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はるかな旅へ -Dreamland-  作者: KAKU
はるかな旅へ -Dreamland-
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S.18 それぞれの夜

   S.18 それぞれの夜


 この世界の始まり――全ての始まりは「ビッグバン」というのが今日の物理天文学では主流のようだ。しかし、なぜ「ビッグバン」が起こったのかは、誰にもまだわからない。しかし、それを起こしたのは「大いなるもの」の意志だというものがいる。その考えを唱えるものの話では、ビッグバン以前の「闇」そのものに意志があり、それが「ビッグバン」を起こしたと言うのだ。つまり、この世界の創造主だ。そのものはさらにこの世界に「霧」と「闇」と「混沌」を創り、それぞれに自分に従えるものを創ったという。その「混沌」の中から誕生したものが、この「夢の国」を創り、「大いなるもの」を守っている。そして、その「混沌」の中から生まれしものは、人間にしばしば干渉し、自ら破滅に向かうように従者を使って、影で操っているという――


 「まとめると、こういうことだね、ヒロシ君」白髪の混じったあごひげを右手でそぎながら、ベルナーはヒロシに言った。今、ヒロシたちはベルナーの研究室を兼ねた館の2階のリビングルームで、つまり、昨夜の夕食をとった、丸いテーブルを囲んで朝食を取っていた。

「……」

「ヒロシ?」とシルビアが彼を見ていった。

「ベルナーさんの話ちゃんと聞いてる?」

「あ、ああ…聞いてるよ」

「一体全体どうしちゃったっていうの? なんかヒロシらしくないわよ。夕べ何かあったの? 変な夢でも見たとか…っていってもすでにここ自体変な夢の中か」

「…シルビア、ここはただの『夢の世界』じゃないんだよ」とヒロシが言った。

「ええ、そのようね。でも、この『夢の世界』を創ったっていうのはやっぱり『神様』に違いはないんでしょ?」

「その質問には、私が説明するよ。ヒロシ君、出発までまだ少し時間があるから、向こうのソファで少し休むといい」

「ベルナーさんのお言葉に甘えてそうさせてもらいます」

「では、シルビアいいかな、これまでの研究過程で得た知識を整理して順を追って話すとしよう」

「あのぅ…最初のほうはこれまでにも何度か聞いているから、ちょっとはしょって説明してくれません?」

「お、そうだったかな?…了解。では、我々が知っている神との違いから説明するとしよう…」

 ヒロシはテーブルを後にし、ソファに身を投げ出した。すると、間もなく意識が遠のいていった…。


 その9時間前――。


「ね、簡単でしょ。ハセもやってみて」とナルアが俺にやらせようとしているのはつまり、火のおこし方だった。しかし、今度のやり方はちょっと変わっていた。つまり、燃やすものが全く無い状態で火をつけるんだ。しかしそんなこと物理的にも不可能なはず。なのにナルアときたらいとも簡単に手のひらに小さな火をつけることができた。しかもその火に手をかざしてもさっきの焚き火同様熱くなく、ほのかに温かいだけだった…。全く俺にはわけがわからない。一体この世界はどうなってるんだ!?


