小さな幸運
佐藤政孝、38歳。
朝6時、いつもの寝台。天井はいつもと同じ。
でも、空気が少し違う。
体が軽い気がする。パンかじる。
エナジードリンク一気飲み。
エンジンかける。
バックして道の駅を出る。今日のルートは関東近郊の短め配送。
距離は200kmくらい。
珍しく早く終わりそうだけど、家には帰れない。だって…このあとまた九州まで走らなきゃだからだ…
走りながら、昨日までのことを思い出す。
道を教えた女の子。
荷物を拾った女性。
どちらも「優しい」って言われた。
胸のざわつきが、消えない。
サービスエリアに寄る。
トイレ休憩してベンチに座って、タバコを吸う。ふと視線を感じて顔を上げると、
向こうの駐車場から、昨日道を教えた大学生っぽい女性が歩いてくる。
「あ……!」
女性も政孝に気づいて、目を丸くする。
「おじさん!? ここで会うなんて……!」
政孝はタバコを落としそうになる。
「え、昨日……」
女性は笑顔で近づいてきて、「この間は本当にありがとうございました!
無事に着きましたよ。
今日は友達とドライブ中で、このSA寄ったんですけど……
まさかまた会えるなんて、運がいいですね!」
政孝は戸惑う。
「偶然ですね……本当に。」
女性はスマホを取り出して
「よかったら連絡先交換しませんか?
今度お礼に何かしたいです。
また会えたのも縁だと思って」
政孝の心臓がドクンと鳴る。
「俺みたいなオッサンで……いいんですか?」
女性はくすくす笑って
「はい。
また会えて嬉しいです」
とQRコードを出す。
政孝は震える手で交換する。
女性は手を振って去っていく。
政孝はベンチに座り直して、
タバコをくわえるけど火がつかない。
「女の子と遊びてぇなぁ……
マジで……?
でも、今日は…なんか変だな」
とつぶやきながら九州へ向かう…
途中のサービスエリアで今夜は過ごす。
なんか疲れた。
寝台に体を滑り込ませる。
今日、何が起きた?昨日親切にした子が、
全く違うサービスエリアで再会した。
連絡先まで交換した。
今日は疲れが少ない。
「……明日こそ、いいことありますように」と祈り…いや、大学生と連絡先交換したわ。
「あの子と遊びてぇなぁ……
本気で……」目を閉じる。
今日、何かが大きく変わり始めた…
ピコン!LINEの着信だ。




