恍惚
「あ〜なんか、ヤバい。俺、今なら何でも出来る〜」
少年の目は明らかにおかしかった。
恍惚そのものの様に見える。
少年の周りにはオレンジシュースが水たまりのように広がっていた。
それをじっと見ている少女の目もまた何かがおかしい。
「お前、今どんな感じ?」
少年が少女に聞く。
「気持ちいい…」
少女のその答えに満足したのか、少年はうつろな目のままニヤリと笑った。
「やってよかっただろ?」
少年は少女の肩に腕をまわした。
「うん」
「お前は…もう俺の物だよ」
少女は何も言わない。
ただ空を見上げていた。星も出ていない都会の汚れた夜空を見上げていた。
「ねぇ」
少女が不意に口を開いた。
「あ?」
少年は少しめんどくさそうに答える。
「いつからやってんの?」
「だいぶ前」
「だいぶ前っていつ?」
「さぁ…覚えてねぇよ」
「ふぅん」
少女は少年の顔を一瞬見て、また空に目を戻した。
生暖かい何かが少女の唇に触れた。
目を開けると、すぐ近くに少年の顔があった。
ここは学校だった。
8月の真夜中の学校の屋上。
もちろん誰もいない。
「外だから…」
少女が言う。
「誰もいねぇよ」
少年が少女の言葉を打ち消す。
まだ了承を得ていないにも関わらず、少年の手はスルスルと少女のTシャツの中に入っていく。
それでも少女は空を見上げていた。