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第十二章 「復讐」

〈復讐〉

これは、復讐だ。

僕が味わってきた痛み、悲しみをあいつらに味わわせてやる。

アジトを出て、僕は真っ先に学校へと向かった。

この学校を何度恨んだだろうか?憎んだだろうか?

ここに来る度、胸が締め付けられる。

無言で男子生徒から暴力を受け続けた、あの日を思い出す。

あのときの僕は、何もできなかった。

「しょうがないこと」と自分の中で丸め込んでいたんだ。

でも、今は違う。

この力がある。これさえ使えば、僕と同じ「不幸」を味わわせてやることができる。

僕は、私服姿のまま校門へ足を進めた。

下駄箱のところまで来ると、女子生徒が廊下で喋っているのが見えた。

「うるさいな」

僕は、そう思いながら教室へ入った。

ドアを開けると、生徒の注目を一斉に浴びた。

あたりまえだ。なにせ、1ヶ月も学校に来ておらず、はたまた家にも帰っていないのだから。

そんな注目を浴びながら、自分の席についた。

キーン!コーン!カーン!コーン!とホームルームの鐘が鳴った。

そのチャイムと共に先生が教室に入ってきた。

先生は、僕の存在に気がつくと、「雪斗、今日は来たんだな」と笑顔で言った。

勘違いをするな。僕が今日、学校に来たのは、お前たちに復讐するためだ!

1時間目は、あいにく、体育だった。

授業内容は、「ドッジボール」。

最悪だ。どうせ、僕はいつも内野だ。

なぜって、僕が内野なら心置きなく、僕にボールを当てられるだろ?

