S.12 野宿
S.12 野宿
今、俺の目の前では、枯木が赤々と燃えていた。隣ではケイトが横になっている。彼女はここは現実世界とは違うドリームランドだという。はたして本当だろうか? 今までヒロシと旅をしてきてちょっと変わった村とかなら行ったことはあった。けれども現実世界ではないなんて話、まともに信じろって言うのがそもそも無理な話だ。だから、俺はさっきから、現実世界とこの「ドリームランド」との違いを探そうとあたりに目を配った。しかしその違いをはっきりと見つけることはできなかった。ただ、空の色がなんとなくぼんやりとしているような気がした。ぼんやりと明るい。けれど曇っているようではない。しかし陽を見ることもできなかった。そして周囲がだんだんと薄紫色に包まれて暗くなっていった。そして空を見上げると、無数の星が見えた。それでなんとなく安心した。もしここが現実世界じゃないとしてもかなり現実に近い世界なんじゃないかって思えてきたからだ。それに、まわりにある植物も安心感を与えてくれた。
「ここが砂漠じゃなくて、よかった」
俺は独り言を言った。
「それにしてもヒロシは今ごろどうしてるんだろな…」
けれども、俺にはここにきてからずっとヒロシの気配を感じている。だからヒロシはきっとここからそう離れていない場所にいるような気がしている。なぜだかわからないけれど…。
そんなことを考えているうちに、俺は少し眠ってしまったようだった。しまった! 枯枝をたさないとと。しかし、不思議なことに、先ほどから焚火の変化はなかった。
「一体どういうことなんだ?」
俺にはその理由はわからなかった。それと、今になってあらためて気付いたことだが、焚火は、火のそばとこの場所とで温かさがほとんど変わらなく感じる。これも不思議なことだった。普通なら近ければ近いほど熱く感じるはずなのに…。
「やっぱり現実世界とここでは違うようだな」
すると、焚火の向こう側で、
「フフフッ」と笑い声がした気がした。
「誰だ。そこにいるのは?」
「フフフッ」
それはまた笑った。ケイトは俺の隣にいる。一体誰なんだ?
「アレッ? もう私のこと忘れちゃったの、カズは」
まさか…でも俺をカズなんて呼ぶのは…。
「ひょっとして、ナルア、キミかい?」
俺は半信半疑で尋ねた。
「そうよ。覚えててくれたのね。お久しぶり、カズ。あんたもやろうと思えばちゃんと火を点けられたじゃないの」
そういうとナルアが静かにこっちへやってきた。
「ああ、なんとかね。っていうか、ナルア、たしかお前交通事故で亡くなったって…」
「…ええ。そうよ、カズのいうとおりよ」
なにー?? ってことは…ここは一体…。はっきりいって俺の考えの限界を超えてる。いったいどういう世界なんだ、ここは。
「カズ、あんた人の話ちゃんときいてる?」
「あ、ああ。きいてるさ、ちゃんとね」
「カズ、どうしたの。顔が青ざめてるよ。まるで死人みたいよ。アハハ」
「死人だって!? ナルアこそトラックにはねられて死んだんじゃ…」
「まあ!? なんてぶしつけなものいいなの。もうちょっと亡くなった人をいたわるような言葉かけられないの!」
「ごめんよ。そんなによくしゃべる死人となんて今まで出会ったことがないもんでね」
「まぁ、ちょっと見ない間に生意気な口きくようになったわね。死人が話して何が悪いっていうのよ!」
「あのなぁ…、昔から死人に口なしっていうだろ」
「そういえばそうね…。あたし話してるわ! じゃ、死んでないのかしら?」
「ストップ。俺に聞くなよ。頭が変になる。けど…」
「けど、なに?」
「また会えてうれしいよ、ナルア」
「…本当に?」
「ああ」
「そう。それなら、よかった…」
「でもなんでお前こんなところにいるんだ?」
「さあ、あたしにもわからないんだ。気付いたら、この世界にいたんだもん」
「そうなんだ」
「うん…ところで、カズこそなんでこんなところにいるのよ?」
俺はどういう理由でここに来たかをナルアに話した。
「昔っからカズって女には弱いからな~。だったら、今がチャンスなんじゃないの。逃げるには?」
「確かにな…。でもやっぱりそれはできない。」
「どうして? このままあの女と一緒に行動していたら記憶を消されちゃうんでしょ? それでいいの、カズは? この世界のことなどみんな忘れちゃうのよ。あたしとここでこうして会ったこともよ。それでもいいっていうの?」
「それは……仕方ないじゃないか。今ここで、彼女を一人で残したら、きっとあの化け物に襲われてしまう。だから彼女を見捨ててここを去るわけにはいかない」
「カズ…、あんた私の知らないうちに…」
「知らないうちに、なんだよ」
「あっ!? もしかして、その女に惚れたんじゃないの」
「な、何いきなり…何いってんだよ、俺は捕虜も同然なんだぞ!」
「捕虜だって人を愛せるわよ。どうなの? やっぱ惚れたの?」
そのとき、気のせいかもしれないが、ケイトが動いたように感じた。
「アハハハハ、そうなんだ~、惚れたんだ。やっぱり」
「こっのヤロー、そんなに人をからかって面白いか」
「うん。おもしろい! とくにカズをからかうのは最高。死んじゃってからさ、今までで…一番楽しいわ…」
「…それよりもナルア。ここは本当にドリームランドってところなのか?」
「え!? そうね、そうみたい。」
「ここには、ナルアみたく、その…つまり亡くなった人もたくさんいるのかい?」
「さぁ、それは、よくはわからないな」
「じゃあ、この世界のことで何か知ってること教えてくれないか?」
「あたしが知ってることなんて大したことじゃないけど、いいわ。教えてあげるわ」
それから、ナルアは俺にこの世界について知っていることをいろいろと教えてくれた。
9話目につづく…