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(3)親切な人々


「リツ君には不運だったかもしれないが、私にとっては大いなる幸運だったよ。『渡り人』と誼を結べる機会なんてそうそう転がっていないのが普通なんだから」


 にこにこと、人のよさそうな笑顔で言う商人に、律は苦笑を返した。



 現在、律がいるのは、ラズワルド王国とマルバム連邦共和国との国境を跨ぐ道、カルナ街道。そこで出会ったミストという商人に同道し、人里を目指して歩いている途中だった。


「『渡り人』だからといって、商人のミストさんに役立つようなものは持っていませんよ」

「何を言っているんだい、渡り人! 情報だって商品なんだ。惑いの森から無事に出てきた、それだけでも君と君が持つ情報には価値がある。なにしろあそこは入ったら誰も出てこれないので有名な魔境なんだから」


 律と屋敷が転移した森は、国境線の西側、マルバム側にある『惑いの森』と呼ばれている区域だった。少々不穏な呼称を与えられた通り、そこはいわく付きの未踏破・危険地域に指定されている。

 かつて冒険者達はこぞってこの森を制覇しようと試みたが、足を踏み入れた者は、いつまで経っても帰らない。しびれを切らして彼らを探しに行った者たちも、二度と帰ることがなかった。

 そんなことが何度も何度も繰り返され、今では、どんな手練れの冒険者も決して入ろうとしない。リスクとリターンが釣り合わない――リターンを得て帰還することが出来ない場所として、放置されて久しいのが、惑いの森だ。


 そんな危険な森の方角から抜けてきた律を見て、すわ何事か、と慌てたミストとその護衛達だったが、律が見たこともないような服を纏い、暴力になんてとんと縁がありません、人に会えたのが嬉しくてたまりません、というような、暢気で、幼くて、どう考えても遭難者……な様子だったから警戒を解いてしまった。


「でも、よかったんですか、あんなに簡単に警戒を解いて? 護衛なんでしょ」

「ん? ああ、ボウズなら簡単に勝てると思ったんでな。――どう見ても弱そうだ」


 にやっと笑って律の頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜるのは、ミストに雇われた護衛、冒険者のオイゲン。盾とハンドアックスを持つ、無精髭の似合う三十代の男だ。彼の他に雇われた三人の冒険者達が、ミストと彼の荷を守っている。


「それに、どう見ても、『渡り人』にしか見えなかった」


 渡り人。

 異世界から来る人間で、様々な知をこの世界に落とし、常に変化をもたらす台風。


「台風? さっきは大いなる幸運とか言っていたくせに……」

「商人はこれを追い風にするんだ。さてさて、リツ君のおかげでどれほど儲けられるか……楽しみだよ」

「骨までしゃぶられんよう気を付けろよ、ボウズ」

「信用が基本の商人ですよ、私は。勿論、どちらにも利がある取引にするとも」


 胸を反らすと同時に、たっぷりと肉の詰まった腹も突き出して、ミストは言う。


「しかし、馬を必要としない車か……人力とはいえ、これは、なかなか」


 二頭立ての馬車、その御者台に座るミストと、馬車に合わせて歩く護衛陣、そして、自転車に乗ってそれに併走するのが律だ。

 律に対する警戒が解かれた最大の理由がこれだった。

 この国の技術力では、ここまで精巧に同じ規格のパーツを組んだものを作ることができない。それに加え、人力で、二輪で、支えることなく走る――この国の人間が考えもしない、既存の概念から激しく逸脱したものを持っている――その時点で、その人物はこの世界の人間ではないという結論を下される。

 暴論だ、と律は思った。しかしそれで十分なのだと、ミストは言う。それで納得できる程、渡り人のもたらす知、その成果は広く知れ渡って、馴染みが深い。


「――飛行船なんてその最たるものだよ。船が空を飛ぶなんて、一体誰が考えつくものか。非常に便利だけれど、考えた人間は大変な変態に違いない。……ああ、いや、何だ。それで、リツ君。ものは相談なんだがね」