これなら、先生だって、「いじめだ」なんて絶対に思わない。

普通、外野の人が内野の人にボールを当て、それが相手に当たったら、

内野の人は、外野に移動するのが普通だろう。

でも、僕の場合は違う。

僕は、内野専門なのだ。つまり、内野にしかいてはいけないということ。

先生もそれを分かっている。

元々、運動が得意ではなかった僕は、生徒たちの意見で、

「内野専門」の称号を貰ったのだ。

最初にそのことを言い出したのは、クラスでも成績優秀で運動もできるカンペキマンの

佐藤だった。

彼は、僕を一番最初にいじめた相手でもある。

今でも、それには変わりない。しかも、いじめグループのリーダーまで勤めている大物だ。

そんな奴にかなうわけがない。と思っていた。

でも、今は違う。この力さえあれば、佐藤だって他の奴らだって、

こらしめることができる。

それが、楽しみでたまらない。

作戦の決行は、昼休み。

それまでは、しんぼうするしかない。

1時間目が無事に終わった。

僕の体は、傷だらけだった。あたりまえだ、なにせおもいっきりボールを

投げつけられたのだから。

僕は、保健室に怪我の手当てに行った。

保健室に入ると、先生に手当てを受けた。

先生は、「あまり無理をしないのよ」と声をかけてくれた。

でも、無理などしていない。あいつらが悪いんだ。

僕の体をいつも傷だらけにする。

そんな奴は、嫌いだ。

保健室を後にすると、僕は教室へと戻った。

教室までの道のりが、なぜか長く感じられた。

当然かもしれない。なぜなら、体育の時間に付けられた傷がズキズキと痛み、

体が重たい状態で歩いているのだから。

教室に入ると、佐藤が僕の前に現れた。

彼は、僕を見ながらこう言った。

「おや、傷だらけ敗北者のお帰りですよ。そんなにボロボロになって、

 痛かったでしょう?」

その言葉は、完全に僕を嘲笑っていた。

「傷の具合は、どうですか?」

彼は、さっきと変わらない口調で聞いてきた。

僕は、それを無視し自分の席へと足を運んだ。

その姿にイラついたのか、佐藤は僕の胸座を掴んだ。

「無視してんじゃねぇーよ!お前は、下僕の存在なんだよ!俺たちに

 殴られ、蹴られてれば、それでいいんだよ!それが、唯一お前が

 生きてるっていう証なんだからよ!」

そんなことは、分かっている。

毎日、殴られ蹴られる存在だった。

暴力的なこの世界を憎んだ。恨んだ。

「呪ってやりたい」そんなことを本気で思った。

自殺しようとも考えた。

でも、あの人たちに出会って、変わったんだ。

この力でなんでもねじ伏せてやると決めたんだ。

後悔しないように。

僕は、佐藤が掴んでいる手を振り払って、自分の席へ行った。

僕の目を見て、佐藤も少し引いた。

「チッ!後で覚えてろよ!」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

僕の突然の発言にクラス中の誰もが驚いていた。

いままで、余程発言をしていなかったと思うと悲しくなる。


給食も終わり、昼休みになった。

僕は、作戦を実行に移すため、準備を始めた。

まず、佐藤たちを屋上に呼びつける。

この力の最初の犠牲者は、佐藤たちだ。

この力で佐藤たちがどうなっても、僕は知らない。

むしろ、嬉しいほどだ。

あいつらがこの世からいなくなってくれるなら、それでいい。

他に何も望まない。

屋上で待っていると、案外あっさり佐藤たちは現れた。

いつになく、苛立っているようだった。

「なんだよ。こんなところに呼び出して。まさか、自分からいじめてくださいなんて

 言わないよな?」

「そんなこと、言うわけないだろ?」

僕の返事に佐藤たちの苛立ちは増していった。

「じゃー、何の用だよ?」

「いままでの復讐だよ」

僕の言葉は、佐藤たちの笑いの壺へと入った。

「なんだよそれ!はっはっはっ!復讐だ?何バカなこと言ってんの?

 できるわけないだろ!」

可笑しさのあまり、佐藤たちは地面に笑いこけた。

でも、そんなに笑ってられるのも今のうちだけだ。

だから、今のうち存分、笑わせてやる。

そして、後でゆっくり苦しんでくれ。

数分の間佐藤たちは笑っていた。

笑い疲れて起き上がると、「お前、本当に復讐する気?」

と聞いてきた。

まだ、信じてはいないようだ。

僕は、その間ずっと力を溜めていた。

その感覚が初めての僕でも分かる。

「これなら、いける!」

僕は、何も答えずゆっくり歩き始めた。

僕は、相当不気味な歩き方をしていたのだろう。

佐藤たちの動きが、ピタッと止まるのが分かった。

一歩一歩、確実に近づいて行く。

佐藤たちは、逃げようともせずただ、じっと僕を見ている。

僕は、ゆっくりと佐藤たちの間を抜けた。

それを見て、佐藤たちは安心したようにこっちを見た。

「なんだよー、佐々木。ビックリさせんじゃねぇーよ!」

僕があっさり間を素通りしたことで、佐藤たちの心に余裕が生まれていた。

でも、僕は確かにあの時、佐藤たちの肩に手を当てた。

これで、こいつらへの復讐はできた。

「復讐は終わったよ。じゃーまたね。精々、苦しんでね!」

それだけ言うと、僕は静かにその場を立ち去った。

僕の言葉に佐藤たちは、キョトンとしていた。


僕は、そのままアジトに帰った。

僕の帰りを待ちわびていたのというように、リーダーが駆け寄ってきた。

「ユキト!大丈夫だったか?何もされてないか?」

心配そうに僕に問いかける。

それを他所にカーラスさんは、僕にこう聞いてきた。

「どうでした?上手く使えましたか?しっかり復讐はできました?」

僕は、その問いに静かに頷いた。

その反応にカーラスさんは、「それは、良かった!」と嬉しそうだった。

「カーラス!今は、そんなことを聞いてる場合か!ふざけるのもいい加減にしろ!」

カーラスさんの態度にリーダーの怒りが頂点に達していた。

これでも、ちゃんとした仲間なんだなーと改めて思った。


翌日のニュースを見て、僕の嬉しさは頂点に達した。

「昨夜、住宅街の路上で小学生と思われる、遺体が発見されました。

 警察の調べでは、この近くの学校に通っている、佐藤くんら4名だとしています

 今だ、犯人は見つかっていません。警察は、この事件についての詳しい事情を捜査しています。」


「復讐、成功!」







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