転落
「お前、最近どう?」
少年が少女に問う。
「どうって何が?」
少女が少年に問い返す。
「そんなもん決まってんだろ。アレだよ」
少女は少年が何の話をしているのかわかったようだ。
「あー、うん。まぁ」
「足りなくなったらいつでも言えよ」
少女は少年の顔を見ずにうなずいた。
少年はニヤリと笑う。
「俺さぁ、最近ふかすだけじゃダメなんだよね」
少女の顔が引きつる。
「あんた、もしかしてポンプでやってんの?」
少年の笑顔が広がる。
それが答えのようだ。
「お前もやる?」
「いい。あたしは今のまんまがトべるから」
「ふぅん。針いっぱいあるから、やりたくなったら言えよ」
「うん…」
少年は少女の目の前で注射器を取り出し、慣れた様子で自分の左腕に迷うことなく打った。
中のモノを全て注入し終えると、空を仰ぎ、薄く白目をむいて気持ちよさげに息を吐いた。
「マジ最高…」
少女はそんな少年の様子を見て複雑な表情を見せた。
「ねぇ」
少女が少年を呼んだ。
「何だよ」
少年が返事をする。
「あんた将来どうすんの?学校行ってなくて、働いてもいない。このままだと墜ちるだけだよ」
少年はまた少し笑った。
「お前も似たようなもんだろ。
一応学校は行ってるみてぇだけど、お前なんか俺と一緒で誰からも相手にされない。
俺たちに将来なんてねぇんだよ。
だからさ、ずっと俺と一緒にいろよ」
少女は返事が出来なかった。
少年とずっと一緒にいる気なんてなかったから。
「お前、自分だけ抜けようとしてるわけ?」
少女はまだ何も言わない。
「何なんだよ!」
「だって…」
少女は何かを言いかけ途中でやめてしまった。
「だって…何だよ」
「だって…あんた、ヤクザとつながってるんでしょ?」
少年が目をそらした。
「知らねぇよ」
少年は否定したが、少女にはそれがウソだとわかっていた。
「だったら何で目そらすんだよ。
あたしが知らないとでも思ってたの?
ずいぶん前から知ってるよ。
岩佐木組でしょ?
あそこはマジヤバいから、切った方がいい」
「なんでお前にそんな事言われなきゃなんねぇんだよ!!」
少年がキレた。
だが、少女はそれ以上にキレた。
「たまにはあたしの言うこと聞けよ!!
お前の事心配してやってんだろ!!
岩佐木はなぁ、もう警察に目付けられてんだよ!!
お前、出入りしててなんでわかんねぇんだ!
バカか!」
少年は少女の剣幕に驚いていた。
「お前…なんで岩佐木組にサツが張ってるって知ってるんだよ」
少女はその理由を言いたくないようだ。
しかし、少年はジッと見つめている。
「わかった、言うよ…」
少女は少年の視線に勝てなかった。
「あたしのオヤジ…警察なんだ」
「マジ…かよ…」
少女はうなずく。
少年は驚いて何も言えない。
「だからさ、ヤクザには関わらないで。あんたはパクられてほしくないんだよ」
「わかった…」
少年は少女の前からゆっくりと立ち去っていった。