兵錬武
話の方向性はSF寄りのミリタリー・ローファンタジーです。
結構説明が多いので、受けつけない方はスルーの方向で。
「変身!」
その言葉をきっかけにして、男に変貌が始まった。
男の掲げていた長剣から赤光が迸って網膜照合、男の全身が白い光に包まれる。
一瞬で光が収まり、再び姿を見せた男は、人にあらざる異形と化していた。硬質の表皮は金属質の光沢を放ち、両肩と両脚は丸太のように肥大化して大容量の蓄電器が構築されている。両腕から伸びるのは剣のような二本の突起、電極。電極の間に起こった放電によって産毛が逆立ち、痺れるような刺激とむず痒さを覚える。
男が手にしていた長剣は《兵錬武》。人間を鋼の肉体へと作りかえ、異形の超人へと変化させる兵器の総称であり、また変身した状態をしめす呼称でもある。
電撃の兵錬武となった男の胴を、巨大な刃が横断した。
男の上半身が舞い上がり、地面に落下して、金属特有の重い音を響かせる。遅れて下半身が倒れ、断面から溢れ出した銀色の血液が血溜りとなって広がっていった。
男を屠ったのは異様な形状の兵錬武だ。人間の背丈をゆうに超える長柄に巨大な大斧の刃を持ち、大斧の裏側では薙刀の刃が鋭い輝きを発する。長柄のもう一端では大鎌の刃が真横に長い弧を描き、大鎌の裏側には鉄鎚、長柄の端からは螺旋となった槍の穂先が突き出していた。
異形の兵錬武の使い手は、死者すら睨め殺さんばかりに凶悪な眼光で男の死体を見下ろしていた。口に銜えた煙草からは、紫煙が弔いのように立ち上っている。
兵錬武の歴史は、たったの十一人から始まった。
彼ら《始まりの十一人》と呼ばれる集団は、兵錬武という未知の兵器を用いて、突如として世界に戦いを挑んできた。
ある者は一国の全てを死滅させ、
ある者は無尽蔵の軍団で全てを喰らい、
ある者は天にも届かん巨体で全てを踏み潰し、
ある者は流星の速度で全てを蹴散らした。
兵錬武の性能は、電磁銃や爆薬、戦車に戦艦、さらには毒ガスや細菌兵器に核兵器といった、当時最先端の兵器を遥かに凌駕していたのだ。
こうして十一人対全世界という、馬鹿げた構図の戦いが繰り広げられることとなった。
これが人類史上最大の世界大戦、通称《十一人戦争》の顛末である。
兵錬武が世界中に出回り始めたのは、《十一人戦争》が終結した直後からだった。
軍にも警察にも抑止力はなく、また兵錬武という全く新しい兵器の所持を規制する法律すら制定されておらず、兵錬武は瞬く間に世界中に普及していった。
世界は千人に一人が戦争を起こせる兵器を所有する、未曾有の時代に突入したのだ。
兵錬武が世界に姿を現してから、すでに十年の月日が経過していた。