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真実

やがて救急車が到着した。






「代わります!」






救急隊員があたしに言った。




救急隊員の心臓マッサージの手つきはあたしのぎこちない手つきとは大違いだ。




あたしとユウリも救急車に乗り込み、コウスケと共に病院へと向かった。




救急隊員が必死でコウスケを蘇生させようとしてくれている中で、あたしもユウリもただコウスケの名前を呼び続ける事と、いるかいないかわからない存在に祈る事しかできない。




それがもどかしくて仕方なかった。













「コウスケ…コウスケ…」













あたしが力のない声でつぶやいていると、ユウリがあたしの手を握ってくれた。




『大丈夫。コウスケは絶対に死なない』




ユウリの手から体温と一緒に伝わってきた言葉。




あたしもユウリの手を握り返した。



「動いた…」












救急隊員がホッとしたのが背中でわかった。




彼はあたしたちににっこり笑いかけると、そっとその場所をあたしに譲ってくれた。




コウスケの心臓に耳を当ててみる。
















トクトク…















動いてる…




ちゃんとコウスケの音が聞こえる。




頬に触れると、コウスケの体温をしっかりと感じた。




少し赤みもさしている。












生きてる…









生きてる…












「よかった…」






隣でユウリがつぶやいた。




今度はあたしがユウリの手をとる番。




『ありがとう』





ユウリはあたしの目を見て、コクリとうなずいた。




ちゃんと伝わったみたいだ。



病院に着くと、すぐにコウスケはストレッチャーに乗せられ、手術室に運ばれた。




一度止まった心臓は動いたけれど、まだ安心は出来ない。




あたしたちはまた祈った。




待合室のイスに座っていても、あたしもユウリも言葉を発しなかった。




ただしっかりと手をつないでいた。










そのままどんどん時間がたち、8時間後。




手術室の自動ドアが開いた。




そこから緑色の手術着を身にまとった医者と看護士が出てくる。




「つきそいの方ですか?」



「はい…」




医者はマスクを外し、ニッコリと笑った。




「もう大丈夫ですよ」




医者の心のこもった言葉に心底安心した。




「ありがとう…ございます…」



「彼の命を救ったのは私じゃなく、あなたですよ」



「え…?」



「あなたの心臓マッサージがなかったら助からなかったかもしれない。あなたの彼を助けたいという気持ちが彼を救ったんです」




医者はそう言って、病院の長い廊下を歩き始めた。



「心臓マッサージなんてどこで習ったの?」




ユウリの表情は明るかった。




ユウリはコウスケの心配をしながらもあたしを気遣ってくれていた。




なんて優しい子なんだろう…




今まで誤解していた事をすごく申し訳なく思った。




「車の教習所と、アラタ…徳沢先生が、いつか役に立つかもしれないって教えてくれたんだ」



「あぁ、なるほど」




ユウリはあたしに笑顔を向けた。




この子の笑った顔をもっと早く見たかった。




「ねぇ、ユウリ」



「ん?」



「あたし…あんたをずっと疑ってた…」




あたしはユウリに頭を下げた。



すると、ユウリが笑顔のままあたしの目を下から覗き込んだ。















「それでいいんだよ」
















ユウリのこの意味深な発言が理解出来ない。



「どういう意味?」










「あたしに疑いがかかればいいと思ってた。ツバキがやったってバレなければいいと思ってたんだ」









ユウリは穏やかな表情を変えないで言った。




「どうして…?」




「だってあの子がやったのはいやがらせとかのレベルじゃないじゃん。ほとんど犯罪だし。だから守ってあげないと」



「守る…?」



「友達だもん。当たり前でしょ?」



「でも…どうしてツバキに逆らわなかったの?あんたはなんにも悪い事してないじゃん。友達…だから?」



「ツバキの辛さを分けてほしかったから。



ツバキは自分が脅してるからあたしが言うこと聞いてるんだって思ってたみたいだけど」




「脅されてたの?」





「あんたの父親を警察に売るって。



自分も売春で捕まるだろうけどそれでもいいからって。



でもあたしは父親よりもツバキが捕まる方が嫌だった。



父親なんてむしろ捕まるべきだと思ってるけど、ツバキは何も悪くない」






この子は…






どんな人間も憎まずに愛せる女神のような子だ。



「もしかして…あの日あたしのマンションにいたのも、授業中にあたしにカラんできたのも全部…?」




ユウリはニッコリ笑っただけで何も言わなかった。




マンションでユウリの姿を目撃した時…




あれはわざとだったんだ。




ツバキを追いかけてきたのでも、カメラを取り外しにきたのでもない。




わざとあたしに自分の姿を見せて、自分に疑いがかかるようにしていたんだ。




授業中の態度も、いつかツバキがあたしに何かするだろうとわかっていて先手を打っていたに違いなかった。




公園からツバキが走り去った後ユウリが泣いていたのは、ツバキを守り切れなかった事が悔しくて、辛かったからなのかもしれない…


「でも…」






あたしが自分の愚かさに愕然としていると、ユウリが口を開いた。




「授業中のあたしの態度はツバキの為だけじゃないんだ」




「他にも理由があるの?」




ユウリはあたしの目をじっと見つめた。




あたしを見つめるユウリの顔があまりにも美しくて息が苦しくなった。










女神…











「昔の先生に戻ってほしかった。



7年ぶりに再会した先生は…



なんか普通の大人になってて、それが嫌だったんだ。



7年前初めて会った時のあのたくましい先生に戻ってほしかった。



だからわざと怒らせようと思って…。



ごめんね。



嫌な気持ちにさせたよね」







ユウリなら、この腐った世界を変えられるような気さえした。




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