 律はミストの言わんとすることを汲み取って、言う。


「自転車でしたら、別の移動手段を確保でき次第、売りに出させていただきます」


 家にある三台の自転車の内の一台。それも、一番古くて、ママチャリと呼ばれる、律の趣味には合わないもの。売れるのであれば、売ってしまっても構わない。この場合、自転車を惜しむより、現地通貨を獲得する方が賢い選択と言えるだろう。


「馬でどうだい!?」

「――乗れません」


 律の乗馬経験は、ポニーとメリーゴーランドだけだ。



◇ ◇



「……馬、乗れるようになったら買うかもしれないけど、その場合、どういう手続きになるんでしょうか」

「私有財産登録のことを心配しているのかい?」

「いえ、その……身分というものが安定していないと、今後まずいことになるんじゃないかって思って。戸籍もないし……」


 律は商人の言葉を否定する。

 心配といえば心配だが、財産登録の前に問題になることがある。戸籍――身分証明だ。

 日本では、免許や所有者証明書を作るのに必要だったはずだと、律は少ない知識で考えた。この自転車にしても防犯登録をしてあるのだし、きっと馬を売り買いする場合にも似たような手続きが必要だろうと思う。

 身分証の提示を求められて、それが叶わなかった場合、怪しい奴だ、捕まえろ、なんて言われても、その言葉を否定するものを持たない。律にはそれが気掛かりだった。


「今から行く町にしても、大丈夫なんでしょうか」


 同じ国内の県境であれば、身分証の提示を求めることはないだろうが、ここは異世界で、目的地は国境に最も近い町だ。出入国が激しい場所で身分証の提示が求められるのは当然予想されてしかるべきことだった。

 律の懸念に、ミストは少し考え込んで答える。


「そうか。渡り人だものな……まずは身分を証明せんといかんな……まあ、その自転車があれば大丈夫だと思うよ。一度シクスウェサの街に入ったら、そこの役所で登録すればいい。渡り人は変わった知識を持っていれば優遇されるし、悪いことはないさ。届け出せば、最初の一年か二年ほどは税を免除されたはずだ」

「ああ、そうか……税金」


 未成年の律には消費税くらいしか縁のないものだったが、大人になると色々国に支払うものができて大変らしいのは、姉たちの愚痴を聞いて知っている。

 ここでは一人で生きていかねばならないのだし、親が支払いを代わってくれることもない。すべて律が賄うものなのだ。


「でも、リツって、旅してお嫁さんを見つけなきゃいけないんでしょ? 渡り人として登録するのはいいかもしんないけど、税金の免除まで受けると、きっと国から離れられないわよ?」


 そう言ったのは、護衛の内の一人、スーリヤという女性だ。青みがかった黒髪、豊満な身体、妖艶な流し目――彼女を初めて見た時、律はカルメンを連想した。きっと赤い花が似合うであろう彼女は、ファンタジーの代名詞、魔法使いというやつである。


「それに、落ちてきたのはマルバムの惑いの森だろう。ラズワルドの役所で登録しちまって大丈夫なもんかね? ミストさんも言ってただろう、惑いの森の情報がどれだけの価値を持つか、ってさ。今は戦争中じゃないにせよ、いつか戦争になるかもしんない国の、極秘情報を持った渡り人がどうなるか、わかんないぜ」


 暗に、国への拘束だけじゃ済まされない、と言うのはカイン。金茶の癖毛をしたイケメンである。スーリヤの恋人らしく、人生勝ち組を地で邁進する男だ。パーティーでの役割はアタッカー、根っからして肉食系男子だった。


「……税金を支払うのは仕方ないけど、拘束されるのは困るなあ……。でも渡り人の登録をしないと身分証を手に入れられないし」

「……冒険者はどうです?」

「ハァっ!? 正気なの、ルルー」


 ルルーという――大変わかりにくいが、女性――の言葉に目を剥くスーリヤ。

 全員の視線が発言者のルルー一人に集まって、彼女は恥じるように目を伏せた。


「か、かっこいい……!」


 律とスーリヤの口から同時に発せられた言葉に、きょとんとして瞬く瞳。何が何だかわかっていないルルーだが、褒められたことはわかったらしく、照れたように、控えめに微笑む。そんな姿もかっこいい。

