表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

落ちこぼれ天使の結末

作者: 鳥無し

 その天使は落ちこぼれだった。他の天使達にできることがことごとくできない。その天使の力は、生まれたばかりの天使にすら劣るものだった。

 ある日その天使は大きな失敗をしてしまった。天使は必死に謝ったが、主人である神は許しくれず、天上世界から人間世界へと天使を追放した。

 天使は不安だった。天使が人間世界に追放された前例などない。天使は人間界につくと周りを見回した。どうやらここは田舎らしい。山と森に囲まれて、遠くの方に村が見える。とりあえずあの町まで行ってみようと、天使はとぼとぼ歩き始めた。

 天使が村に着くと何人か村人達が地面に座り込んでいた。村人達は天使を見て一瞬驚いたが、すぐに視線を地面に移してため息をついた。てっきり迫害されるのではないかと思っていた天使は少し安心した。しかし、ここまで反応が無いのはおかしい。よく見れば、村人たちすべてに元気がない。

「どうかしたのですか?」

 天使は思い切って村人に声をかけてみた。

「最近日照りが続いて作物が腐りかけているんだ。雨乞いをしても雨が降る気配が全くない。このままでは村はおしまいだ」

 天使が村の畑を見ると、地面は干からびて日々が入っていた。天使は村人達を助けることはできないだろうかと考えた。

(弱い雨くらいなら降らせることができる)

 天使はそう考えて、空に舞い上がり歌を歌い始めた。やがて空に雨雲がかかり、弱い雨が降り始めた。雨が降っている範囲は村だけだったが、それだけ降ってくれれば十分だ。村人達は雨が降り始めたことに歓喜して、空にいる天使に礼を言った。

 天使はこの村に住むことになった。天使は自分にできる仕事を探して働いた。自分には大した力はなかったから、完全に世話になることが受け入れられなかったのだ。

 天使に嵐を鎮めることはできない。天使にできるのは雷に怯える子どもを抱きしめてやることくらい。天使に不治の病を治すことはできない。天使にできるのは転んですりむいた傷を治すことくらい。

 しかし、それらは村人達の心を癒した。いつしか村人達は天使のことを、女神と呼ぶようになった。天使は「自分は女神と呼べるほど力を持っていない」と謙遜しながらも、満更でもない様子だった。

 ある日、天使が山から山菜を取って村に帰る途中、突然空が割れて神が現れた。天使は慌てて山菜を投げ出して地面に跪く。

「お前、天上世界で私に無礼を働いたことに飽き足らず、地上世界では私に変わって神になろうとしているらしいな」

「そのようなことは恐ろしいことは考えたこともありません!何を根拠にそう思われるのですか!」

 あたりに雷の音が鳴り響く。神は怒っているようだった。

「力を振りかざし、自分のことを女神と呼ばせて、崇めさせているそうではないか」

「まさか! 村人の方達が勝手にそう呼んでいるだけです。いえ、本当に私を女神と思っているのではなく、力の弱い私をからかうためにそう呼んでいるだけです」

「ではなぜ人間達は神社を壊したのだ!」

 村の近くの山に、小さな神社があることは天使も知っていた。その神社が自分の元主を祭っている物だということも。

「こ……壊されていたのですか?何かの間違いではなく?」

「お前が人間界に落とされたことを恨んで壊させたのだろう?」

「そんなことはありません! 本当に壊されているというなら、すぐに直させますのでお許しを!」

 天使は必死にそう訴えた。天上世界から追放された日と同じように……。

「ならん! 村に神罰を下し、村人達はみな地獄に落としてやる!」

「それは……それだけはどうか!村人達はみな善人です。御慈悲をください!」

 神は少し考えてから口を開いた。

「ならばお前が代わりに罰を受けるか? 村人全員分の苦しみを一人で背負うというなら村人達は許してやろう」

「やります!」

 天使は即答した。それが神には意外だった。

「迷いもしないのか?」

「私は落ちこぼれです。人と比べたってできないことが多くあります。しかし、村人の人たちはこんな私を受け入れてくれました。ならば、これがせめてもの恩返しになるでしょう……」

 天使は地面に頭を付けたままそう言った。神が沈黙していると、神の体に石が投げられた。

「誰だ?」

 神の声に、天使が頭をあげて後ろを振り向くと、村人達が神に向かって石を投げていた。

「出ていけ!役立たずの神め!」

 村長が石を投げた。

「お前が俺たちに何をしてくれた? 日照り続きの時に助けてくれたのはお前ではない」

 農夫が石を投げた。

「天使のお姉ちゃんをイジメるな!」

 子供達でさえ石を投げた。

 それを見て天使は青ざめる。

「あなた達やめなさい! ああ、神様どうかお許しを! 罰は私がすべてお受けしますから!」

 天使は再び跪いて謝った。それを見下ろして神が呟いた。

「人間は正直だな」

「は……?」

 天使が顔をあげると、神は寂しげな表情を浮かべていた。

 神はそのまま空に昇って行き、二度と現れなかった。結局村にも天使にも罰は下されず、村人と天使は末永く幸せに暮らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
   ↑一言感想歓迎
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