S.20 夜のペント・ハウス その1~S.21 サンタ・クルーズでの再会
S.20 夜のペント・ハウス その1
「リフター」…現在の地球の文明レベルではなぜこれが、重力に逆らって宙に浮くのか、解明がされていない。しかし、アルミニウムを張りめぐらした物体に高電圧を流すと、フワッと宙に浮く。しかし、今の地球の技術では、あまりにも高い電圧がそれにかかるのでそこに生き物を乗せることができない。しかし、その点さえ解決できれば、未来には有望な移動手段になるだろう。
今クルミとリョウは断崖絶壁の崖の下からその約70フィート真上にある邸宅まで広さ2フィート四方の正方形をした黒い板状のものに乗り、音が全くしないまま、垂直に上がっていった。
「これすごいね、みるみる上がっていくよ。おいらもこれ1つ欲しいな」
「高いわよ」
「そうなの? いくらぐらい?」
「そうね、アメリカドルにすると、かるく1ミリオンは超えるわね」
「い、1億ドル!?」
「でも、残念ながら非売品よ。それに絶対にこれを地球上で売ったりなんかしちゃいけないきまりなの」
「そうなんだ…でもなぜクルミちゃんそんなもの持ってるの?」
「……」
「これもまた秘密なんだね…」
「ごめんね…。いつか、リョウちゃんには全てを話すわ。私が何者で、どこからきたのかを。でも今はまだ話すことはできないの」
「わかったよ。クルミちゃんが話すまでおいら待ってる」
「ありがと。そろそろ着くわよ」
「え!? もう着いちゃうのか…」
「思ったとおりね。監視用のレーザーが張られていないわ。このベランダに降りましょう。気をつけて降りるのよ、リョウちゃん」
「そいつはやめといたほうがいいぜ、お二人さん」突然そのベランダの隣の木の枝から男の声がした。
「誰?」
「俺かい? そうだな、ゴードンって呼ばれてるよ。はじめまして。ひょっとして門限守れなかったのかい? それとも家を出るときに鍵を部屋の中に忘れたのかい?」
「アナタね…、笑えないわよ、そんな冗談」
「わるいね、俺は冗談が昔から苦手なんだよ。どうも俺の口は冗談を言うよりも女とキスするほうがうまいようなんだ」
「そう、ぜんぜんそうは見えないけどね」クルミはリョウをそのゴードンと名乗る男のいる木の枝に移らせようとした。するとゴードンが手を差し伸べた。
「そうかい? なんなら試してみるかい?」
「謹んでお断りするわ。それよりも、アナタ一体何ものなの?」クルミはゴードンの手を借りないで、自ら木の枝に静かに飛び移った。
「その質問は、そのままお返しするよ。ただの泥棒じゃなさそうだな、そんなハイテクな乗り物を扱うところをみると…どこかのスパイかい? アンタいい女だし…。まさかCIAじゃあるまい?」
「わたしがスパイですって!? やめてよ。でもアナタはついてるわね」
「なぜだい?」
「それはわたしがスパイでないからよ」
「でもキミがスパイでない証拠はなにもないんだよ」
「いいえ、あるわよ」
「どこにだい?」
「アナタ自身が証拠よ」
「それはどういうことだい?」
「それはアナタが今もこうやって生きて話しているからよ。わかった?」
「え!? 生きて…」
「そうよ。この意味わかるでしょ?」
「やれやれ、ほんと西海岸には強気な女がいっぱいいるな…」
「それはどうも。西海岸の女を代表してお礼をいうわ」
「どういたしまして」
「それよりも、このベランダになにがあるって言うの?」
「それはな…、床にゴキブリハウスのしかけがあるからさ」
「ゴキブリハウス!?」リョウとクルミがはもってこたえた。
「ああ、暗くて見えないだろ。だからひっかかりやすいんだ」
「でもなんでアナタはわかったの?」
「俺の足をよく見ろ!」
「あれ!? 裸足だね」リョウがつぶやいた。
「それはな…俺のお気に入りのイタリア製の革靴が犠牲になってくれたからだよ!」
「靴?」赤外線スコープつきのサングラスでもう一度よくみると確かにそこには1組の革靴が床にひっついていた。
「アッハハハハ…。たしかに強力そうね、その床の接着剤は…」
「ちきしょう、あのケインの奴、絶対に証拠を掴んで捕まえて、俺の靴代も請求してやる! 覚えてやがれってんだ」
S.21 サンタ・クルーズでの再会
ルート1をクルミは愛車のシルバーカラーのTRIUMPHで南に走っていた。クルミはこのバイクのアクセルを噴かしたときの音が気に入っていた。
「…しいねぇ。」と後部シートに乗った男の子が何か言ってきた。
「何?」とクルミがたずねた。
「あのね、クルミちゃんとバイクに一緒に乗れるなんてうれしいなって言ったんだよ。」
「わたしの名前に何か形容詞をつけたでしょ。それがなんて言ったかってきいたのよ、リョウ。」
「えっ…ううん、なんにもいってないよ。」
「きょ…なんとかって聞こえたわよ。」
「あ、いや、き、き、きれいな、クルミちゃんとって、そういったんだよ。」
「そう。」
「うん。そうだよ。」
「ふーん。」
それから、二人の会話は一時止まった。クルミはサンタクルーズでのことをもう一度思い出していた。
サンタ・クルーズに到着したあと、クルミはミステリー・スポットと書かれた看板の矢印のほうへ向かった。その途中の目立たない林道にそれ、道路から見えないところで、エンジンをきった。
「ここね」
「来たわよ」とクルミは誰もいないその林道で声を出した。
「…なるほど、そっちがその気なら、いいわ」というと、クルミは目をつぶって精神統一をした。すると彼女の後ろの茂みから何かがクルミの後頭部めがけて投げられた。それが当たる直前にクルミの姿がその場から消えた。そして次の瞬間には、先ほど彼女がいたところから左に2mのところにいた。しかもその茂みに面して片膝をついて、右の手には銃を構えていた。そして発砲した。消音銃のためほとんどまわりには響かなかった。
「出てこないと次は本当に当てますよ」と静かな声でクルミは言った。
「わかったわ」すると、茂みから一人の女性が出てきた。
「久しぶりね、クルミ」
「まぁ、誰かと思ったら、ミリアじゃないの。お元気?」
「ええ、元気よ。さすが、クルミね。腕は落ちてないわね」
「もちろんよ。で、あなたが直接ここに来たってことは、今度の依頼はけっこう大変そうみたいね…」
15話目につづく…
この後も話は続いていきますが、現在は創作中ですのでしばしお待ちください。
-KAKU