 ――そう、かっこいいのだ、彼女は。胸もある、筋肉ダルマのように厳つくない、声は少々低めだが普通と言えば普通。男に間違われる要素なんて、女性にしては高めの身長くらいのものだが、カインと張り合えるくらい秀麗な顔と、その立ち振る舞いのかっこよさから、彼女に惚れる女性が後を絶たない。彼女は生まれる性別を間違えた、というのが共通認識となっている。


「冒険者って、ルルーさんたち四人みたいな人のことだよね? そもそも冒険者って何をする人なの?」


 RPGのようにクエストを受けている人、という認識で良いのだろうか。

 律の疑問に答えたのはオイゲンだ。


「ギルドから依頼を受けて食ってる人間のことを言うな、普通は。定住しないから国に税金を払わない」

「ちょっ、人聞きの悪いこと言わないでよ、オイゲン。いい、リツ? 払わないんじゃなくて、ギルドが代わりに払ってるの。あたし達はギルドを通して依頼を受ける、これが基本。その時ギルドは仲介料って言って、成功報酬からちょっとお金を抜いているのね。これと同じように税金分も少し抜いているわけ。その抜いたお金を、ギルドが所属……うーん、違うな。土地を間借りしている国に払うのよ、わかる?」


 スーリヤの問いに律は頷く。


「大家と店子の関係かな? ギルドという会社が各国に土地を借りて店を出す。その売上金に応じて上納金を支払うってこと? あくまで間借りであって、国の所属ではない」

「ああ、そう。そんなかんじよ。あたしもよくは知らないんだけどね。だから、儲けてるギルド支部のある国は、国の方も儲かってるの。西のマルバム連邦なんかはそれで有名ね。市民税に加えて莫大な税金がギルドから入ってくるから」

「なんでマルバムは儲かるの? 依頼が多いってこと?」


 この四人が受けている護衛依頼が多いのだとしたら、盗賊かなにかの危険が多いと言うことだ。それは少し怖い。


「魔物が多いからさ。迷宮って言ってな、魔物がうじゃうじゃ湧いてくる場所がいくつもあるんだ、森や平原で出くわすようなのとは比べものにならないくらい強いのがな。このおかげで大陸中から冒険者が集まって、毎日魔物を狩ったりして生計を立ててる」

「魔物とギルドの関係って?」


 律はカインに尋ねる。今の説明では迷宮が魔物の巣窟――ダンジョンであることはわかったが、それがなぜ儲けに繋がるのかまでは、説明されていない。まさかゲームのように魔物がお金を落とすわけではないだろう。


「え? ああ……当たり前のことを説明すんのは難しいな……。ルルー、パス」

「わ、私か? そうだな……。実は魔物は世界中にいる。迷宮の多いマルバムだけじゃない。よく探せば、もしかしたらこの街道近辺にも、潜んでいる可能性はある」

「えっ?」


 思わず身を固くする。魔物が潜む可能性がある場所を自分は歩いていたのだろうか。それも、このミストらと出会うまで、無警戒に、一人で?


「ビビり過ぎだ、ボウズ、安心しろ、ミストさんのついでに守ってやるから」

「う、うん。お願いします」

「おう。素直でいいこった」

「続きを話しても?」


 ルルーの確認にうなずいて、話を促す。


「まずは安心をして欲しい。私の索敵範囲に敵の反応はないから。……怖がらせてすまない」


 律はいえ、と答えつつ顔を赤くした。過剰反応だったのだろう。女の子ならまだしも、今はれっきとした男である律が怯える姿を、彼女たちはどう受け取っただろうか。あまりに軟弱だと、呆れてはいないだろうか。


「ギルドは元々、大陸中に出没する魔物の討伐機関として、ラズワルド王国で発足した。リツ殿と同じ渡り人の発案によるものだったと聞いている。今では国に関係なく組織は進出して、大陸中にその支部がある」

「と言うことは、本部はラズワルド王国にあるってことだよね? それってなんだか意外だな。迷宮が多いのってマルバム連邦なんでしょう?」

「ん……昔は、マルバム以外の国にもたくさん迷宮があった、それこそギルドという存在が、歓迎されるくらいに。ラズワルドの迷宮は、今はもう数が少ないが、あるにはあるんだ。ただ多くが枯れて、魔物が湧かないようになっただけで。――ここまでは?」