 さらにその4時間前――。


 クルミとリョウは17マイルズ・ドライブ内のある館を双眼鏡を使って遠くから覗いていた。

「クルミちゃんみたいにナイスバディなお姉さんたちが水着姿でいっぱいいるねぇ。」

「ちょっと、リョウちゃん! 今アンタ何ていったの?」

「え!? ナイスバディって…だってヒロシの兄ィがそうクルミちゃんのこと言ってたから…」

「もうヒロシったら! あのムッツリすけべが…」

「でも、なんでこんな時期に皆、水着姿なんだろ? 寒くないのかな?」

「そうね…、いくらペント・ハウスだからって今の季節にはちょっとおかしいわね」

「ねぇ、クルミちゃん。そのペントハウスって何?」

「そうねぇ…男にとっての<天国>みたいなところよ」

「ふうん。じゃあ、女にとっては?」

「バカ騒ぎしてラリっててもまともにみられるとこよ。しょうがないわね、暗くなるまで待ちましょ。」

「なんで?」

「バレないように潜入するためよ」

「じゃあさ、ホテルで先に夕飯食べようよ。おいら小腹すいてきちゃったよ」

「そうね、簡単なサパーでいいならそうしましょ。でも、またここに来るんだから、あんまり食べ過ぎないでね。」

「どうして?」

「リョウちゃん、あんたいつもたっくさん食べるとすぐ眠くなっちゃうでしょ?」

「チェッ、せっかくフランス料理をたらふく食べられると思ったのに…」

「それは残念でした。今からだとイタリア料理しか食べられないわよ」

「そうなの? イタリア料理でもおいらいいよ。で、どういった料理?」

「はい、本日のメイン料理はピッツアでございます」

「え!? ピッツア…」

「そうよ、れっきとしたイタリア料理でしょ」

「昨日のランチもピッツアだったでしょ!」

「あれは、アメリカン・ピッツア。今夜はイタリアン・ピッツアよ」


 一方ヒロシたちは――

 「ハ、ハックション!」

「お大事に、ヒロシ。夜風で風邪でもひいた?」

とコロがたずねた。

「イヤ、大丈夫。うわさでもされたかな?」

「ね、ヒロシ。あれ、シルビアじゃない? 館の外にいるの、そうだよね」

「ああ、そうだな。なんか変な歩き方だな…」

「ついていってみる?」

「ああ、そうしよう」

 シルビアはまるで何かに誘われているかのように、ゆっくりと門に向かって歩いていた。その100メートル後方をヒロシとコロがそっとついていく。


 再びハセたちは――

 俺のほうはというとナルアに火のつけ方を必死に教わっているところだった。

「いい、イメージを強く持つのよ。それも清い心で思い描くの。火は聖なるもの。我々になくてはならない尊いもの。そう念じて、手の平を上にかざして。邪念を払って、そして火に集中して。火は大事なものって念じて。強くよ」

すると、手のひらの上にぼんやりと光が見えてきた。

「そうよ、ハセ。いいわ、その調子」ナルアの指導の下ようやく、俺は火を出すことに成功した。



 再びベルナーの研究室。

 「本当にこれがイメージなの?」シルビアがコーヒーカップを手に、ベルナーにたずねた。

「ああ、そうだよ。イメージの具現化が瞬時にこの世界では起きるんだよ」

「もっとわかりやすく言って」

「そうだねぇ、シルビアは現実世界ではシンガーだったね」

「ええ、ローカル・エリアのだけれど…」

「自分の唄を何かに録音してるかい?」

「ええ、CDにしてるわ。1枚15ドルでお店で売ってるの」

「CDは、厚さ約1.2mmのポリカーボネイトの円盤状の中にある厚さ80nmのアルミニウム蒸着膜の円盤にデジタル情報を記録しているものなんだ。そこには非常に細かいくぼみが彫られていて、そのパターンによってデジタル情報を表現している。そのくぼみをピットといい、そのピットのない部分をランドといってね、ランドの部分に当ったレーザー光は反射してそのまま戻ってくるんだが、ピットがある部分に当ったレーザー光はランドからの反射波と1/2波長の位相差をもつため干渉して打ち消しあい暗くなる。この明暗によりデジタル信号を読み取り、これをアナログ信号に戻す。この一連の作業をCDプレーヤーは瞬時に行ってさまざまな音を出力する仕組みなんだ。そしてDVD はさらにそこに映像も伴う。わかるかい?」

「え、ええ。なんとなくわかったような、わからないような…」

さらにベルナーは話し続けた。

「ところで、そのコーヒーカップは実物に近い触感がある。だから、触っているように思えるんだよ。この世界は3Dのイメージの世界らしい。そして我々の頭の中には、膨大な記憶がある。これらを思い出すのも記憶するのも、脳内では微弱な電気を発して神経細胞によって伝達される。その微弱な電気をこの世界ではキャッチして信じられない速さの処理で具現化しているようなんだ。この『Dreamland』には我々や生きとし生けるものの意識が集まってくる。意識には記憶が伴う。というより、意識もまた微弱な電気信号で伝えることができるものなんだよ。だから、基本的には意識も記憶も脳内では同じ処理で再生されるんだ。わかるかい?」

