第一章 「自分」
この世は狂っている。何をするにも中途半端なことしかやらない。
政治でもそうだ、1つの事が決まると反対・賛成の意見になり、決着はまるでつかずに
数年の時が経つ。そして、昔の事を今の事実と重ね合わせようとする。
私が望んでいるのはそんなことではない。
争いを無くしたいとかやりたいということでも無い。
ただ、いたって平凡な人生をもう数億年と続けている私が言うのだから、
この世はすでに狂っているに違いない。この狂った世界を変えることができるのだろうか?
もしかしたら、一生不可能なことでもあるかもしれない。
そんな事を考えながら、私は平凡な1日をスタートさせるのだった。
〈自分〉
よく晴れた春の空。桜も咲き乱れ、花見シーズンもやってきている。
この世界では春になると祝い事が多い。
いつの時代だったか、人間ができる前から祝い事があっていた。
昔の祝い事は、いわゆる儀式みたいなもので、人質を捧げるのが普通だった。
私も人質の1人だった。しかし、私は死ぬこともなければ年をとることもない。
ただの「人物」でしかない存在だ。
私は名前もない。誰か私に名前を付けてはくれないだろうか?
せめて、年はとってみたいものだ。
この世界で年をとるということは、「死」が近づいている。
と思うことらしい。私はそんなこと気にしてもいない。
この世界に来てしまった私は、何をしたらいいのだろう?
「誰か教えてくれ!」そんなことを思いながら、私は今日も家の中に籠もっていた。
「朝は辛い。朝日がでて、暗い夜は終わりを迎える。こんな毎日はもう何億回目だ?」
そんなことをブツブツ言いながら、早速、朝食を食べることにした。
今日の朝食は、ご飯に味噌汁、おかずに目玉焼きといたってシンプルなメニューだ。
私は、このメニューがたまらなく好きだ。
たまごはとろりとしていて、ご飯は真っ白で味噌汁は味噌の味がなんとも言えないくらい
おいしい。毎日同じメニューだとさすがに飽きてしまうので、特別な日だけこの3点セットの
朝食にしている。
いつもは、パン1枚で十分だが、今日は特別にお腹が減っていた。
今日は年に1度しかこない、私の誕生日。
何歳かは忘れてしまった。でも、私は年をとらないのだから今年も14歳の誕生日。
4月2日。その日を楽しみにしてるのは私だけかもしれない。
何年経っても、私は14歳という年齢から抜け出せないのだ。
何億年と生き続ける私は、「14歳」という年齢を聞く度に悲しくなる。
どうやったらこの体質から抜け出せるのか?
その「答え」を見つけたかった。でも、引き籠っていてはそれも不可能だろう。
昔は、よく外に出てはしゃいだものだ。
しかし、ある日を境に外に出るのが怖くなった。
それは、ある日私はいつものとうに散歩をしていた。その日はあいにくの雨で
人もあまりいなかった。
そんな時、登校中の小学生が2~3人ほど列になって歩いていた。
そんな風景を見るのも1つの楽しみだった。
しかし、その男の子達の前から不審な男が歩いてきた。
黒い服にマスクにサングラス。どう見ても怪しいその男は、ポケットから突然ナイフを手に取った。
そして、列の1番前を歩いていた男の子にナイフを向けた。
「殺される!!」私はそう思った。そう思うほかなかった。
ナイフの距離が縮まっていく。
私は、走り出した。「どうか!どうか間に合ってくれ」心の中でそう祈りながら走った。
そして、私は男の子の前に立って、すぐにその場に倒れた。
その時私は思った。「良かった、刺されたのは私のようだ」と
犯人はすぐに逃げていたが、男の子達は私をじっと見下ろしていた。
そして、私は数分と経たないうちに意識を取り戻し、目を開けた。
そこには男の子達の視線があった。
私は、体を起こすと「大丈夫?」と声をかけた。
しかし、男の子達の目はまるでお化けでも見たような目だった。
