小さな変化
佐藤政孝、38歳。
また同じ朝が来た。
寝台から体を起こす。
腰の痛みは昨日より少しマシな気がする。
パンかじる。
エナジードリンク一気飲み。
カフェインが体を駆け巡る。
エンジンかける。
バックして道の駅を出る。
今日のルートは中部から関東へ戻る。
距離は500km弱。
まだ家には帰れない。
来週も怪しい。
高速に乗って、いつものペース。
景色は変わらない。
サービスエリアで休憩。
タバコを吸いながら、スマホを見る。
同僚からのLINEは既読スルーのまま。
親からの着信もなし。
誰も俺を待ってない。
走りながら、ふと思う。
昨日、あの女の子に道を教えた。
「優しい」って言われた。
おじさんって呼ばれたけど、悪くなかった。
少しだけ、心が温かくなった気がする。
「あーゆー女の子と遊びてぇなぁ……」呟き。
いつもより、少し声が大きい。
誰も聞いていないけど。午後、別のサービスエリアで休憩。
ベンチに座ってコーヒーを飲む。
近くで、若い女性が荷物を落として慌ててる。
買い物袋が破れて、中身が散らばる。
缶ジュースが転がっていく。
政孝は自然に立ち上がって、転がった缶を拾って女性に渡す。
「大丈夫ですか?」女性は20代半ばくらい。
OLっぽい服装。
少し慌てた顔で、「あ、すみません……ありがとうございます!」
政孝は残りの荷物を一緒に拾って、自分の手持ちの袋を用意して渡す。
「袋、破れてるからこれで持って帰ってください」
女性は深く頭を下げて、
「ご親切にありがとうございました!優しい人ですね!」と去っていく。
政孝はベンチに戻って、タバコに火をつける。「さっきの子と遊びてぇなぁ……」と呟く。
昨日も今日も、親切にしただけ。
でも、2日連続で「優しい」って言われた。
こんなこと、いつぶりだ?胸の奥が、少しだけざわつく。
違うざわつき。
家族連れを見た時とは違う。
期待みたいな、何か……。
夕方近く。
現場近くの道の駅へ。
駐車場に停めて、寝台に体を滑り込ませる。
今日はビールを飲み干して、ため息。
今日も何も大きく変わらない。
でも、何かが違う。
小さな親切が、積もってる気がする。スマホを手に取る。
ツレからのLINEはまだ未返信。
親からのメッセージもない。
誰も俺を必要としてない。でも、今日の女の子たちは、
少しだけ俺を見てくれた。「……明日こそ、いいことありますように」祈り。
いつもより、少し強く。
本気で願ってる自分がいる。「女の子と遊びてぇなぁ……
本気で、遊びてぇ……」目を閉じる。
今日も変わらない一日だった。
でも、どこかで、何かが変わり始めている。小さな変化が、静かに広がり始めていた。