「大丈夫」


 律の応えに、ルルーはうん、と頷いて、話を続ける。


「魔物が湧く迷宮が国中にある。放っておくと人は殺され、田畑の手入れができず、食うものがなくなる。すると更に人が減る。悪循環だな。これをなんとかするために、大陸中にギルドが誕生した。ギルドに登録した狩人は、迷宮に入り、魔物を倒す。その証明として狩った魔物の部位、耳や角などを切り取り、ギルドに提出する。すると倒した魔物のレベルに応じて、ギルドから報酬が支払われる」


 沖縄のハブ獲りみたいだな、と律は思った。しかしハブに対して金を払うのは役所だったはずだ。ギルドの場合はギルドが払うのだろうか。


「はい、質問です。ギルドは国営じゃなくて、民間経営なんでしょう。その財源はどこから捻出しているんですか、先生」

「え……? いや、その、最初は国から委託されていたようなものだったから、国から報酬が出ていた。しかし、国もあまりにレベルの低い魔物にまで報酬を出していたら破綻する。だから、報賞金を出すのは特定レベルから上の魔物だけになった」


 委託……。公団から民間経営に変わった、そんなところだろうか。


「まあ、とにかく、報賞金の制限が出てから制度が変わった。ギルドも慈善事業じゃないから、儲ける必要がある。報賞金を出す上に税金を課せられては利益が吹き飛ぶ。下級の魔物の討伐報酬で赤字になる分儲けなくてはいけない。そして欲を言えば、赤字の補填だけでなく、黒字にしておきたい」

「それで、こういう護衛依頼も受注するようになったってこと?」

「そうだ。ギルドがより多く懐に金を入れる為には、魔物の討伐だけでなく、他にも手を広げる必要があった。だから、討伐のついでに素材の収集をしてこい、買い取ってやる。こうなったわけだ。それを皮切りに色んな依頼を受けられるようになったな。探索任務、輸送任務、護衛任務……今となっては職業斡旋所に近いかもしれない。特に、迷宮の少ない国では」


 では、まったく剣を握ったこともない冒険者がいてもおかしくはないわけだ。実際にいるかどうかは別として。


「上級の魔物しか報賞金は出ないって言ってたけど、下級の魔物は放置?」

「そんなワケあるか、ちゃんと倒してるよ。下級でも素材になるヤツは討伐依頼がなくてもバンバン狩られまくりだ。……だがまあ、素材になんないヤツは狩らない人間が多い。そういう時はギルドが特別に討伐依頼を出す。下級でも大量発生すりゃ、戦えない人間は簡単に死ぬからな。このときの報酬はギルド持ちなんで、ギルドは金にならない魔物でもマメに倒せ、特別討伐依頼なんて出させるな……とまあ、うるさくってたまらんね」

「……あのさあ」

「んー?」

「もしかして、特別討伐依頼の報酬目当てで、わざと下級を放置なんてことは……ないんだよね?」

「んーふふふ。どうかなあ?」


 精悍な顔をいやらしく歪めたカインに対し、律はうわあと声を上げる。


「汚い。さすが大人、汚い」

「おいおい、賢い処世術って言ってくれよ」

「あんまり悪いことを教えちゃダメよ、カイン。リツは素直なんだから。それで、ルルーはリツが冒険者になればいいって考えたみたいだけど、それは討伐依頼抜きで生計を立てればいいってことよね?」


 律が剣術どころか、喧嘩もまともにしたことがない、というのを既に彼らはわかっていた。

 こくりと頷いて、スーリヤに肯定の意を示したルルーは、話疲れたのか、それっきり黙ってしまった。それを気にせず話を継ぐのはオイゲン。ミストを除けば最年長に当たる冒険者が、ルルーの提案の問題点を指摘する。


「雑用依頼か……迷宮の多い町には雑用依頼が余ってることは多いが……旅をしながらじゃあ、それでは食っていけんだろう。やっぱり、少しは戦えるようにしておいた方がいい。ボウズ、なんかないのか、異世界のトンデモ技術みないなのは。ほら、その自転車みたいな」


