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第十章 「幸せをください」

〈幸せをください〉

「あれは、穏やかな春の日のことです」

そういって、俺の母さんはいつもその「話」を聞かせてくれた。

優しい声で包んでくれた。

その「話」の内容を俺は、1から覚えている。

穏やかな春の日に1人の少年と1匹の子狐のお話。


その日、少年は町へ出かけました。

母が病気でしまったので、町へ薬を買いに行ったのです。

「こんにちは、おじさん薬をください。母さんが病気なんだ」

少年は、急いで薬屋に駆け込みました。

すると、店の主人がこう言いました。

「医者には見せたのか?重い病気なら容体が分からん以上、薬を売ることはできない」

少年は、その言葉を聞いて我に返りました。

(そうだ、まず医者に見せなきゃダメなんだ。でも・・・そんなお金)

少年の家は貧しく、収入源は父が頼りでした。

しかし、そんな父も3年前に母と離婚し家を出て行ってしまったのです。

その後の収入は、母に任せていました。

母は、いくつもの職に就き、毎日寝る間も惜しんで働きました。

そして、ついに体を壊し倒れてしまったのです。

母の収入は、少なかったため、その日暮らしがやっとでした。

医者に見せようにも、お金が足りず見せることができなかったのです。

少年は、無理を承知で頼み込みました。

「おねがいだよ、おじさん!薬を売ってくれ!それしか、方法がないんだよ!」

何度も何度も少年は、頭を下げました。

しかし、「しつこい奴だな!売れんと言ったら売れん!さっさと帰れ」と

店を追い出されてしまったのです。

少年は、仕方なく家への道を歩き始めました。

「どうして、どうして誰も助けてくれないんだよ!」

そういうと、「可愛そうに、辛かったんだね」とどこからか声が聞こえました。

少年は、驚き辺りを見回しましたが、誰もいません。

「だ、誰だよ!隠れてないで出て来い」

そういうと、強い風が吹きその風と共に1匹の子狐が現れたのです。

「驚かせてしまったみたいだね。ごめんよ。僕は、この町に住む妖狐。

 君の話は、聞かせてもらったよ。お母さんを助けたいんだね?」

その「妖狐」と名乗った狐は、少年にそう告げました。

「そうさ、母さんが病に倒れちゃって、薬屋に行ったけど売ってもらえなかったんだ

 このままじゃ、母さんが死んじゃうよ!」

少年は、涙を流しながら訴えました。

「そうだね。このままじゃ助からない。だから、君に1つ提案したいことがあるんだ」

「提案?」

「そう、この薬を君に授ける。これは、どんな病でも治してしまう薬なんだ。

 その代わり、君には体にある物を宿してもらうよ。」

妖狐は、少年にこの薬を授ける代わりに、体にある物を宿してほしいと頼んできました。

「何?ある物って」

少年は、話が理解できず聞き返しました。

すると、妖狐は「それは、秘密だよ。大丈夫、これはきっと君の未来を変えてくれるよ」と言いました。



ここまでしか、母さんはいつも話してくれなかった。

結末を教えてくれなかった。

「母さん、最後はどうなるの?」

俺がそう聞くと母さんは決まって、「いつか、分かる日が来るわ」そういうばかりだった。

そのいつかが分からない。

母さんは、モデルの仕事が忙しく、滅多に会話をすることさえなかった。

今も仕事なんだろう。

俺は、いつもその話を聞き終わるたびに「この少年は、幸せを求めているのではないか?」と

思っていた。

実の母が病に倒れ、薬屋にも追い返される始末。

こんなに大変な思いをしながら、少年は生きているのだ。

俺もいつか、幸せになれる日が来るんだろうか?


「神様、どうか一度だけ俺に幸せをください」







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