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占い

作者: もくず

 「そこのお嬢さん」

 学校からの帰り道、夕飯の食材を買う主婦で賑わう商店街を歩いているとき、私は声をかけられた。

 でも、なんで私のことだと思ったのだろう。周りには同じ学校の子もいるのに。

 不思議に思いながらも私は声のした方へ歩いて行った。

 店と店の間の路次、声の主はその路地の入口に座っていた。

 テーブルに紫色のクロス、机の上には大きな水晶玉。一見すると占い師のようだ。

 「はい、なんですか」フードを深くかぶった占い師に返事をする。

 「お嬢さん、今、何か悩んでいませんか?」

 顔は見えないが声と机の上に出ている手からこの占い師はまだ若い女性のようだ。若いと言っても20代後半くらいだろうか。

 「悩み、ですか?」

 こんなことに付き合う義理も理由もないけれど、私は自然と占い師の言葉に対し真剣に考えていた。

 「ええ、お嬢さんから悩みを抱えているオーラが出ていましたので」

 「そんなのが見えるんですか?」

 テレビでオーラを見て占うというのをやっていたが、その類だろうか。

 「今日の夜何のテレビを見ようか迷ってるくらいですかね」

 私は思い浮かんだことを言ってみた。正直、悩みという悩みが思いつかないのだ。

 「それなら、4チャンネルの番組がいいと思うわ」

 占い師は考え込んだりせず、すぐにそう返してきた。

 「そう、ですか」

 「他には?」

 「・・・特に思い付かないんですけど?」

 さっきのテレビのことだって無理やりひねり出したんだ。考えても出てこないものは出てこない。

 「本当に?」占い師は問いかける。

 「はい、本当に」

 「例えば、恋愛のこととかは?」

 「恋愛ですか?」

 「お嬢さんには恋人がいるでしょう?」

 「どうしてそれを!?」

 これまでの会話でそんなこと喋っただろうか。それとも、このひとの前を二人で歩いていたことがあったのだろうか。

 「その恋人のことで何か悩みがあるんじゃない?」

 「彼氏のことで悩み・・・?」

 「ええ。最近彼のことで何か気になることがあるんじゃない?」

 付き合い始めてまだ2カ月。デートには毎週行くし、学校でも毎日会う。メールは毎日必ず送り合っている。何の不満もない。

 「いえ、別に」

 少し気になると言えば、彼が贔屓目に見てもカッコいいこと。他の女子からも人気があって私と付き合い始めてからも告白されたりしているらしい。すべて断っているそうだが。

 彼が私のことだけを愛してくれているのは明らかだから、気にしてもしょうがない。

 私がそう答えると占い師は別に落胆した様子もなくこう言った。

 「ならいいのよ。ただ、彼の動向には気をつけてね。何かあったら相談しに来て頂戴。しばらくはこの商店街にいるから」

 「はあ、わかりました」

 彼の動向に気をつけろ?どう言うことだろう。

 占い師のその言葉が頭から離れないまま、私は家に帰った。


 あれから1週間たった。私はあの占い師を探して商店街を歩いている。

 いた。前回見た時と同じ場所に、同じ格好であの占い師は座っていた。

 「あら、この間のお嬢さん」私がそばに寄っていくと占い師が私に気付いた。向かいの椅子に座る。

 「この前言われたとおりに彼のことを注意して見てたんだけど、なんかあやしくて」

 この1週間、彼の様子が少しおかしいのだ。私が声をかけてもどこか上の空。メールの返信は少し遅くなった。

 私がそのことを言うと、占い師は「なるほど」と少し考え始めた。

 「お嬢さんはどうしたいの?」

 唐突に占い師はそう聞いてきた。

 「どうって、別に。今までみたいに仲良くできればそれでいいわ」

 「そう、だったらプレゼントなんてどうかしら?」

 「プレゼント?」

 「ええ、多分だけど彼はお嬢さんとの関係に少し飽きてきてるんじゃないかしら?」

 「え!?」

 「飽きてるって言っても別れたいと思ってるとかそういうのじゃなくて、付き合い始めのカップルにはよくあることなのよ。最初の頃の新鮮さがなくなってしまって、なんとなく距離が開いたような気分になるの」