 律は少し考える。

 トンデモ技術の塊と言えば、あの剣だ。

 異世界へ渡る呪いの証拠として、伯父から提示されたSF粋を集めたピカピカ光ってよく切れる剣。

 危ないからなるべく人には向けるな、できれば開墾用にでもしろ。そういう注意と共にもらった一振りだったが、相手が魔物であば使用しても構わないだろう。

 いや、構うのかもしれないが、なるべく人には向けるな、という注意の仕方から、それが律が生き延びるための最善であれば、たとえ人に使用したことが知れても、何も言われないだろう。


 だから律は自信をもって、ドヤ顔で言った。


「鉄も切れる光の剣とかならあるよ!」



◇ ◇



 律の言葉がもたらした効果は抜群だった。



「は? 光の剣? 鉄も切れる? 反則だろう! 切り結べないじゃないか!!」

「魔法剣じゃないの、ソレ!? アーティファクトよ!?」

「なんでもいい! でも、それだ! それしかない!! ボウズ、それで戦え、男を見せるんだ」

「リツ君、売ってくれ。代わりの剣を何十本でも用意するから――何百本の方がいいかね?」

「……リツ殿に使えるのだろうか?」


 冷静なのはルルー一人だけだった。興奮気味の四人は放っておいて、律は思う所を口にする。


「惑いの森を出るときも、迷わないようにこの剣で木を切り倒して進んだし、威力は結構ある。だからまあ、剣術を知らなくても、最悪最大出力で振り回せば……いろんなものの輪切りができると思うんだ」

「……味方がいない時にだけ、お願いしたい」

「わかってるよ、さすがに。問題はエネルギーだよ、何で動いてるのか知らないんだ」


 それを聞いて、スーリヤが律に齧り付くように詰め寄る。勢いに押されて、律は自転車に乗ったまま、倒れそうになるのを、ぎりぎりでこらえた。


「リツ、魔法使いのお姉さんに見せてごらんなさいな! 完膚なきまでに解明しつくしてあげるから!!」

「えっとぉ……」


 目の前にいる怪しい目をしたマニアっぽい女性に、なんだか嫌な予感を覚えた律は、視線だけで問う。

 ――ルルーさん、ぼくはどうすれば?

 ――絶対に、やめておいた方がいい。

 真剣な表情で首を横に振るルルーに勇気をもらい、律はなるべく当たり障りないようにお断りの文句を口に乗せる。


「ファンタジィの分野じゃなくて、サイエンス・フィクションの分野だから……お気持ちだけいただいておきます、ね?」

「くっ! ええい! カインがいなければあたしを一晩好きにしてと言えたのに!!」

「カインさん、ありがとう! 本当にありがとう」

「リツ、真剣に二度も礼を言うな。これだけイイ女とヤれねーのに、感謝……変なヤツだな」

「そういうのはまだ、ぼくにはハードルが高いんだ」

「いやーん! カ・ワ・イ・イ!」


 照れながらも意見をはっきりと言う律に、スーリヤは語尾にハートがつきそうな勢いで言って、抱きしめた。豊満な胸に顔が埋まる形になってしまい、律は焦る。


「ちょ! やめてくださいぃ! カインさんも止めてよ! 恋人が乱心してるよ!!」

「ま、いつものことだよ。じゃれてるだけさ。――遅れないようにほどほどにしろよ、スーリヤ」

「ほらほら、気持ちいいでしょう? んー?」

「慎みを持ってよ!」


 顔を赤くしてスーリヤを振り払おうとする律だが、自転車に跨がった状態では、上手く振り払えない。

 へっぴり腰で情けない声を上げる律と、それを弄ぶスーリヤを見て、年長者たちは恐ろしげに言う。


「……悪魔め。美人なところがタチわりぃぜ」

「ええ、純情な少年をたぶらかす、美しい魔性ですね……私ももっと若ければ」

「……一応護衛の最中なのだが、気を抜きすぎではなかろうか」


 やはり、冷静かつ真面目なのは、ルルーだけのようである。

読んでくださってありがとうございました。

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