「ええ、なんとなくね…。でも記憶は人によって様々でしょ? なんでこの世界が誰の目にも同じに見えるわけ?」

「それはまだ、はっきりとはわからないが、おそらく我々生命の共通の認識やこの世界を創ったものの関与から出来上がったんじゃないかと思う。『杉の木』はこんな形で幹に触るとゴツゴツしているとか、そのコーヒーカップは白くて、表面は滑らかでツルッとしているなど。これらは我々の経験による記憶から想像できる。それを意識したときに瞬時にそこに現れ、触るとその触った感触が思い出される。そして触ったときの指先の感触が神経組織によって、脳に伝わる。その伝わったときのシグナルが、脳内で記憶されているから、触れて嫌なものには事前に触りたくないと思うんだ。だから、このコーヒーカップの様相から触れるとこんな感じだということが想像できて、そのときの微弱な電気信号がこの世界では処理され、あたかも触ったかのように、さらには食べたかのように感じられる。全てが現実の世界にかなり忠実に再現されるんだ。しかし、それでも実際の世界とここでの感じ方はやはりどこか微妙に違う。だからこの場所が『Dreamland』だとわかるわけなんだが――シルビア、私の話についてきてるかね?」

「え、ええ。たぶん…ね。ところでヒロシも今のこと全て理解してるの?」

「理解どころか、この結論はさっきのヒロシの話抜きには、たどり着けなかった結論なんだよ」


 再び昨夜に―― 

 「ヒロシ、このままじゃあ、シルビアは町の外に出ちゃうよ。いいの? こんな夜に大丈夫?」コロがシルビアを心配していた。あたりは月も出ていなく、明かりと言えば家々の窓からの明かりだけだった。