 「そういうものなんですか」

 「ええ、だからプレゼントをして彼に喜んでもらえばまた今までみたいな関係になれるわよ」

 「プレゼントかあ」

 そういえば彼に贈り物なんてした事がなかった。彼からももらった覚えがない。

 「でも、どんなものを渡せばいいのかわかりません」

 野球が好きだから野球グッズを渡せばいいのかもしれないけれど、興味がなくてよくわからない。

 「どんなものでもいいと思うわよ。お嬢さんがあげるということに意味があるのよ」

 「わかりました!今度彼にプレゼントしてみます」

 「頑張ってね」

 「はい!」

 何をあげよう、クッキーを焼こうかな。そんなことを考えながら私は帰宅した。


 「占い師さん!」

 この前来た時から3日後、私はまたあの占い師のところへ来ていた。

 「あらお嬢さん。今日は機嫌がよさそうね」

 「はい!彼にクッキーをあげたらとても喜んでくれました!」

 アドバイスをもらってからクッキーを作る練習をして、今日渡したのだ。かわいくラッピングしてわたした。彼はとても嬉しそうにしていた。

 「それはよかったわね」

 「占い師さんのおかげです。ありがとうございました」私はお辞儀をする。

 「実は占い師さんにもクッキーを作ったんです。よかったら食べてください」

 そう言って私は小さな包みを渡した。

 「あら、ありがとう。あとでいただくわね」

 「実は今日も相談があるんです」

 ひざに置いた手に少し力が入っているのが分かる。

 「プレゼントを渡して仲良くなれたのにまだ心配事が?」

 「心配事というか、彼ともっともっと仲良くなれる方法を教えてほしいんです」

 「そうねぇ・・・、こうなったらあれしかないわね」

 少し考えた後、占い師はそう切り出した。

 「『あれ』ってなんですか?」

 「難しいことじゃないわよ。お嬢さん、彼とデートしてみたらどうかしら?」

 「デートですか?ほぼ毎週やってるんですけど」

 休みの日に一緒に出かけたり、学校からの帰りに買い物したりしている。

 「それは知ってるわ。お買い物に行ったりしているんでしょう?」

 「どうしてそれを?私言いましたっけ?」

 「私は占い師よ。それくらいわかるわ」少し誇らしげな様子だ。

 「じゃあ、どういうデートならいいんですか?」

 「いつもと少し違ったことをしてみればいいのよ。映画に行ったり、海に行ったり。プレゼントの時みたいに新鮮さを与えればいいの」

 「なるほど」

 そういえば、彼はどんな映画が好きなんだろう?そう言う話もした事がないことに気付いた。

 「彼に今までと違う一面をみせればいいのよ」

 「わかりました。今度のお休みにデートに誘ってみます」

 彼とどこに行こう。今から楽しみだ。


 「お嬢さん?」

 「・・・ああ、占い師さん。こんにちは」

 「顔色悪いわよ?どうしたの?あれから2週間姿を見ないからどうしたのかと思っていたわ」

 占い師の前の椅子に力なく座る。

 「デートはどうなったの?」心配そうに聞いてくる。

 「あの後彼に電話してデートの約束をしたんです」

 隣町のショッピングセンターに行って、ご飯を食べた後、映画を見ることになった。次の日曜駅前に集合という約束をした。

 前日はドキドキしてあまり眠れなかった。そんな顔をお化粧で隠して待ち合わせの15分前には着いた。

 駅前は同じようなカップルや家族連れで賑わっていた。彼の姿はまだなかった。

 約束の時間を30分過ぎても彼は来なかった。電話をしても出ない。電源が入っていないようだった。

 結局3時間待ったけれど彼は来ず、私は目に涙を浮かべながら帰宅した。

 「そうだったの・・・。で、それから彼とは?」

 「次の日に彼にあったら『友達と遊ぶ約束してたの忘れてたんだ。ごめん』って言ってました。その日は一緒に帰ったんです。一緒にクレープを食べたり、楽しかったんです」

 「うん」

 「でも、その日の夜から電話にも出なくなって、メールを送っても返事が来なくなりました」

 「え?」

 「学校で会っても無視されるようになって・・・私、どうしたらいいか分からなくなってしまって」

 それから1週間がたった。相変わらず電話もメールも返ってこない。学校で彼の姿を見るのも嫌になってしまった。遠くに姿を見つけたら避けて通っている自分がいた。

 「そんなことになっていたの」

 「占い師さん。私、どうしたらいいんですか?もう辛いんです」

 話しているうちにまた涙が出そうになった。

 「お嬢さんは」占い師が話出す。

 「はい」

 「お嬢さんは、彼とまた仲良くなりたいと思っている?」

 「・・・いいえ。もう、なんで彼のことが好きだったのかもわからなくて」

 「姿を見るのもイヤ?」

 「はい。もう見たくないです」

 「だったら」

 気のせいだろうか、占い師は少し笑ったように見えた。

 「彼にはいなくなってもらいましょうよ」


 

 「今日は騒がしいわね」

 テーブルにクロスを敷き、上に水晶玉を置く。

 先ほどからサイレンの音が止まないのだ。姿は見えないが、パトカーと救急車が通っているようだ。

 何か事件かしら。少し気になるものの椅子に座り、仕事を始める。


 「こんにちは」

 声をかけられた。近所の学校の学生さんだ。

 「あら、いらっしゃい。サイレンの音がしてたけどなにかあったの?」

 お客さんは目の前の椅子に腰かける。

 「わたしの隣のクラスで殺人事件があったんですよ」まるで世間話のような口調で話し始める。

 「まあ、物騒ですね。犯人は捕まっているの?」

 「ええ。恋人を殺すなんで、一体どういう神経しているのやら」

 「痴情のもつれってやつなのかしらねえ?」

 「さあ?」

 目の前の少女の口には笑みが浮かんでいた。


 「それにしても」少女は口を開く。

 「本当に上手くいくものなんですね。本当に相談した通りになるとは思っていなかったわ」

 「『好きな人がいるんだけど、その人には恋人がいるの。わたしのことを好きになってくれないのならこの世からいなくなって欲しい。その女の顔も見たくない』いきなりこんな話をされたのは初めてですよ」

 少女は楽しそうに笑う。

 「お互いを不仲にして殺させる。片方は死んで、片方は逮捕される。それで二人ともいなくなる。とても占い師の考えることではないわね」

 そう言うと少女は去って行った。

 この街での仕事はもうなさそうだ。私もさっさと店じまいをしてしまおう。

ジャンルを恋愛にしていいのか少し悩みましたが。

楽しんでいただけたら幸いです。

感想、お待ちしております。

読んでいただき、ありがとうございました。

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