つまらない日常
佐藤政孝、38歳。
長距離トラックドライバー。
独身。
家は実家のある地方の田舎町。
今は関東〜九州のルートをメインに走ってる。
家に帰れるのは、せいぜい週に1回か2回。
それも、運行が上手く重なった時だけだ。
朝6時。
トラックのキャブ、寝台スペースの天井が目に入る。
運転席の後ろに設けられた狭いベッドエリア。
マットの上に敷いた薄い布団、少し黄ばんだ天井パネル。
何年も見てきた景色だから、もう飽き飽きしている。「……ふぅ」体を起こす。
寝台は幅が狭くて寝返りしにくいけど、足を伸ばせばなんとか横になれる。
腰が少し痛い。
いつもの痛みだ。助手席の横に置いてあるビニール袋から、昨日コンビニで買った食パンを取り出す。
賞味期限が今日まで。
中身は半分残っている。
そのままかじる。
味気ない。
隣に置いてあるエナジードリンクの缶を開けて、一気に飲む。
カフェインが体に染み渡る感覚。
これで今日もなんとか走れる。エンジンをかける。
低く唸るディーゼル音。
これもいつもの音。
ミラーを確認して、ゆっくりとバック。
道の駅の駐車場から出る。
まだ薄暗い朝の空。
他の長距離トラックも何台か停まっているけど、みんな寝静まっている。
誰も挨拶なんかしない。今日は九州方面から関東へ戻るルート。
距離は600km超え。
家? そんなの考えもしない。
今週はまだ帰れそうにない。高速道路をいつものペースで走る。
休憩はサービスエリアで。
見える景色はいつも同じ。
時々、家族連れの車が横を抜かしていく。
子供が手を振ってるのを見ると、少し胸がざわつく。サービスエリアの駐車場で休憩中の家族連れを見かける。
父親が子供を抱き上げて、何か笑わせている。
母親が弁当を広げて、楽しそう。「俺も結婚してたらこうだったんだろうな……」自然と口から言葉が漏れる。
独り言。
誰も聞いていない。少し先で休憩。
タバコをくわえて、火をつける。
窓を少し開けて煙を吐き出す。
いつもの癖だ。走っている途中で、また女の子を見かける。
今度は大学生っぽい。
サービスエリアのベンチで友達と話している。
笑顔が眩しい。「女の子と遊びてぇなぁ……」また呟く。
誰も聞いていない。夕方近く。
サービスエリアのコンビニに寄る。
エナジードリンクのストックと、明日の朝食用にパン。
レジの店員は若い女の子。
目が合うけど、何も言わない。
政孝も何も言わない。
袋に詰めて、会計を済ませる。「ありがとうございました」店員の声が機械的。
政孝は小さく頷いて店を出る。そのままいつもの道の駅へ。
駐車場にトラックを停めて、エンジンを切る。
外はもう暗い。
他の長距離トラックも数台。
みんな一人だ。キャブに戻って、寝台スペースに体を滑り込ませる。
狭いけど、慣れた。
エナジードリンクの残りを飲み干して、ため息。家に帰りたくても、帰れない。
そんな日々が続く。「……明日こそ、いいことありますように」いつもの祈り。
誰に言ってるのか、自分でもわからない。
神様なんかいないと思ってるのに、なぜか毎晩言う。「女の子と遊びてぇなぁ……」最後に呟いて、目を閉じる。
今日も何も変わらない一日だった。明日も、きっと同じだ。




