戻り、母親に薬を飲ませました。
それから数日後には、母親の病はすっかりよくなっていました。
少年の身体もなんの変化もなく、元気に過ごしていました。
しかし、少年の母親は病が治って2年後、突然自殺してしまったのです。」
そこまで、語ると俺の顔をじっと見た。
俺も、心底驚いた。なぜって、突然少年の母親が自殺したなんて話が出てきたからだ。
「じ、自殺ってなんだよ!何でいきなり、そんなことになるんだよ!」
「まぁー、続きを聞いてよ」
そう言って、彼女は再び語り始めた。
「自殺した母親は、遺書を残していました。少年は、ゆっくりその遺書を開くと
静かに読み進めていきました。そこには、こんな言葉が綴られていました。
あの子が見せた現実は、本当かもしれないし偽りかもしれない。
けれど、もしそれが現実の物となるのなら、今この場において
私は、自ら死を選ぼう。と」
「自らの死」その言葉、どこかで聞いたような?いや、見たような気がした。
少年が母親に見せた現実。それを見て、母親は死んでいった。
それもこれも、少年が悪いみたいだ。
「少年は、自分が母親を死に追い詰めたことを実感しました。ある日、少年が鏡で自分の
顔を見ると、自分の目の異変に気がつきました。」
カタロスさんは、坦々と話している。
その話を聞く度に、どこか自分に当てはまる内容があることに少しずつ気がついていった。
少年が気付いた、自分の目の異変。少年が自ら母親を死に追いやったこと。
俺が奏介を死に追いやったように。
「少年は、その目を見ると同時に自分の未来も見ました。結婚をし子供も出来ていました。
それを見た少年は、生きようと決心しました。母親が亡くなった日。少年は、自殺を考えていた
のです。母親と同じ道を歩めば、自分が犯してしまった罪を拭い去ることができると考えたのです。
しかし、自分の力で自分の未来を見た少年は、これが運命なのだと気付き、
生きる決心をしたのでした。」
話はそれで終わったようで、カタロスさんはそっと俺の顔を覗き込んできた。
「どうだった?この話を聞いて、何か分かったかい?」
「えっ?あぁ、うん。」
俺は、彼女の問いにあたふたしてしまった。分かったというより分からないという方が
大きかった。
一部だけ、自分のことと重なった。でも、それ以外は分からない。
「あやふやみたいだね。じゃー、全てを話すよ。少年が狐に与えられた力は、
君が持っている能力そのものだよ。少年は、君のご先祖様。
そして、その力を初めに持っていたのは、君のお母さんだよ。」
「えっ!?それって、俺の母さんがこの目を持っていたってことか?
だとしたら、俺は母さんからこの能力を受け継いだ。そういうことなのか?」
俺の話にカタロスさんは、「よく気がついたね」と褒めた。
どういうことだ?この能力は、母さんが持っていたもの。
それならば、遺伝子的なもので俺に受け継がれた。
「君って、意外に頭がいいんだね。見直したよ!君の種族は、特別なんだよ。
その目を持ってしてこその君なんだ。君のお母さんもその力に悩んだみたいだよ。
君を産めば、能力は君の元へと行ってしまう。でも、それを覚悟で君を産んだんだ。
お母さんに感謝しなきゃね」
これが俺の真実なんだな。
知って良かったのか、それとも知らない方がよかったのか。
それは、分からなかったが、それとは別に安心していた。
このことは、カーラスさんに報告しておこう。
「俺は、全てを知った。だからもう、大丈夫だと」




