幸運の加速
佐藤政孝、38歳。
朝6時、いつもの寝台。
昨日の「ピコン!」は大学生からのメッセージだった。「こんばんは!この間は本当にありがとうございました♡
あらためまして、私は関口華恋っていいます♡
今度お礼にカフェ行きましょ? いつ空いてますか?」
政孝は寝台で固まる。
心臓が鳴る。
返信を震える手で打つ。
「空いてる日なら…いつでも…」すぐに返事。
「やった! 明後日の午後どうですか?
場所は私が決めますね♡」
政孝はスマホを握りしめて仰向けになる。
「女の子と遊びてぇなぁ……
本気で……叶いそうじゃん……」でも思う。
こんなに都合よくいくはずない。
なんか、変だな。パンかじる。
エナジードリンク一気飲み。
エンジンかける。
バックして道の駅を出る。今日のルートは九州方面。
距離は600km超え。
家には帰れない。納品先の倉庫に到着。
初見の場所だ。
受付に女性がいる。
政孝は伝票を差し出して、
顔を上げた瞬間、固まる。
昨日荷物を拾ったOLっぽい女性が、そこにいた。
女性も政孝を見て、目を丸くする。
「あ……! あのときの!?」政孝は伝票を握りしめる。
「え……ここ勤め先だったんですか……?」
女性は笑顔になって、「はい!
この間はプライベートで買い物してて荷物落として……
まさか今日の納品でまた会えるなんて!」
政孝は言葉に詰まる。
「偶然が……重なりすぎて……」
女性は伝票にサインしながら、「本当にありがとうございました。
あの後、おかげで無事に帰れましたよ」
政孝は荷下ろしをしながら、
頭が回らない。荷下ろしが終わって、伝票を受け取る時、
女性が小声で、「実は……お礼したくて。
今、休憩時間なんですけど、
近くの自動販売機でコーヒーご馳走させてください!」
政孝はびっくりする。
「いや、そんな……」
女性は笑って、「いいんです! 5分だけです。
一緒に飲みましょう」
政孝は断れず、倉庫の外の自動販売機へ。
女性がコーヒーを買って渡してくれる。
「本当に助かりました。
あなたみたいな親切な人、珍しいですよ」
政孝はコーヒーを受け取りながら、「いや、たまたまですよ……」
女性は少し照れて、「また来る時は連絡ください!私、秋山美咲っていいます。
休憩時間合わせるので、
またコーヒーご馳走させてくださいね!」
政孝はスマホを取り出して、
震える手で連絡先を交換する。
女性は笑顔で手を振って、倉庫に戻っていく。政孝はトラックに戻って、
残りのコーヒーを飲む。
味がしない。
「あーゆー子と遊びてぇなぁ……
昨日も今日も……
納品先でまで……連絡先交換しちまったな。夢みたいだ」
寝台に体を滑り込ませる。
今日、何が起きた?大学生からデートのお誘い。
初見の納品先で、この間助けた女性が受付だった。
休憩時間にコーヒーご馳走されて、連絡先交換。
仕事のルートが、幸運のルートに変わってる。「……明日も、いいことありますように」と祈り。
でも、もう祈りじゃなくて、
期待に変わり始めていた。
「女の子と遊びてぇなぁ……
本気で……
遊びてぇ……」目を閉じる。
幸運が、加速し始めていた。