「ああ。目を離さない限りはね。シルビアが一体どこに行こうとしてるのか確かめたいんだ」

「この距離ならいざとなれば、あっという間にそばまで走れるしね」

「そういうこと。それに、シルビアが誰かに操られているとしたら、それが誰なのかこの目で見ておきたい」

 シルビアが村の門を出て、すでに20分ほど歩いた。前方に林があった。シルビアはその中に入っていった。


 再びクルミたち――

 「イタリアン・ピッツアってシンプルだけれど…」

「おいしいでしょ?」

「うん。ソーセージもサラミもチキンも上にのってないのにね」

「本場のイタリアン・ピッツアってけっこうシンプルなのよ」

 二人はサパーが終わると再びクルミのバイクで出発をした。

 まもなくクルミのバイクは、昼間の館に着いた。

「さすがに、誰もいないね」

リョウは周囲を見回した。するとクルミがジャケットからサングラスをとりだした。

「夜なのにサングラス?」

「リョウちゃんのもあるわよ。かけて」

「へぇ、レイ・バンだ。でも、これ偽物だね」

「そうよ。でも本物よりもこちらのほうがずっと性能がいいわよ」

するとリョウもサングラスをかけた。

「へぇ、すごい、これ。夜なのに明るく見えるよ」

「赤外線暗視スコープが機能しているからよ。それじゃあ、次はサングラスの右のスイッチをONにしてみて」

「これのこと? アッ!」

「赤外線だけじゃなく、可視光線以外のあらゆる光線もとらえるの」

「あの緑の光って?」

「おそらく監視用でしょうね」

その光は、ゲートから庭に玄関まで縦横無尽に動き回っていた。

「ここから入るのはネズミでも無理みたいだね」

「そのようね」

「でも南側は断崖になってるし…」

「その南側に回ってみましょう」クルミはi-phoneをとりだした。

「南側の断崖の下は幸いにも砂浜が少しだけれどあるわ」

「もしかして、その断崖からはい上るの?」

「まさか!? もっと楽な方法でよ」


 一方ヒロシたちは――

 「あの林の中に一体何があるっていうんだ」ヒロシたちは先ほどからずっとシルビアの後をつけていた。

「ヒロシ、何か危険な感じがさっきからしてきてるよ。それにかすかに匂うんだ…」コロが鼻を鳴らしていた。心配そうな表情だった。

「それはなんの臭いだい?」

「今まで一度も嗅いだことがない臭いだけれど、獣のような臭いと腐臭がまざったものの臭いと妖しい甘い香りのするものがこの先にいくつかいるようだよ。正直こんな変な臭いは嗅ぎたくないよ。それにこの臭いはきっと人間には酔うかもしれない…そのうちヒロシにもわかると思うけれど…」

「そうか…ハンカチでも持ってくれば良かったな…といってもここドリームランドには何も持ってきてないからな」

「そうなの? でもさっきボクはヒロシからオール・レーズンもらったよ。それに今だってヒロシの臭いのついた布切れがヒロシのジャケットの左のポケットにあるのが匂いでわかるよ」

そう言われてヒロシはそのポケットに手を突っ込んだ。すると、たしかにそこにハンカチがあった。それどころか、ヒロシのいつものリュックをヒロシはいつの間にか右肩に背負っていた。

「どうなってるんだ? たしか、ここに来たときは手ぶらだったはずなんだ…」

「ヒロシ、ここはドリームランドだからだよ。きっとヒロシが必要に思ったから現れたんだよ。だから、僕ともこうして会えたんじゃない?」

「必要に思ったから…そうか、ここではイメージの再現ができるんだった。だったら7つ道具もこのリュックに入っているはずだ」

「7つ道具?」

「そう、旅の必需品のことさ」


 再びクルミとリョウ――

 クルミとリョウは今、先ほどの館の南側の断崖下の砂浜にいた。

「すごいところに建てたんだね。これじゃあ、絶対にここからじゃ上って入るなんて誰も考えないだろうな…」

「ということは、こちら側なら表からよりも警戒が甘くなってるんじゃないかしら?」

「でも、どうやってここから上まで上がっていくのさ?」

「リョウちゃん、私のバイクの左後ろのレザーバッグから1フィートぐらいのケースをとってくれない?」

「あいよ」

するとリョウはそのレザーバッグの中から言われたものを見つけた。

「見た目よりもこれちょっと重いね」

「そうかもね。人を乗せて使うものだから、頑丈じゃなくっちゃね」

「これに人が乗るの?」

「そうよ」

「こんなに小さいのに?」

「折りたたんであるからよ」

 クルミはソフトケースを外して、その四角いボードの裏のストッパーを外すと、対角線に従って折れていた部分を広げた。すると大きさは2フィート四方になった。

「リョウちゃん。私の後ろにいて」

「うん…わかったよ」

するとクルミがそのボードの側面のメイン・スイッチを入れた。そしてそのボードを手から離すと、そのボードは地面に向かって落ちていったが、地上から20cmあたりのところで止まり、浮かんだ。

「クルミちゃん。これ何なの?」

「リフターよ」

「リフターって?」

「ゴメンネ。リョウちゃん。今は説明してる暇がないの…。それよりもねぇ…私に抱きついて」

「えっ!? な、なんで、急に…そんなこと、お、おいらそんなこと急に言われたって、心の準備が…」

「いいから、早く。じゃないとここに一人おいていっちゃうわよ」

「そんなのやだよ」

「じゃ、早く私に抱きついて!」

「う、うん。わかったよ。」

「リョウちゃん、もっとよ! もっとピッタリ私の体にくっついて。わかった?」

「う、うん…こう?」

「そうよ。…アッ、そこはダメ。そこは触らないで…」

するとクルミはそのリフターにそっと乗った。そして右手に持っていたリモコンを操作するとリフターは垂直に音もなくすーっと上がっていった。


   13話目につづく…


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