そして、私に対してこう言った。「化け物」
その言葉が私の耳に根強く残った。
「私が化け物?」
「どうして、この子達は私のことを化け物と呼ぶのだろう?」
それが、知りたくて私は、男の子に聞いた。
「どうして、私が化け物なの?」
すると、その子は「殺されたはずなのに生きてるなんておかしいよ!」
確かに、私の刺されたところは心臓だった。その瞬間を見ていた彼らにしたら、
私は「化け物」なのだろう。
今まで、言われてこなかった「化け物」という言葉。
その言葉の意味を知っていなければ、苦しむことも悲しむこともないだろう。
しかし、その言葉の意味を知っている私は苦しみ、悲しんでいかなければならない
ことをその場で知った。
私は、決めた。「これからは、外には一歩も出ない」と。
外に出れば、「化け物」と言われる。
その怖さを知ってしまった以上、外に出たくなくなってくる。
私があの時助けていなければこんなことにはならなかった。
自分があの場にいなければと私は、何度も思った。
「今更、後悔しても遅い」そう思いながら、私は今日も外には出ない。
いつも考えることは「自分」とは何かということだ。
「自分」はいったい何のために生まれ、何をしたら良いのか?
その「答え」を探さなければいけないのだが、外に出る恐怖で外に出られない。
「誰か、私が外に出るきっかけをつくってくれれば」と言葉に出した。
これを独り言と言うらしい。
そんなことを思いながら外を眺めていると、1匹の蝶がひらりひらりとこちらに
向かって飛んできた。
私の視線は蝶に向けられた。
黒色できれいな羽をもつ蝶は、なんとも美しいものだった。
一度見ただけでこれだけ美しいと思えるものに出会ってこなかった私は、
その蝶に見入ってしまった。
他の蝶を寄せ付けない。1匹で舞うように飛んでいる姿を私は、そっと見ていた。
数分、蝶を見ていて眠くなってしまい、私はその場で眠ってしまった。
そして、目を覚ました時にはあの蝶はどこかへと行ってしまったが、
1人の少女が窓の前に立っていた。
それに気がつくのに、時間がかかってしまった。
その姿を見たとたん私は、驚きの余り倒れこんでしまった。
「誰だ!!なぜ、こんなところに「人間」がいる?」
そう言うと少女は、「私はさっきの蝶ですよ。ごめんなさい驚かせてしまって、
私の名前はカーラス。あなたの名前は?」
「名前などない!!お前はなぜここにいると聞いている」
「あなたの望みを叶えに来たのですよ。外に出て「答え」とやらを探しに行きたいのでしょう?
私に協力してくれるなら、あなたを外に出すことは簡単です。」
「こいつは何を言っている?」私の頭の中はグチャグチャだった。
「望み」。それを叶えられるなら、さっきの話も悪くないがいかにも怪しい話だった。
しかし、聞き流すのも良くないのでその「協力」の意味を聞いてみた。
「何を協力すればいいのだ?」
するとカーラスは、「この世界を支配することです」と少しニヤッとして答えた。
私は、驚きを隠すことができなかった。
「支配」その言葉を聞いたとたん、私の中で何かが崩れるのを感じた。
「私もあなたと同じ、化け物なのですよ。昔から、[人を寄せ付けない]体なのです。
人が近づくと私の体がそれを拒否してしまうのです。なので、友達もできませんでした。
しかし、私は気が付いたのです。私のような「不思議な体質」を作り、それを人々に
くっ付け私の思う世界にしようと。この世界が変われば、あなたも「化け物」
と呼ばれることはないのですよ」
「化け物」と呼ばれない世界。その話を聞き終わった時、私は決意していた。
「カーラスについて行こう」そう決めた。
そして、その返事を返した。「分かった。お前について行こう!」
そう言うとカーラスはまたニヤッとして、「契約成立です」と言い、私を外に連れ出した。
これから、私の新しい毎日が始まるのだった。